第24話 高1 ・ 3月
春休みになってすぐ、俺は道路工事の作業員として3日間だけ働いた。
使ったことのない筋肉を酷使したので、1日、ゆっくりと休んでいたら、
悠里からラインが届いた。
『急募!家具組立員。報酬、ハーゲン。要ドライバーセット。』
『履歴書:鮫島金吾16歳男明日は暇。』
『採用。明日、13時に私の最寄り駅に来て。』
翌日、13時に駅前に行くと悠里がお淑やかに立っていて、
俺を見るとなぜか不穏に目を細めた。
「お待たせ。ポニーテールも、春らしい服も似合っているね。」
「ありがとう。でも、金吾は女子と二人っきりで会うのに、ジャージってどうなのよ!」
「え~!だって家具組み立てするんだろ?
それに、せっかくだから帰りは走ろうかなって。」
悠里はああっ、そうだったって雰囲気を醸し出した。
おいおい、それが主目的なんだろ?
「・・・来てくれて、ありがとう。先にお礼を渡すね。」
悠里はどのハーゲンを食べるか考えすぎて、主目的を忘れていたらしい。
可愛い・・・
二人でコンビニに入って、ハーゲンを慎重に選び、
イートインで並んで座って、アルバイト先の面白キャラの話をしながら食した。
家でお姉に上納して一緒に食べた時よりもやっぱり美味いよな・・・
そして、ホームセンターに行くとよくある3段のカラーボックスの前で立ち止まった。
「・・・もしかして、これ?」
「・・・だって、組み立てたことなんてないんだもん!
それに、工具だって分からないし、持ってないし・・・」
「ああ、女家庭だったらそうかも。
あっ、この完成品が買えるよ!」
「だ・か・ら、どうやって持って帰るのよ!」
「どうもすいません。」
拗ねてしまった悠里のご機嫌を取り戻しながら、悠里の家の前にたどり着いた。
「着替えて来るから、少しだけ待っていてね。」
ようやく笑顔を見せて、悠里は家の中に入っていった。
「きゃっ」
って悲鳴が聞こえた!
なんだ、なんだと耳を澄ますと、ドタバタと暴れている音が聞こえる!
「悠里、どうかした?」
恐る恐るドアを開けると、リビングの向こうの方に中年の男が見えた???
オッサンは倒れている悠里にのしかかっていて!!!
「むぐ~!」
その右手は悠里の口を押えて、左手は悠里の右手を押さえつけていた!!!
かっとなってダッシュした。
「悠里!」
俺の叫びに驚いて振り向いたオッサンの腹を思いっきり蹴ってやった。
転がって体を丸めながら、ゲホゲホいうオッサンに何度も何度もストンピングしてやった。
「ぐはっ!やめて!やめてくれ!」
しばらくして動かなくなり、謝るだけになったオッサン。
怒りが少しだけ沈静し、ようやく我に返った。
「悠里。」
「・・・大丈夫。ありがと・・・」
悠里はブルブルと震えながら、自分の体を強く抱きしめていた。
悠里の傍にしゃがみ、その背を優しくなでた。
「もう、大丈夫、大丈夫だよ。・・・誰、コイツ。」
「・・・お母さんの恋人。」
「マジか・・・」
茫然としていたら、悠里の指が俺の足をつついた。
「・・・靴。」
「うん?うわ~、ごめん!」
慌てていたから土足のまま、家の中で暴れまわっていた!
慌てて靴を脱いで、玄関に置きに行くとホウキを見つけた。
悠里の傍らに戻り、ホウキでオッサンを牽制しつつ、
まだ震えている悠里の肩をぎゅっと抱いた。
「悠里。お母さんは?」
「・・・出かけてそのまま仕事に行くって言ってたけど、連絡してみる。
・・・すぐ、帰ってくるって。・・・ありがとう、金吾。」
そう言うと、悠里は俺の肩に頭を押し付け、しがみついた。
オッサンを正座させ、事情聴取を録画して、その映像を悠里がお母さんに送った。
30分後、お母さんがタクシーで帰って来た。
初めてお母さんを見たけど、怒り狂って般若のようになっていて、
似ているとか、似ていないとか全く分からなかった。
ていうか、怖い。とにかく怖い!
顔面蒼白で正座しているオッサンを前に、
お母さんはぐつぐつと地獄の窯が煮えたぎっているような声を出した。
うわぁ。
「・・・なんで?」
「すまん!」
がばっと土下座したオッサン。
その頭をお母さんが全力で踏みにじった!ひいっ!
「・・・どうやって、家に入った?」
「・・・すまん!」
「ああ?」
オッサンの頭をぐりぐりと踏みにじるお母さん。やだ、怖い、怖い!
「・・・この前、ホームセンターに行ったとき、
お前のカギを拾っただろ?その時に、その、コピーした。」
「死ね!ごら~!」
がんがんと後頭部を蹴りつけるお母さん。
アカンって!死んでまうって!
「許してくれ~!」
「・・・おい、どうすんだ、これ。
落とし前、どうつけるんだよ!」
「か、金、払う!100万円!」
オッサンの提案は火に油を注いだ!
お母さんの目がさらに吊り上がり、声のドスが倍化した!
「ああ?舐めてんのか、お前?
警察呼んだらどうなると思う?
強姦未遂だぞ?
会社クビになって、懲役喰らうっていうのに、たったの100万ぽっち?
私の可愛い、可愛い一人娘を襲って、たったの100万ぽっちか、おう?」
・・・あの、お母さん、金額の多寡なんですか?
「警察は止めてくれ!わかった!貯金、全部払うから!
それで許してくれ!」
「じゃあ、行くぞ!」
オッサンは鬼にドナドナされていった。
二人っきりになって、たまらない緊張感から解放されて、
悠里の顔色をそっと窺ってみたら普通になっていて、ホッとしたよ。
「金吾、本当にありがとう。」
悠里が見惚れてしまう笑顔を浮かべてくれた!
やった!俺はこの笑顔を守ったんだ!
そう喜びが心の中で爆発した。
「どういたしまして!」
「うん。じゃあ、しようか。」
「えっ?」
何をするの?キス?もっとエッチなこと?
「えっ?カラーボックスの組み立てだけど?」
「ああああ!そうだね、そうだったね!」
めちゃくちゃ不審な目を向けられて冷や汗をたっぷりとかいた。
カラーボックスの組み立ては簡単に終わってしまった。
「帰ってもいいかな?」
尋ねてみたら、悠里はまだ不安そうだったので、念のため持ってきていた
春休みの宿題を一緒にこなしていった。
勉強に疲れたころ、お母さんが帰って来た。
そして、帰ってくるなり、悠里を強く抱きしめた。
「ごめんね。私があんな男と付き合ったばかりに!
本当にごめん!」
そして、今度は俺の手をがしっと掴んだ。
「ありがとう、悠里を助けてくれて。本当にありがとう!」
お母さんは明るい茶色の長い髪、悠里より少し勝気そうな美人さんだった。
かなり疲れているみたいだけど。
それから、オッサンとどうなったかを説明してくれた。
警察と会社には連絡しない代わりに貯金全部もらったこと。
オッサンの自白動画を俺たち3人が持っていて、
何かあったら警察と会社にすぐ連絡すること。
もう、お母さんのスナックには出入り禁止で、
スナックの関係者には今回のことをちゃんと伝えること。
これで、手打ち、だってさ。
そして、お母さんは「ホントにありがとう。」って俺の髪をわしゃわしゃと撫でてくれた。
そんなことされたの、小学校以来だからなんだか嬉しかったよ。
後日、お母さんは「もう、酒好きな奴らはコリゴリだ。」ってスナックを辞めて、
スーパーでパートを始めたそうだ。
慣れたら正社員を考えるらしい。
悠里が、スナックで働いているのを嫌がっていたんで、よかったんじゃないかな。
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