第7話 高1 ・ 5月⑤
俺たちはなんなく、外国人と写真を撮るというミッションを達成して、
意気揚々と電車、バス、ケーブルカーに乗って六甲山に登った。
展望台の1階につくと、須藤はリュックから大きなカメラを取り出した。
「せっかくなんで、写真撮ってくるわ。」
「アタシはショップを見てくるね!」
須藤が階段を駆け上がると同時に、木岡はショップに吸い込まれていった。
「じゃあ、行こうか。」
「うん。」
ゆっくりと熊谷さんと階段を上がって展望台へたどり着くと、
早くも撮影を終えた須藤とすれ違った。
「20分ほど、外を撮ってくるわ。」
「おう。」
その展望台からは初夏の青空の下、素晴らしい光景が360度、広がっていた。
特に南面は右手に淡路島、
正面に神戸港、そしてその向こうはべた凪で、
太陽の光をキラキラと反射させている大阪湾、
左手には大阪臨海部が広がっていた。
言葉もなく、しばらく見とれていた。
「・・・はあ~、凄いな。」
「うん。・・・夜景はもっともっと綺麗だろうねぇ。」
ふいに、紗季と見たかったなって思ってしまった。
くそっ、まだ、諦めきれないのか・・・
「・・・100万ドルの夜景っていうもんな。」
熊谷さんの言葉はなかった。
また、しばらくして、木岡の元気な声が聞こえた。
「お~、絶景じゃん!写真、撮ろうよ!」
そして木岡はスマホと自撮り棒を取り出し、
俺と腕を組んで、さらに顔を近づけてきた。
「おい、近づきすぎ!」
「まあまあ、鮫島、両手に花だから嬉しいだろ。
さあ、最高の笑顔で!
ほら、悠里はもっと鮫島と寄り添って!
はい、チーズ!」
何枚か連写したが、お気に入りはなかったらしい。
「あ~、ダメだ、鮫島。もっと笑えよ。
両手に花なんだぞ!」
見せてもらったスマホには、ちゃんと笑っている俺が写っているけど・・・
ちょっと固かったかな?
「まあ、両手にすごく綺麗な花だもんな!」
木岡はまじめにうんうんと肯いた。
自分で自分のことをちゃんと美少女認定しているようだ。
嫌味がないのが凄い。
「お~、さすが、鮫島、よく分かっているね~!
いくよ~、はい、チーズ!」
えへっ!
最高に大きい笑顔を浮かべてみたよ。
「鮫島、キモイ!」
「ひでえ!」
「くっくっくっく!」
木岡の理不尽な言葉に悲鳴を上げた俺、
それを見て笑いが堪えられない熊谷さんだった。
須藤も合流して、パノラマでも撮影してから、
広場でレジャーシートを敷いて弁当を食べることになった。
向かいあって食べれば、お弁当の中身がバレてしまう。
俺の弁当の中身は、ご飯、ふりかけ、プチトマト、ミートボール(冷凍)、かまぼこ。
恥ずかしいので、3人に背を向け、大阪湾を見ながら食べることにした。
「やあ、絶景だな~!」
「こらっ!」
「おい、鮫島、それはないだろう。」
「鮫島くん、一緒に食べようよ。」
3人から咎められてしまった。
「・・・はい。俺の弁当はこんなカンジで~す。」
観念して、逆にお弁当を見せびらかしたら、
3人から憐みの視線をもらってしまった。
笑ってくれよ、余計に恥ずかしいじゃないか!
「母親が2年前に亡くなったので、自分で作った、
いや、詰め込んでみました。」
「そうか・・・まあ、自分でやったのなら、大したもんだぜ。」
可哀そうにと顔に書いてある須藤が慰めてくれた。
ほんと、いい奴だよ。
暗くなってしまった雰囲気を回復するべく、木岡が楽しそうな声を出した。
「鮫島、これ、これ。」
木岡がニヤニヤと笑いながら、熊谷さんの弁当箱を指さした。
色とりどりでキラキラしていてまるで宝石箱や~
「これ、悠里が自分で作っているの。ま・い・に・ち!」
「他人のを自慢するな~!」
「いろどり鮮やかだし、美味しいのよね~!」
「だから、他人のを自慢するな~!」
木岡とふざけあっていると、
褒め殺しに合ってちょっと困っていた熊谷さんが割り込んできた。
「ねえ、せっかくだから、みんなでおかずを交換しようよ!」
「「ええ子やあぁ。」」
思わず須藤とハモッてしまった。
4人全員、おかずを半分供出し、みんなで分け分けした。
久しぶりの手作りの弁当のおかず、美味しかったよ。
熊谷さんのつくった玉子焼きは特に甘じょっぱくて美味しかった。
青空の下、気のいい仲間たちと楽しくおしゃべりしながら食べるお弁当。
ほんと最高かよ。
「ごちそうさまでした。ほんとにありがとう。美味しかったです。」
「熊谷の料理、ほんとに美味しかったよな~。」
「うむうむ。」
「だからなんで、木岡が得意げ!」
弁当を食べ終わるとロープウェイで有馬方面へ下った。
金の湯に浸かったんだけど、当然、混浴ではないから、
須藤が男どうしの、裸の付き合いを強要してきた。
「なあ、鮫島。お前、ゴールデンウィーク過ぎてから明るくなったな。
イイことあったのか?おう?
