第26話 高2 ・ 5月

須藤 雄太郎


ゴールデンウィークの最初の休日、ユイカとファミレスで駄弁っていた。


俺たちは春休みに入ってから付き合い始めたのだ。

クラスが離れたら疎遠になってしまうとビビった俺が告白したんだ。


ユイカと一番仲がいいのは俺だ!って自信はあったけど、

何度も告白は止めようかと悩んじまったよ。


でもさ、本当に恋人ができるって最高の気分だぜ!

しかも、その相手が学校中でもトップクラスに可愛いユイカだからな!


話が一旦、無くなってしまうと、ユイカが突然、テンションを上げた。

「はい!ただいまから、悠里と金吾がどうやったらくっつくか会議を開催します!」

「おいおい、突然だな!」


「いや、でもさ、もう仲良くなって1年だよ!

クリスマスにはもうこれって両想いだろ?ってカンジだったのに、

あのヘタレどもが。」

ユイカは両腕を組んで、仁王立ちした。座っているけど。


俺とユイカが付き合えたのは、アイツらのお陰だから助けてやってもいいけど・・・


「というわけで、今度の廃線ウォーキングに二人を連れて行こう!」

「ええっ、アイツら、絶対、両片思いを楽しんでいるんだから、放っておこうぜ。」


「まあまあ。二人を応援する裏で、アタシたちは最高に楽しむんだよ。」

「うん?どういうことだ?」


「アタシたちって、まだ知り合いの前では恥ずかしいからって、イチャイチャしていないでしょ?

まずは、あの二人の前でたっぷりとイチャイチャするんだよ!」


「おおっ!確かにアイツらの前だと緊張感も薄くてお気楽だろうし、

奴らは、俺たちのイチャイチャを見て羨んで、付き合いだすっていう事か!

最高だぜ!」


★★★★★★★★★★★★★★★


3連休の真ん中に金吾と悠里を誘って、

西宮の山中にある廃線ウォーキングに行くことになった。


集合15分前に、金吾が笑顔で現れた。

「おはよう!」


とりあえず、危機感を持たせるために、不機嫌を装って告げた。

「連休前に、梅谷が悠里に告白したらしいぞ。」

「えっ、そ、それ、本当か?で、どうなったんだ?」

ケケケ!慌ててやがる!


「知らね~よ。今日、悠里が来なかったらそういう事なんだろ。」

俺はそう吐き捨てて、また、スマホに目を向けた。

金吾は平然を装っているつもりだろうが、そのつま先が忙しく上下していた。


「おはよう~!」

「お待たせ~!」

時間どおりにユイカと悠里が笑顔で現れた!


「よかった・・・」

そう口にして、ホッとしたらしい金吾を蹴っ飛ばしてやった。

「痛いよ!」

「バ~カ。」


俺と金吾を交互に見て、悠里が不思議そうに尋ねてきた。

「うん?どうかしたの?」

「「何でもない。」」


「ねえねえ、ほら、ほら、この恰好どうよ?」

話題を変えるべく、ユイカが片足つま先立ちで、クルリと回転した。

つばの大きい帽子、山ガールっぽいチェックのシャツ、

チノパンがおしゃれに決まっていた。


「いやぁ、最高に可愛いよ、ユイカ!」

「でしょう、でしょう!」


金吾たちを無視してさっそく二人でイチャイチャしてやったぜ。

思ったより、恥ずかしくないな。


「今日は誘ってくれてありがとう、

でも、二人っきりの方がいいんじゃないの?」

金吾がユイカに尋ねたら、ユイカの返事はこうだった。


「まあ、悠里と金吾がいても、アタシたちは変わらないから。

つまり、二人はモブと同じってことだな。」

「おい!」


さらに俺が付け加えてやった。

「俺たち以外に、お前、友達いないだろ?」

「いるわ!え~っと、直之とか誠人とか!」


「直之はサッカー部で忙しいし、誠人は純とデートばかり。

お前、奴らと二人か、三人で遊んだことあるのか?」


「ホント、雄太郎とユイカには感謝しかないよ。」

内容とは裏腹に、金吾のセリフは棒読みだった。


1時間ほど電車に乗って、最寄り駅に着くと同じように廃線ウォーキングの人たちがぞろぞろと下車した。


そしてしばらく田舎道を歩くと、ついに廃線が現れた!

右手にごつごつした岩が転がる綺麗な川、左手に新緑萌える山!


「イイ感じだぜ~。じゃあ、行こうか!」

俺はユイカが手を繋いでゆっくりと歩き出した。


予定通り、金吾と悠里を放っておいて。


金吾と悠里は俺たちを羨ましそうに見つめてから、追いかけてきた。


トンネルが現れた!

中には照明なんてないので、真っ暗だ!

懐中電灯はちゃんと明るいやつを持ってきている。


だが!

