第35話 高2 ・ 10月

須藤 雄太郎


10月。


話が途切れてしまうと、ユイカが突然口調を変えた。

「第3回、悠里と金吾をどうやってくっつけるか会議~、ぱふぱふ!」


「え~。もういいだろ?もう放っておこうぜ。」

ちなみに、第1回はゴールデンウィーク前に開催され、

廃線ウォーキングが実施された。


表テーマは、金吾と悠里に俺たちのイチャイチャを見せつけ、羨ましがらせるってことで、裏テーマは、俺たちが初めて知人の前でイチャつくってことだった。


第2回は夏休み前に開催され、1年前の同じようにロッジでのお泊り会が実施された。


テーマは、肝試しで、恐怖で物理的にくっついてしまったカップルが、

精神的にもくっついてしまうってことだった。


でもさ、アイツらが恋人になっていたら、二人っきりでロッジを借りて、

もう、朝までくんずほぐれつを楽しめたんだぜ?

「痛い!」

「スケベ!」

顔を真っ赤に染めたユイカにチョップを食らった。


「あれ?口に出てた?」

「表情に出てた!」

「マジか!」


ユイカは顔を左右に振って、気分を切り替えた。

「・・・今回が最後。

今回のお題は「NTR?BSS?脳が破壊される前に、口説くんだ!作戦よ!」


ユイカはハイテンションなったけど、???しか頭に浮かばない。

「えっと、NTR?BSS?なにそれ?美味しいの?」


にんまりと悪い笑顔を浮かべてから、ユイカが解説し始めた。

「梅谷紘一を呼んで、梅谷の得意なもので遊ぶの。

で、梅谷のかっこいい姿と、梅谷が悠里に言い寄る姿を見て、

金吾が慌てふためくの!

悠里が奪われる!俺の方が先に好きだったのに!って。

そうなったら、流石にもう告白しちゃうでしょ。」


「天才か!

最高におも・・・いい作戦だぜ、それ~!」


「でしょ、でしょ?最高におも・・・いい作戦だよね?」

誰も聞いていないのに、面白いっていうのは止めておいた。


「ああ。

うん?でもさ、梅谷の方が成績いいし、背が高いし、生徒会長だし、

普通に金吾よりスペック高いじゃん!

マジで、奪われちゃうんじゃ・・・」


金吾がまた不幸になるんじゃって不安になったけど、

ユイカはびくとも揺るがず、あっさりと答えた。


「それはそれで、いいでしょ。」

「いいんだ!」


「うん。まあ、その時は?晴子が金吾を慰めて、ぱくって食べてくれるって!」

「マジ、天才だ!

完璧だ!面白い上に、アフターケアまで万全だ!」


しまった!面白いって言っちまったぜ!

まあ、ユイカしかいないからいいけどよ!


二人して大笑いしたあと、ユイカが不安げな顔をした。

「あの二人なら大丈夫だよね?」

「大丈夫さ。お互いしか、見えてないだろ?」


「うん。必要なのは、切っ掛けだよね?」

「ああ。

たぶん、こっぴどくフラれた時に、もう恋なんてしないって誓ってさ、

それに縛られているだけだぜ。

何度も、新しい恋で上書きしろって言ったのにな。」

「ほんと、二人とも意地っ張りなんだから・・・」


★★★★★★★★★★★★★


そして、運命の日がやってきた。


ラウンドテンでボウリング勝負することになって、

俺、ユイカ、金吾、悠里、晴子そして梅谷紘一がそろったんだ。


まず、男と女で左右のレーンに別れた。


ボウリングを選んだ梅谷は流石で、ダイナミックなフォームで

綺麗なカーブを投げて、たくさんのピンを豪快に弾け飛ばしていた。


「すご~い!」

それを見た悠里は梅谷とハイタッチして称賛していた。


一方、金吾はボウリングが初めてらしく、

無様なフォームで、右に左にガターを投げていた。


「いや~、初めてってこともあるし、難しいね。

それに、球技って苦手なんだよね。」


みんなのからかいを受けて、金吾は苦笑いしていた。


よし!予定通りだ!

金吾よ、ジェラシーに燃え上がるがよい!ぬはははは!


作戦の成功を予感させるスタートに、俺とユイカは視線を合わせ、肯きあった。


その後も、誰もがストライクを出すと、みんなハイタッチで讃えていたが、

金吾の野郎だけは、ストライクを取れなかったので、少しだけ暗くなっていた。


最初、男子3人、女子3人で並んで座っていたのだが、

ユイカが投げに行ったタイミングで、晴子が金吾を呼ぶと、

ヤツは当たり前のように晴子と悠里の間に座りやがった!


そして、悠里と晴子の間に座ってからはガターでも、1本でも、

たまにスペアだしてももう勝敗なんか度外視して、

女子ときゃっきゃ言いながら低レベルの戦いを満喫していた。


そんな中、梅谷がストライクを3回続けた。

「やった!ターキーだよ!どうだい、凄いだろ!」

これまでボーリングに集中していた梅谷が、自分で猛烈にアピールした。


「すご~い!」

みんなで拍手を贈ると梅谷はまんざらでも表情を見せた。


そして、梅谷は金吾がレーンに立った瞬間に、悠里の隣に座った。

俺はユイカと視線を交わし、ニンマリと笑った。


金吾は席が奪われ、悠里が梅谷と話しているのを見ると、

仕方なく、さっきまで梅谷が座っていたところに座っていた。


面白くなってきたぞ!


って思っていたら、悠里のやつ、自分の投げる番になって、

投げ終わると金吾の隣に席を移動しやがった!


それで付き合わないなら、爆死しろ!


結局、梅谷がかっこいい姿を見せつけたのに、楽しそうだったのは金吾の方だった。

いや、マジで、試合に勝って、勝負に負けたって見せつけられたよ!


ボウリングが終わった後、思い切り金吾の尻を蹴っておいた。


次はバスケットをしたんだけど、ドリブルとかシュートとか梅谷が一番サマになっていた。

一方、金吾は球技が下手との自己申告通り、バスケも下手くそだった。


それでも、梅谷と悠里が親密になって、

金吾が泣きながらハンカチを強く咥えるシーンなんて全くなかった。


・・・面白くない!面白くないぞ!


最後に、可哀そうな梅谷を喜ばせるべく、プリクラを撮りにいった。


色んな男女ペアでプリクラを撮ったあと、さあご飯を食べに行こうぜってなったとき、5歳くらいの男の子が突然、走り出して、思いっきり転んだ!


一緒にいたおかあさんが、3歳くらいの弟くんに引っ張られて、

遠くに行ってしまったことに気づいて走り出し、コケたのだ。


金吾がさっと近づいて、穏やかな声をだした。

「凄いな、こけたのに泣かないなんて!さすが、お兄ちゃんだな!強い、強い!」


泣きそうだった男の子はぐっと顔に力を込めて立ち上がった。


「きゃ~、凄い!強いね、お兄ちゃん、流石だね~。はい、これ!」

ユイカがクレーンゲームで獲った飴ちゃんを差し出すと、

男の子はにこ~って笑って飴ちゃんを掴んだ。


「お母さんはあっちに行ったよ。」

金吾が優しく伝えると、男の子は何も言わず走って行って、お母さんに抱き着いていた。


こういうところだよな~。

また、金吾に勝てないって思わされたわ。


ユイカと考えたせっかくの企画がまたまた無駄に終わったぜ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る