新しい恋が始まったか、おい?今日も、楽しそうだし!
どっちが好みなんだ?どうなんだ?
おしゃべりの息ぴったりな木岡か、料理の美味い熊谷か?
おい、どっちだ?」
熱めのお湯に浸かっているのに、身震いしてしまった。
「いやいやいや、恋なんてしない!しない!
そんなんじゃないんだ。
うん、ただ、立ち直るきっかけをもらったっていうカンジ。」
「そんなに否定しなくても・・・てか、面白くね~な。
だけど、当初は死ぬんじゃないかとか、イジメに合うんじゃないかとか
心配していたんだぜ。」
「そうなんだ。ほんとにありがとう。
今日も楽しいのは、須藤がペアになってくれたからで、すっごく感謝してる。」
「よせやい。そんな真面目に答えるなよ。」
「そういう須藤はどうなのさ。
恋人はいるの?」
「絶賛、募集中だぜ!」
「いや、得意げに言われてもな・・・
じゃあ、気になる人はいるの?
やっぱり木岡?熊谷さん?」
「ふふん、気になる人は、なんと、3人いま~す!」
「うわぁ・・・最低だ!」
「お前が誰にも言わなきゃいいんだよ!
で、その3人とは、木岡と熊谷、そしてテニス部の先輩で~す!」
「木岡と熊谷は止めておけよ。」
「なんだ?さっきはあんなこと言ってたのに、実は・・・て奴か!」
「そうじゃなくって、せっかく4人で仲良くなったんだ。
お前がフラれたら気まずくなって集まれないだろ?」
「なんでフラれる前提なんだよ!
・・・だけど、確かに一気に仲良くなったもんな。
まずは、テニス部の先輩を狙ってみるか!」
「まずはって・・・まあ、がんばれよ。
それで、中学時代に告白したことあるの?」
「いや、全然!だけど、妄想では何度もOKもらっているぜ!」
「うへえ!」
温泉街の細い道を4人でおしゃべりしながら歩いていた。
何度かお土産屋さんに吸い込まれ、
飲食店の前ではいい匂いに鼻を引くつかせた。
そしてまた、いい感じの土産物屋に入って、
お姉への土産として炭酸せんべいを買って
外に出ると目の前にジェラート屋さんがあって、
色とりどりのジェラートが素敵だった。
食べたいけど、どうするか・・・
「ねえ、ジェラート、食べたいの?」
ニコニコの熊谷さんがぴょんとジャンプして、可愛らしく覗き込んできた。
「・・・びっくりした~。
ジェラート、そそるよね?
でも、ちょっとお高いから、どうしようかなって。」
「うん、おごってあげるよ。この前のお礼に。」
「じゃあ、俺もお礼におごってあげる。」
俺の提案に熊谷さんは困惑していた。
「えっと、お昼ご飯のことなら、あれは交換だよ?」
「でも、玉子焼きが俺の好みにドンピシャだったんだよ!」
力が入りすぎていたみたいで、若干、引かれた。
「あ、ありがと。」
「それにさ、この前、変なおじいさんから助けたときに熊谷さんにお礼を言われて、俺にも価値があるんだってすっごく嬉しかったんだ。」
「大げさすぎるよ!」
「熊谷さんはそう思っても、俺は大げさと思ってないから。
おごるよ。どの味がいいかな?」
「むう。じゃあ、今回はお互いにおごりあおうよ。
そうだ!
中間テストで勝負しようよ!
勝った方がお礼をできるの!」
さっきまで熊谷さんが困惑していたけど、今度は俺が困惑した。
「は?勝った方がおごるの?」
「そうよ!だって、二人とも相手にお礼をしたいんだもの!
勝った方がするのが当然よ!」
「う~ん、勝って負けても嬉しそうだけど・・・
熊谷さんがそれでいいのなら、そうしようっか。」
「うん!じゃあ、どれ食べようか!」
熊谷さんが微笑んで、ジェラートを選び始めた。
「なになに、ジェラート食べるの?アタシも食べる~。」
木岡と須藤もやってきたので、4人で別々の味のジェラートを選んで、
一口ずつ交換したよ。
残念ながら、女子からのあ~んとか、スプーンの間接キスとかは無しな!
最後に、先生に外国人との写真を見せるため、有馬川の河川敷に向かっていると、
横断歩道を渡っているカップルに気が付いた。
紗季だ!
紗季と松久保琢磨が入った土産物屋を通りから見てみたら、
土産物屋のかげで、こっそりと抱き合い、キスを何度も、何度もしていた。
今日一日、楽しかったことがすべて吹き飛んでしまった。
体温がぐーっと下がり、胃がぎゅっと締め付けられる。
「おい、どうしたんだ。二人とも!」
向こうから須藤の声が聞こえて我に返った。
二人とも?
隣では熊谷さんが立ちすくみ、その顔色は真っ青になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます