第20話 高1 ・ 12月②

時間が来てみんなで建物の外で集まると夕焼けが綺麗だった。


隣の部屋で俺と悠里と同じ目にあったのは

小笠原誠人と大塚純の二人だった。


互いあてのプレゼントがちゃんと用意されていて、

互いへの熱い思いをぶちまけたらしく、

元通りの熱々カップルに戻っていた。


なんてこった!

あの辱めがご褒美イベントだったとわ!

お陰で、周りの奴らは中てられてげっそりとしていたけど。


「じゃあ、この交差点でお別れするぞ。

プレゼント交換したカップルごとに解散だ。

金吾と悠里、誠人と純、お前らは駅とは逆方向へ向かえ!

もう、遠回りして迷子になっちまえ!

海に落ちろ!」


雄太郎が嫉妬心丸出しに宣言すると、

誠人と純は嬉しそうに肯き、手を繋いで、駅とは反対方向へ歩いて行った。


誠人たちと間を開けるため待っている間に

次々と即席カップルが消えていった。


大堀直之は卓球部の半田さんからリストバンドをもらってご機嫌になっていた。


晴子は藤原くんと最短コースで駅に向かって行った。残念!


雄太郎の相手はユイカで、薄いピンクのリップをプレゼントして、

凄く喜ばれていた。


聞かれていないのに好みの色で、しかもその相手が雄太郎!って意外性爆発だったらしい。


一方、ユイカのプレゼントはフェイスクリームで、

日焼けして肌が荒れている雄太郎に効果抜群なアイテムだった。


コイツらももしかして、互いをイメージしていたんじゃないか?


雄太郎とユイカは笑いあい、肩をぶつけ合いながら遠ざかっていって、

残っているのは俺と悠里の二人だけとなった。


「・・・じゃあ、遠回りして帰ろうか。」

「うん。・・・ねえ、少し遠いけど、向こうに大きくて、綺麗なクリスマス・ツリーがあるらしいよ。

見に行かない?」


「へ~、行こう、行こう。

あのさ、ニット帽、ありがとう。

この前、ランニングしている時、北風が冷たすぎて、耳が千切れるかと思ったんだよね。」


「よかった!でも、金吾の手袋も暖かいし、可愛いよ。」

「でも、可愛い手袋買ったって教えてくれたよね?」


「でもね、でもね、100均で買ったヤツはやっぱりちょっとね。

それに、これ、すっごく可愛いよ。ホントに嬉しい。」


褒めあいすぎて、お互いに恥ずかしくなって黙り込んでしまった。


薄暗くなって街灯が点いていた。

ただの街灯なのに、なぜだかキラキラ輝いて見えた。


嬉しくて、恥ずかしくて、話すこともできず、ただペースを合わせて歩いていた。


ちらっと悠里を見てみたら、視線がバチっとあって、互いに目をそらせた。


たくさんの飾りと電飾に飾られた大きなクリスマス・ツリーが見えた。

周りにいる大勢の人たち、カップル、家族が喜んでいた。


「おお、綺麗だね!」

「うん。来てよかったよ。綺麗だねえ。」

しばらく眺めていた。


「ねえ、写真、撮ろうよ!」

「いいね。」

「じゃあ、撮るから顔を近づけて!」

「これくらい?」

「もっと!」

二人、頭をこっつんこさせて、何枚も自撮りした。


二人の、ドキドキしている、凄い笑顔が写っていた。

「うん、笑っているね。」

「うん、嬉しそうだね。」


色んな角度から見るために、ゆっくりと1周して、いいカンジの所でまた写真を撮った。


「ねえ・・・もっと遠回りしない?」

悠里がモジモジしながらお願いしてきた。


「いいよ。港周辺を歩こうか。

・・・ねえ。今日は俺たち、カップルだよね。」

ドキドキしながら思い切って問いかけると、悠里はコクンと小さく肯いた。


「・・・じゃあさ、今日だけ、手を繋いで歩こうよ。」

心臓がバクバクしながら左手を差し出すと、


「今日だけね。」

悠里はそっと右手を差し出してきた。


繋いだ手は少し小さめで、すべすべで、温かかった。


歩き出すと互いに手がもぞもぞ動いて、恋人繋ぎになって、

幸せ度がマックスとなっていた。


「冬休みは何しているの?」

「みんなには内緒にしてね。

実はユイカと元旦から3日まで、巫女さんになって神社で

お守りとか、おみくじとか参拝者に渡すの。」


「おお!巫女さんの格好するの?」

「うん。楽しみなんだ~。」


「見に行ってもいいかな?・・・雄太郎と。」

一人で、悠里だけを見たいって言えない俺のヘタレ!


「う~ん。ユイカに相談しておくね。

じゃあ、金吾は何しているの?」


「俺は4日から6日まで、年賀状の配達バイト。

それ以外は家にいるけど、いやぁ、悠里の巫女姿、楽しみだな~!」


「ぜ~ったいに、内緒だからね!」

「大丈夫。他の奴らに見せたくないから!」

「・・・バカ!」

そっぽ向かれてしまったよ。


今晩、お姉は引っ越しを手伝ってくれた野郎どもとパーティで、

悠里のお母さんはスナックのクリスマス・イベントで家にいないらしい。


オシャレなお店は当然、予約無しでは無理だったので、

ファミレスに晩御飯を食べにいったよ。


デザートでケーキを頼んで、

せっかくだからって、互いのケーキをあ~んってして、

すっごく嬉しかったよ。すっごく恥ずかしかったけど。


ファミレスでは話が弾んでしまって、気が付けば20時を過ぎていた。

「今日は家まで送りたいんだ。」


「ありがと。」

こくんと肯く仕草がいつもより可愛い~!


また手を繋いで、電車に乗って、ずっと他愛のない話をして、

俺の駅から2つ向こうの駅で降りて、ゆっくりと10分近く歩いた。


目の前の古びたアパートを悠里が指さした。

「ここの2階なの。小汚いでしょ?」

「便利が一番だよ。駅に近いから問題ないでしょ。」


「今日はありがとうね。」

悠里から手を離されてすっごく寂しくなってしまった。


もう、大好きだ!

抱きしめて、キスしたい!


だけど・・・


やっぱり、まだ、恋人はつくれないよ・・・


怖いよ・・・


悠里もなんだか悄然としていた。

同じ気持ちなのかな?


「・・・じゃあ、よいお年を。」

「うん。よいお年を。」

お互い、固い笑顔のまま、小さく手を振りあった。


その夜、遅く。

『悠里とユイカの巫女姿が見たい!』

『いやだ』

『なんで?

知らない奴らに見せて、友達の俺たちに見せないってワケわからん。』


『五月蠅い』

『元旦は何時から何時まで働いているの?』

『22時から4時まで』


『じゃあさ、じゃあさ、終わったら初日の出見に行こうぜ!』

『初日の出見たい!天気は快晴だよ!』

『行こうよ、ユイカ!』


『しょうがないな、そんなにアタシの巫女姿が見たいのか?』

『見たい』

『見たい』

『見たい』


『じゃあ、悠里の巫女姿は?』

『見たい』

『見たい』

『(/ω\)』

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