第36話 高2 ・ 11月

11月。

我が校の文化祭は2年生だけが頑張ることになっているので、

ホームルームで我が3組の出し物を相談した。


たこ焼き屋。

お化け屋敷。

メイド喫茶。

と案が出ていた。


出来れば楽な奴がいいなって思っていたんだが、

学校のスーパーアイドルである松久保琢磨を相変わらず推している

女子が劇「白雪姫」を熱く推薦した!


いわく、「白雪姫」という題名なのだが、主役は王子さまで、

婚約者である白雪姫が毒リンゴによって眠りにつかされ、

その白雪姫を助けるために王子さまが大活躍するっていうストーリー。


松久保以外の男は内心反対だったろうが、

女子の圧倒的な支持で白雪姫に決まってしまった。


女子の登場人物は、白雪姫と悪い女王さまだけで、楽そうだし。


ちなみに、俺の心の叫び、劇には出たくね~っていうのは粉砕された。

王子を邪魔しようとして斬られる兵士Cと決められてしまったのだ!

紗季を奪った松久保にあっさりと斬られる雑魚兵士。


ひでえ!


まあ、セリフは「やあ~」って掛け声だけで、

一太刀で斬られ、前回り受け身をとって終わりだから楽なもんだった。


だけど、3度目の練習の時に、生徒会長の梅谷紘一と副会長の晴子が見学に来て、

おかしくなってしまった。


梅谷の野郎、他のクラスのくせに、イヤ~なアドバイスをしやがった。

「なあ、これってミュージカル調にしたら、松久保くんの魅力がアップするよね?」

「「「「それだ~!」」」

松久保推しの演出家たちが叫んだ!


ニヤニヤ笑いの晴子が青ざめている俺の肩を叩いた。

「どんまい!」

「うるせ~。」


★★★★★★★★★★★★★


そして、文化祭当日。


劇は午後からなので、午前中は7組のメイド喫茶を訪問した。


先週の水曜、いつもの4人でお弁当を食べるべく、7組を訪問した時。

「文化祭って、3組は白雪姫の劇をするんだろ?

金吾は何やるんだ?」


ニヤニヤしながら尋ねる雄太郎に、憮然として答えた。

「松久保王子サマを邪魔する兵士C。

サクッと斬られる雑魚だよ。」


堪えきれず、雄太郎は邪悪な笑い声をあげた。

「くくく!なあ、松久保だけじゃなく、お前も歌うんだろ?」


「見に行く、見に行く!」

同調するユイカももちろん笑みを浮かべている。邪悪なヤツな。


音痴の俺が舞台で歌うことを、心底、楽しみにしていやがる!

ほんと、似合いのカップルだよ!


向かい側では、悠里は笑いを必死でかみ殺していた。

悠里、お前もか!


「来なくていい。来るんじゃね~ぞ!」

ドスを効かせて、雄太郎、ユイカ、悠里を睨みつけた。

「「「うん、うん。」」」

三人は大人しく肯いたものの、その目はいたずらっ子のように輝いていた。

駄目だ、こりゃ。


「・・・お前らはメイド喫茶だったけ?」

「おう。なんせ、この学校の人気NO.1女子、悠里がいるからな!

客がいっぱい来て、ぼろ儲けだぜ!」

雄太郎は悠里を讃えるように両手をヒラヒラさせた。


「ちょっと、雄太郎、そんなことないんだから!

やめてよ、もう!」

悠里はプンスカ怒っていたが、その仕草が可愛かったので、

俺も両手をヒラヒラさせて、悠里を讃えた。


「こらっ、金吾も!」

ユイカもヒラヒラしていたハズなのに、俺だけ悠里から叱られてしまった。

「痛い!」

なぜだか脇腹に雄太郎の肘が食い込んだ。


解せぬ。


「あれ?ユイカと悠里が男子人気の双璧だったって言ってなかった?」


俺の問いかけに、雄太郎ががばっと食いついてきた。

「そう、1年の時はそうだったんだぜ!

でも、残念ながら、ユイカは圏外に急降下してしまったんだ・・・」

言葉とは裏腹に、雄太郎は心底嬉しそうだった。


「なぜなら、俺というカレシが出来てしまったからだ!ぎゃはははは!」

雄太郎が高笑いすると、周りの男どもから「リア充爆殺すべし!」って

視線の集中砲火を浴びてしまった。


そんなのへっちゃらな雄太郎はさらに得意げにのたまわった。

「金吾。午前中のファストパスをやるよ。

18枚しかない貴重品だ、有難く思え!

俺たちが働いているから、絶対に来いよ!」


★★★★★★★★★★★★★


というわけで、メイド喫茶が始まって10分後ぐらいに7組に着いたら、

すでに長蛇の列となっていた!凄い!


「おう、金吾!ファストパス、持ってきたか?

ああ、ごめんね。こいつ、割り込ませてね。」


雄太郎が如才なく列を差配していて、

並んでいる奴らの恨みがましい目を横目に最前列に割り込ませてもらった。

ファストパス、最高!


「はい、次の方、どうぞ~!」

ニヤついている男子が7組から出ていくと呼び声がかかった。


「おい、金吾、ユイカをじろじろ見るんじゃないぞ!」

「舐めまわすように見てやるぜ!」

「死ね!」


雄太郎に肩を殴られて、教室に入ると

「「「お帰りなさいませ、ご主人さま!にゃん!」」」

気取ったカンジの可愛らしい女子たちの声が響いた。


悠里とユイカが笑顔で手を振ってくれていた。

そのメイド服は白と赤を基調にした可愛らしいもので、

さらに、カチューシャは可愛い猫耳だった。


スカートは膝上まであり、エロさはあんまりなかったけど、

すっごく可愛い!


「小谷さん、よろしく!」

「うん?」


悠里とユイカ、もう一人の女子が待機していたのだが、

よりによって、知らない女子小谷さんが俺の担当となった。

その差配をしたのは生徒会長梅谷紘一だった!


おのれ!


「こちらへどうぞ~、にゃん。」

小谷さんはにこやかに案内してくれた。


「コーラ、お願いします。」

「かしこまりました。にゃん!

・・・ごめんね、梅谷くんがイジワルして。」


小谷さんは去り際にこっそりと謝ってくれた。

ええ子やぁ~。


1度だけ、全メイドさんが回ってきてくれるのだが、

ある男があるメイドさん(彼女らしい)に了解を得て、写真を撮っていた。


だから、悠里が回ってきたときに、頼んでみた。

「写真、撮っていい?」


お願いって両手を合わせたら、悠里は少し困ってから小さく肯いた。

「・・・いいよ。」

「ありが」

「そこ、写真禁止って書いてあるだろう!」

にやけている俺に、生徒会長梅谷紘一の厳しい注意が飛んできた。


ぐぬぬ~!


確かに雄太郎にもダメって言われていたし、

壁に何枚も「写真禁止!」って張り紙があるんだよな~。


無念・・・


がっくりきて、すぐに出ていく時間となってしまった。


悠里とユイカに小さく手を振って出ていくと、すぐにスマホが震えた。

「バカ!」

「スケベ!」


悠里から罵声が届いた。反省!


うん?

下の方に何かある?


スクロールしていくと写真が添付されていた。

可愛らしい猫のポーズをとって、恥ずかしそうな悠里の写真が。


「うおおぉぉぉ!」

ざまぁ!梅谷!


「お替りを!横と後ろ姿、プリーズ!」

ニヤニヤしながら送信したら、すぐ、返事が返ってきた。


「変態!」

罵声だけだったよ・・・


しばらく、追加で写真がこないか待ったけど、

来なかったので、長い謝罪文を送ったよ・・・


★★★★★★★★★★★★★


客席は結構埋まっていた。

主役が松久保だって広くPRしたので、やはり女子が圧倒的に多い。

見やすい席には生徒会長の梅谷紘一、悠里、ユイカ、雄太郎が並んで座っていた。


そして、白雪姫と王子さまのイチャイチャパートから始まり、

女王による白雪姫の毒殺計画が動き出し、白雪姫が長い眠りについた。


そして、自分の国に戻っていた王子さまが、

白雪姫が長い眠りについたことを知って、

白雪姫を取り戻すために動き出した。


松久保の歌声、キレッキレのダンスに、観客の女子たちの黄色い声が飛び交っていた。

夜木紗季っていう彼女といつもイチャイチャしているのに、この人気って凄いわ。


そして、いよいよ俺の出番。

兵士ABとセットで登場し、白雪姫の元へ行こうとする王子を妨害する。

「女王さま~♪」

「王子を倒します~♪」

「し~んぱい、ないさ~♪!」


やっぱりギャグも音も外れて、女子のバカにした笑いが聞こえて凹んでしまった。


そして、王子さまが優雅に踊りながら、俺たちを一太刀で切り殺すと、

またまた黄色い声援が飛んでいた。


舞台からはけるとき、チラッと見てみたら、

ニヤニヤ顔の梅谷が、苦笑いの悠里に話しかけていた。


ちっくしょ~!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る