第38話 高2 ・ 11月③
11月、ドキドキしながら悠里を誕生日デートに誘ってみた。
その前に、一応、雄太郎にお伺いを立ててみたら、
「ユイカの誕生日は俺だけが祝う。勝手にしやがれ!」
って怒られてしまったんだ。
悠里がひとりっきりのタイミングで、運よくすれ違うことを1週間期待したんだけど、まったくすれ違わなかった。
だから、知り合って1年半以上経って、初めて電話してみた。
超ドキドキしたよ。
『もしもし?』
『金吾?電話って初めてだよね?どうかしたの?』
『つ、次の土曜日、俺に時間をくれないか?』
『・・・ありがとう。よろしくね。』
冷や汗をたっぷりとかいたけど、喜んでくれたみたいでホッとしたよ。
で、土曜日、10時。
俺たちは水族館の前に来ていた。
「あっ!あれって・・・」
「晴子だ!・・・誰、隣の男子?ずいぶん、仲良さそうだけど。」
「よし!ユイカと雄太郎に訊いてみよう!」
スマホを取り出したら、慌てて制止された。
「だ、ダメだよ。なんで、見たんだって逆に訊かれるよ。」
「ホントだ!ヤバかった!ありがとう。
・・・でもどうしようか?」
★★★★★★★★★★★★★
須藤 雄太郎
「お待たせ!」
「ほら、あそこだよ。」
ユイカに指さされた方を見ると、水族館のかなり手前で金吾と悠里が立ち尽くしていた。
「うん?あいつら、何してんだ?」
「券売機に晴子が居るから、どうしようか悩んでいるみたい。」
「ああ、晴子のやつ、同じクラスの男子とデートなんだ。凄い偶然だな!」
「ホント!でも、晴子はあの可愛い子ちゃんを選んだんだね~。」
あ、金吾たちが動き出したぞ。
「水族館は諦めたみたいだね。・・・海辺の散歩かな?」
「晴子たちも気になるが・・・金吾たちをストーキングだ!」
「あっ、ストーキングって言っちゃった!」
「げひん、げひん。え~っと、優しく見守ろう。」
・・・デートの予定だったが、ユイカが電車で金吾と悠里を見つけてしまったので、急遽、二人をストーキング、げひん、げひん、優しく見守ることにしたんだ。
ちなみに、晴子は1年の時は同じクラスに夜木紗季、木岡ユイカ、
熊谷悠里という学校でもトップの美少女3人がいた上に、
エロ女神大塚純がいたせいで全くモテなかった。
でも、2年のクラスでは人気ナンバーワンらしく、何人かの男子と仲良くしていて、ついに可愛いタイプの男子を選んだらしい。
おめでとう!
晴子もストー・・・げひん、げひん、優しく見守りたかったが、
やはり金吾たちが優先だ。
今回は悠里の誕生日祝いだ。
今日こそ、今日こそ、告白するハズ!
金吾には、また悠里が1年に告白されたぜって伝えてやったし。
もう、いつまで待たせるんだよっていう話だぜ。
「さあ、解説のユイカさん。あの二人、海辺の散歩を選んだようですが?」
「作戦ミスですね。
デート経験の少ない相手ですから、会話が続かず、気まずくなりますよ。」
「なるほど。そうすると水族館に入れなかったのは非常に痛いですね。」
「そのとおりです。」
「水族館なら、さりげなく手を繋いだり、囁いたり出来たのですが・・・」
「告白シーンが見れたのに!」
「ええ、それを見るのが非常に!非常に厳しくなりました!」
5分ほどストー・・・げひん、げひん、様子を伺っていた。
金吾と悠里は肩の触れ合う距離感だったが、やはり会話が無くなっていた。
「やはり、会話が無くなりましたね?ユイカさん、どうすればいいでしょう?」
「手を繋ぐんです!そうすれば、話す必要がなくなり、なおかつ好意を示すことが出来る!」
「確かに!だが、あのDT野郎にはハードルが高いのでは?」
「そこです!今すぐ、蹴り・・・喝を入れたい。」
突然、金吾のヤツが、悠里に肩をワザとぶつけ、ニヤリと悠里を見つめた。
すると、悠里は怒ったフリをして、肩を軽くぶつけ返した。
少しじゃれあいながら、手は繋がず、会話もないものの、なんだか楽しそうに歩いていた。
「・・・なんだよ!あの二人!もうベテランじゃん!」
「ホントに、蹴り入れたいわ~!」
金吾たちは30分近く楽しそう歩いて、駅に吸い込まれていった。
「・・・どうする?」
もうストー・・・見守りも充分だ。飽きた。
だけど、ここには遊ぶ場所がない。
「・・・そうね。お腹がすいたから南京町でも行って食べ歩きしようか。」
金吾たちはまさかの南京町へ向かった!
なんか悔しくて目的を変えられず、結局、ストー・・・見守ることにした。
金吾と悠里は南京町をもの珍しそうに眺めながら、
小籠包、北京ダック、胡麻団子を楽しそうに立ち食いしていた。
もうどうでも良くなったので、俺たちも肉まんやラーメン、
タピオカミルクティーなんかを楽しんだぜ。
惰性で後ろをついて歩いていたら、突然、金吾たちが脇道に逸れた!
うん?ストーキングに気付かれたか?
慌てて追いかけると、その先にはサッカー部の連中が肉まんを食うべく
たむろしていて、大堀がうぇいうぇい言っていた。
くそっ、鉢合わせしたらよかったのに!
大堀に手を振って、金吾たちのストー・・・見守りを再開した。
金吾たちは後ろを気にせず、普通に歩いていた。
しかし、逃げるときくらい手を繋げばいいのに。
ホントに、根性無しだぜ!
その後しばらく歩いて、金吾たちは映画館に入っていった。
「・・・今度こそ、どうする?」
「この時期、見たいものはないのよね~」
「だな!カラオケでも行くか?」
★★★★★★★★★★★★★
カラオケを出たらもうとっぷりと日が暮れていた。
いっぱい歌ったし、晩御飯も食べたし、いっぱいイチャイチャしていたからな。
少し駅前を練り歩いていると、向こうに金吾と悠里が歩いている!
なんたる偶然!
悠里の手にはおしゃれな紙袋が下げられ、相変わらず楽しそうだ!
だけど、距離感は午前と変わっていないし、
やっぱり手を繋いでいないし、もちろん、腕を組んでもいなかった。
金吾のチキン野郎!
「ふふふ!まだ変わっていないな。
いい場所だし、こうなったら告げ口してやる!」
ユイカが悪そうな口ぶりでどこかへ電話をかけた。
ワクワクしながら待っていると、向こうのビルから派手なオバサンが
歩道に出てきて、キョロキョロしだした。
そして、金吾と悠里に見つけて両手を広げて、
嬉しそうなデカい声を出した!
「あ~、金吾クン、久しぶり~!
ありがとうね!悠里の誕生日を祝ってくれて!
アンタたち、もう恋人になったんだよね?
あ~、もう、嬉しいな~!」
悠里のお母さんか!
声がでかい!
酔っ払ってんのか?
悠里は慌てふためいていた。
「お母さん!なんで?」
付近の店員さんや通行人たちの注目を一身に浴びているが、
お母さんは全く気にせず、ハイテンションで大声を吐き続けた。
「おめでとう、悠里!ホントによかったね!
金吾クン、悠里をよろしくね~!
思う存分、イチャイチャしたらいいからね!
ああ、避妊だけは気をつけるのよ~!」
悠里は顔を真っ赤にして怒声を上げた。
「お母さん!黙って!声を小さく!もう、仕事に戻って!」
悠里の怒りをものともせず、
お母さんは店員さんや通行人たちに大きな声で話しかけた。
「みなさ~ん、この子たち、ようやく恋人になったんですよ~!
祝福してあげて~!」
店員さんや通行人の一部が「おめでとう!」ってニヤニヤしながら声をかけ、
パラパラと拍手を送った。
「いや~!」
悠里は悲鳴を上げて、金吾の手を掴むと全力で逃げ出した!
「おめでとう~!」
お母さんの声に、またまた店員さん、通行人たちはニヤニヤしていた。
「・・・ユイカ、あの人、やりすぎじゃね?」
「あんな凄い人って知らなかったの。ごめん。」
ユイカは走り去っていく悠里に聞こえない謝罪をした。
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