第6話 高1 ・ 5月④
その日の夜、須藤からラインが届いた。
『提案。三宮で神戸牛を食べに来た外国人と写真を撮って、六甲山に登ろう。
俺はケーブルカーとロープウェイに乗りたいし、有馬で温泉に浸かりたい。
お得な周遊券もあるみたいだし。イカが?』
すぐに、木岡が反応した。
『温泉(。・ω・。)ノ♡
神戸牛は男子の奢りだよね!
(人’’▽`)ありがとう☆ ゴチになりま~す!』
すかさず熊谷さんが反応した。
『うんうん!\(^_^)/』
全米が泣いた!じゃなかった、須藤が泣いた!
『(´;ω;`) ほんと、勘弁してください!』
また、ラインが届いた。熊谷さんだ。
『残念だけど、神戸牛はまた今度にして、六甲山上でお弁当はどうかな?』
周遊券は温泉付きでまあまあの値段だから、お弁当の方が財布に優しいけど、
俺はお姉と二人暮らしで、昼はいつも食堂なんだよね。
弁当、作れるかな?
お姉に頼んでみようか?
無理だ、シバかれる!
そんなことを考えていたら、木岡が反応した。
『(‘’◇’’)ゞ 天気が晴れならそれでいこうか。って、サメ、聞いてんのか?』
『(*・ω・)/ハーイ』
母親が2年前に亡くなってから、お姉と変わりばんこで朝と晩、
ご飯を作っていた。
レトルトが大活躍しているけど・・・
高校に入っての昼ご飯は通常、学校の食堂で一人寂しく食べている。
弁当なんてお姉も俺も作ったことないな。
弁当と言えば玉子焼きだけど、食べたいな、
お母さんが作ってくれた弁当に絶対に入っていた甘じょっぱい玉子焼き・・・
で、校外学習の日、自分で作った弁当はこんなカンジだった。
ご飯、ふりかけ、プチトマト、ミートボール(冷凍)、かまぼこ、以上。
料理じゃなくって、詰めただけだ。
見られないように気を付けよう!
15分前に集合場所に着いたら、須藤がスマホを睨んでいた。
さすが、乗り鉄、電車は定刻よりも遅れることがあるので、
少し前に着くのは常識だよね。
「いやあ、楽しみだな!
知っているか?
木岡と熊谷はこのクラスで1番人気、2番人気なんだぜ!
そのどころか、1年生、いや学校全体でも1番かもしれないんだぜ。」
へえ、紗季が1番人気だと思い込んでいたよ。
「ええっと、夜木さんはどうなの?同じ中学だったんだけど。」
「へえ、お前から女子の名前が出るなんてな。
確かに夜木は可愛いし、スタイル抜群だし、楽しいし、最高だけど、
大きなマイナスがあるよな。そう、松久保ってカレシがいることだ!」
須藤は大きく残念ってジェスチャーをしたあと、夢と希望に溢れる表情となった。
「だから、カレシのいない!
活発可愛い系木岡と少し陰のある綺麗系熊谷が大人気なんだよ!」
「なるほどね・・・だから、榎本たちが番号札を交換しようとしたんだな。」
「どっちを狙っているかは分かんないけど。
鮫島、ぐっじょぶ!よく、交換を防いだな!でかした!」
須藤が俺の肩をバンバンとたたいた。
集合時間ぴったりに熊谷さんと木岡が現れた。
「おはよう!」
「やっほ~!」
知的銀縁眼鏡の熊谷さんは白いシャツに水色のニット、
だぼっとしたキュロットがおしゃれで似合っていた。
一方、木岡はグレーの長袖Tシャツにフェイクレザーのベスト、
スキニージーンズがカッコよかった。
「二人とも、スポーティで可愛いし、かっこいいね。」
俺が自然に褒めると、女子二人が嬉しそうに微笑んで、
先を越された須藤が動揺していた。
「なっ、鮫島のくせに!うん、そうそう!可愛いよ!」
「鮫島、ぐっじょぶ!須藤、アウト~!」
木岡が須藤に向かって親指を立てて右手を突き出した。
「それにしても、アンタ、ぼっちのくせに女子の扱いに慣れているわね。」
「うんうん。」
紗季に厳しく指導されたこともあるけど、
「まあ、お姉に鍛えられているからね。」
「アンタってシスコンなんだ?」
「うへえ!こんな所で話していないで、さっさと外国人と写真撮ろうぜ。」
誤魔化して歩き出すと、須藤がボヤいた。
「外国人か~。俺、英会話、苦手なんだよね・・・」
俺もできるかな、大丈夫かなって思っていた時期がありました。
でも、余裕でした。楽勝でした。
だって、女子二人が外国人らしき男と目を合わせてニコッと微笑むと、
向こうから話しかけてくるんだよ!すんごい笑顔で!たちまち!
さすが、クラスNO.1、NO.2女子。すごい!
そして、女子二人がスマホを見せながら
「Picture!」
「Oh~、Yes!」
で、写真を撮る瞬間に、男子二人が躍り出て、5人で写真を撮るんだ。
もうね、だまし討ちだよ。
これをノルマである3セット。
外国人が連絡先を交換しようと女子二人に迫っていったら、
「ソーリー、ソーリー、ひげソーリー。」
と木岡がくだらないギャグを言って煙に巻いていた。
「鮫島、須藤も挑戦しなよ。」
木岡の「お前らには無理だろ?モブだもんね!」っていう
ニュアンスが含まれている口調に、
俺の負けん気が久しぶりに燃え上がったよ。
「ハーイ!」
須藤と二人、笑顔で赤髪女性に手を振ってみた!
相手の女性は何も見えなかったようにスルーしていったよ!
「キャハハハハ!」
「くっくっく!」
木岡の高笑いと、熊谷さんの我慢できなかった笑いが俺たちの敗北感をいや増したよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます