第23話 高1 ・ 2月

2月14日、言わずとしれたバレンタイン・デー。


全高校生男子がもっともそわそわする日。

もちろん、恋人を作る気がない俺でさえも。


朝、いつもの朝を気取って登校した。


下駄箱、無し!


教室に入って、いつも通りを気取って挨拶する。

「おはよう!」

「おはよう~!」


笑顔で挨拶して、机にたどり着くと、さりげなく机の中をチェック。


はい、無し!

ですよね!


何にもないけどへっちゃらだよって顔で、1時間目の準備を始める。


「おはよう~!」

晴子が笑みを浮かべて近寄ってきた!


その手にはキット勝つが!

「はい、これ。いつもありがと。」

「おおおぉ!ありがとう!」

つい、雄たけびをあげて、キット勝つを捧げ持ってしまった。


「大げさだな~。」

と笑って、晴子は次の男子の元へ去っていった。


観察していたら、晴子は仲の良い女子にも配っていた。

ええ子や~。


「はい、これ。」

ユイカによって机の上に置かれたのはやっぱりキット勝つ。


「ありがとう。」

「どういたしまして。」


ユイカが次に、雄太郎にキット勝つを手渡すと、

雄太郎もやっぱり両手を高く上げて、大げさに感謝していた。


そろりそろりと視線を展開してみると、悠里と目が合った!

悠里!


さりげなく目をそらされてしまった。

がっくり。


でも、すぐには渡さないこともあるよね。

そう。じらすつもりなんだね!


ちなみに松久保琢磨の前にはチョコレートを持った女子が行列していた。

それを見た男どもはみんな、ぐぬぬ!って歯を食いしばっていた。

もちろん、俺も。


すべての授業が終わると一番に悠里が教室を出て行ってしまった。


アイコンタクト、なかったよ・・・


結局、話は少しだけしたけど、チョコはもらえなかったし。

がっくり。


と思っていたら、ラインが届いた!

『いつものコンビニに集合!』


弾けて立ち上がったら、机に膝を強打して、悶絶してしまい、

何人かに笑われてしまった。


一人でコンビニに向かっている間、

5年ぶりくらいに、スキップしてしまったと思う。


はっ!

もしかして、チョコレートをくれたりじゃなくって、

苦情や、新しい勝負を挑んでくるとか、ただの相談かもな・・・


うむ。

冷静に、冷静に・・・


悠里はコンビニの中にいて、ハーゲンを吟味していた。

そして、俺に気づくと、問答無用で苺のトリュフとショコラを取り出してレジに向かった。


そして、イートインに並んで座ると、ショコラを俺に差し出してくれた。

「はい。いつもありがとう。」

「ありがとう!嬉しいよ。もう、もらえないかって泣きそうだったよ!」


「学校で渡すのは恥ずかしくて・・・渡すのは一人だけ、だから。」

最後は小声になっていたので、難聴系主人公ムーブ全開にした。

「安定安心のショコラだ。美味しい~!ありがとう。」


バレンタイン・デーの夜遅く、キット勝つを食べながら宿題をしていたら、ラインが届いた。

こんな遅くに、どうしたんだい?誰なんだい?


また、悠里か!

どうした?

忘れていた愛の告白かい?


『たいへん!お母さんがプロポーズ、されたって!』

『マジか!相手はどんな人?どうするの?』


『45歳の普通の、バツイチ会社員だって。

酒は大好きだが量は少な目。

酒癖はマシな方で、明るくて陽気。

店の常連で、店の中では紳士の部類とのこと。』


『ほうほう。店の中ではまあまあ上玉だってことか?』

『そう。お母さんは、私さえよければ、前向きに考えたいって!

どうしよう・・・』


『絶対に駄目じゃなければ、一度、会ってみた方が・・・

でも、会っちゃうと余計に断りにくくなるかな?』

『やっぱり、会ってみた方がいいよね?』


『絶対に嫌じゃなければ、ね。

まあ、あと2年、俺たちが大学になってから結婚してっていうのも手かな。』


『浪人になったりして』

『2浪、3浪になったりして。』

『そんなに意地悪じゃないもん!プンプン!』

叱られてしまった。


悠里によると、悠里のお母さんは高校時代に付き合っていたヤンキー系男子と

高校卒業後すぐに授かり婚。


そして、すぐに悠里が生まれたんだけど、

しばらくしたら、悠里の父親は借金と新しい女をこさえてドロン!

お母さんには赤ちゃんと借金が残りましたとさ。


・・・その、お父さんが不幸になるよう、祈っておこう。


お母さんは結婚に反対されたのに強行したので、その両親と絶縁となっており、

悠里を育てながら借金を返すために夜の商売に飛び込んだそうだ。


若くて綺麗なので、カレシがいた時期が何度かあったようだけど、

いつも悠里のことを一番に考えてくれていたそうだ。


結婚に失敗しちゃったけど、いいお母さんだよね。


後日、悠里はお母さんにプロポーズした人と会ってみたけど、

やっぱり普通の人っぽかったそうだ。

そして、前向きに考えることにしたらしい。

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