第8話 高1 ・ 6月
中間テストが終わって、テスト結果が続々と返ってきている。
今日は水曜日、須藤、木岡、熊谷さんと一緒に弁当を食べる日だ。
校外学習が終わって電車で帰る途中、須藤が提案したんだ。
「なあ、たまにでいいから、この4人で昼ご飯を食べないか?」
心の中に滾る熱意を持って、須藤は木岡と熊谷さんを交互に見つめた。
おい、俺も見ろよ!
「ん~、いいんじゃない。週1くらいなら。」
「そうね・・・でも、鮫島くんは大丈夫かな?」
熊谷さんは立ち直ったらしく、俺をちゃんと気遣ってくれた。
「俺の弁当ってアレだよ?アレ。」
「今日と一緒でいいでしょ。コンビニ弁当でもいいし。
交換したら、みんなだって味変出来て、うれしいし。」
「アレでいいの?ありがとう!」
というわけで、毎週水曜日、4人で机を囲んで、弁当を食べている。
今日は、校外学習の時と同じ、
ご飯、ふりかけ、プチトマト、ミートボール(冷凍)、かまぼこを弁当箱に詰めてきた。
前の週はコンビニ弁当だったけど。
まずは、最後の英語の点数を報告して、合計点数を計算した。
「1位 鮫島、2位 悠里、3位 アタシ、4位 須藤。」
「よし!」
「ぐわぁ!なんでだよ!」
「俺は帰宅部だから、真面目に勉強しているんだ!」
紗季と松久保琢磨に絶対に負けたくないだけ、なんだけど。
その二人は帰って来た答案用紙を見て何度かがっくりと凹んでいた。
俺は平均点よりだいぶ上だったから、楽勝だったハズ!
「完敗ね。鮫島がまさか、そんなに賢いとは思わなかったわ。
あと、須藤。期末テストも結果が悪かったら、補習らしいわよ。
頑張んなさいな。」
木岡がサバサバと言って弁当箱を開いた。
「夏休みに補習だろ?勘弁してくれよ・・・」
ブーンとスマホが振動した。
『今回は、私の負けね。放課後、隣駅のコンビニでハーゲンを所望するわ。』
熊谷さんが複雑そうな表情で睨んでいた。
『(‘’◇’’)ゞ』
中間テスト前、こっそりと熊谷さんと二人っきりのラインをつくった。
やり取りはテストのことだけだけど、それでも、ドキドキする・・・
『ねえ、体調は大丈夫?別の日にする?』
バレてた!
もう落ち込む姿を見せないように気を張っていたハズなのに!
『大丈夫だよ。』
『鮫島クンが行かないと、ハーゲンが食べられないんだからね!』
『ツンデレ。ごちそう様。』
『元気だしてね。』
須藤にも熊谷さんにも言ってないが、今日は俺の誕生日だ。
一時間目が始まる前、教室中に紗季の嬉しそうな声が響いたんだ。
「誕生日、おめでとう!琢磨!」
・・・まさか、松久保琢磨と同じ誕生日だとわ!
紗季のお誕生日おめでとう!の言葉に反射的に凄く喜んでしまい、
その後の琢磨!にガクンと猛烈に落ち込んだんだ。
だけど、すぐに気を取り直したから、須藤たちにはバレなかったのに・・・
熊谷さん、ありがとうと心の中でつぶやいた。
放課後になって、一緒に歩くのはちょっと・・・ということで、
熊谷さんが俺の後ろを、少し離れて歩いている。
・・・これは、これで、甘酸っぱいな!
熊谷さんは「ブリュレブリュレ」、俺は「バタービスケット」を買って、
イートインに並んで座った。
「じゃあ、交換しましょ!」
ルンルンといったカンジ、さらに当然といったカンジで
熊谷さんが俺の「バタービスケット」に一番乗りでスプーンを突き刺した。
当然、俺は熊谷さんの「ブリュレブリュレ」にスプーンを突き刺す。
「「美味しい~!!」」
二人の間に甘い雰囲気はないが、口の中は最高の甘さだった。
「今回は私の負けだったけど、期末は負けないから!」
熊谷さんって負けず嫌いなのね・・・ちょっと、面倒。
「今回はって、期末も勝負するの?」
「もちろんよ!いい勝負だったし、ライバルがいる方が勉強にも力が入るでしょ?
でも、やっぱり、負けた方がおごることにしましょ。」
「よかった、次回はおごってもらえそうだ!」
「私が勝つけど?」
互いに自信の笑みを浮かべたまま、睨み合った。
「「ふふん!!」」
そして、またハーゲンを口に含み、幸せの笑みを浮かべた。
「ねえ、鮫島くんは体育祭、何に出るの?」
「俺は1500メートル走だよ。」
「へえ~、しんどそうね。得意なの?速いの?」
「速い方だと思うよ。
帰宅部だけど、2日に1回、5キロほど、走っているから。」
そう。
小学校の低学年の時、イジメにあっていた俺は、
お母さんの勧めでキックボクシングを習うことにしたんだ。
週に1度だけど。
イジメの時は紗季に助けてもらったけど、強くなって紗季を守るんだって。
紗季を守るために中3の受験シーズンだって、ずっと鍛えていた。
初めてのスパーリングは1分だけで、もちろん凄く怖かったんだけど、
それよりも1分がめちゃくちゃ長くて、すぐに疲れ切って30秒以上攻撃できなかったんだ。
やっぱり体力がもの凄く必要なので、
2日に1回、5キロを全力で走っているんだ。
一度も、誰にも、キックボクシングの実力を見せる機会がないまま、
紗季にフラれてしまったけどな!
紗季にフラれて、辞めようかなって思ったけど、
「ここで辞めたら負け犬だ!」
って、またお姉に尻を蹴られて、休まずにずっと続けている。
ジムではいつも、サンドバッグを松久保琢磨に見立ててボコボコにぶん殴って、
蹴りまくっているのだ!
どうだ!思い知ったか!
で、その次の日、松久保琢磨と紗季がイチャイチャしているのを見せつけられて、
がっくりと落ち込むまでがデフォルト。
「そうなんだ。応援するね!」
「ありがとう。熊谷さんは何に出るの?」
「私は100メートル×4リレーだよ。」
そう応えた熊谷さんは少し恥ずかしそうだった。
「おお、選ばれし者じゃないか!」
リレーは50メートル走の速い人4人が自動的に選ばれたのだ。
俺は4番までには入れなかったのだ。悔しい。
「意外だった?
でもね、女子は恥じらいを捨てたら、トップになるんだよ。」
「熊谷さんの、恥じらいを捨てた顔、楽しみだな~。」
「最っ低!」
熊谷さんはそう罵ったけど、すぐに微笑んでくれた。
「俺もちゃんと応援するわ。」
「ありがと。」
ちなみに、誕生日プレゼントをくれたのはお姉だけで、ケーキをもらいました。
もちろん、お姉の誕生日には倍返しを要求されました。
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