「よし。あんまり明るくない、この懐中電灯1つで行くぜ!」

「そんな、怖いよ!」


わざとらしくユイカが不安を口にすると俺は二カッ笑って、

頼りがいありそうなポーズをとった。


「大丈夫だ!ユイカは俺の肩に手を置け。

その後ろは悠里で、しんがりは金吾だ。

敵に襲われたら金吾、死んでも俺たち3人を守れ!」

「任せておけ!お前らのバックは守ってやるぜ!」


「さあ、スケベ野郎は放ってさっさと行こう!」

「金吾、スケベ!」

「金吾、私に触らないで。」


俺のボケに乗ってみたら、金吾は滅多打ちにあっていた。

「ごめん、許して、待って、一人にしないで~!暗闇、怖い~!」


綺麗な景色、真っ暗なトンネル、澄み切った青空、

変わったシチュエーション、可愛くて楽しい恋人、楽しい仲間、最高だわ・・・


休憩のたびに、ユイカが変なポーズ、気取ったポーズ、可愛いポーズをとって

俺は激写していた。


向こうにいる金吾と悠里の話声がかすかに聞こえた。

俺たちが聞き耳を立てていることに気づいていないようだ!


「本当にあの二人、楽しそうだね。」

「ホントに、俺たちをモブ扱いしやがった。」

「ふふふ。」


おう、なかなか、イイ感じじゃないの?


金吾は少し黙ってから、おずおずと口にした?

「あの、梅谷だっけ?告白されたの?」

「告白されたけど、梅谷くんじゃないよ?」


「ええっ!そ、そ、それでどうしたの?断ったの?」

「うん。・・・」

あからさまに金吾は安心していた。


バカやろ~、安心じゃなくって、そこは告白して、抱きしめるんだろ!

だけど、二人ともしばらく黙っていた。


「・・・あれから1年も経ったのに、まだ怖いねえ。」

「わかる。」


そうか、まだ1年前にフラれたことが気になるんだ。

イヤなことなんて、楽しいことで上書きされんのに!


「・・・ところで、中間テストどうする?ハーゲン、勝負するの?」

「もちろんよ。私たち、成績上がっているよね?

金吾と勝負したいから・・・ってこともあるから。」

悠里は熱く答えていた。


なんだよ、そんなことやっていたのかよ!

ユイカも知らなかったらしく、驚いて、少し拗ねていた。


「まあ、俺も楽しんでいるから、大歓迎だよ。

理系と文系で科目が少し違うけど、どうする?」

「そうね、同じ科目だけで勝負しましょ。」


結局、金吾と悠里が付き合うことはなかったけど、

俺たちの知り合いの前で、初めてイチャイチャするっていうミッションは達成された。

緊張するどころか、むしろ、俺たちを見ろ!っていうカンジだった。


★★★★★★★★★★★★★


熊谷悠里


中間試験の終了後、金吾の誕生日が来るので、

どうしようかとユイカに相談したら、スーっと目を細められた。


「・・・ねえ、悠里。雄太郎の誕生日、知ってる?」

「!!!4月・・・ごめん!どうしよう?」

大失敗だ!


去年の11月、私とユイカの誕生日を金吾と雄太郎が祝ってくれたんだ。


当然、その時に金吾と雄太郎の誕生日をちゃんと聞いたんだけど、

金吾が琢磨と一緒の誕生日でビックリして、そのまま雄太郎の誕生日を忘れてしまったんだ。


「ねえ、どうしたらいいかな?雄太郎、怒ってなかった?」

仁王立ちしているユイカに焦りながら尋ねると、ユイカがニヤリと笑った。


「もういいよ。私が二人分、祝っておいたから。

だから、悠里は私の分も金吾を祝っておいてね。」


「ホントにそれでいいの?」

「もちろんよ。雄太郎の今年の誕生日にアンタたちがいたら、

たぶん、アタシ、イラついていたもの。」


「なるほど!」

「よかったわね。」

「うん。」

「アタシが言っているのは、金吾の誕生日を、アンタだけが、祝うって事。」

「ちょっ・・・」


ユイカにニヤニヤ揶揄われたけど、顔から火が出ていて応えることができなかった。


で、誕生日当日。

いつもはコンビニかファミレスだけど、今日はこじんまりと可愛いケーキ屋さん。


私は、何層にも重ねられた苺のミルクレープを、

金吾は同じくシャインマスカットのミルクレープを頼んだ。


当然、一切れずつ交換した。

私の苺のミルクレープを口にした金吾の眉が上がり、口元がほころんだ。


「うまっ!なにこれ?めちゃくちゃ美味しい!」

「ホントだ!マスカットも美味しい!」

苺のミルクレープもめちゃくちゃ美味しかった。


「悠里、ありがとう。こんな美味しい店を教えてくれて。

今度、お姉の誕生日にはここのケーキにするわ。」


「気に入ってくれてよかった。」

カバンの中から、小さな紙袋を出して、机の上に置いた。

「あの、これ、プレゼント。」


ケーキと飲み物だけと思っていた金吾は喜ぶよりもびっくりしていた。

「ありがとう。開けていい?」

用意したのはV—SHOCK。一番お安いモデルだけど。


金吾はまだ喜んでくれず、今度は少し困っていた。

「この時計・・・結構高いんじゃ・・・」


「春のお礼にお母さんからお金もらっているから、大丈夫だよ。

金吾には榎本くんからも、松尾くんからも助けてもらったし。」


「ありがとう。せっかくだし、大事に使わせてもらうよ。今から。」

そういって、金吾はさっそくV—SHOCKを右腕に着けて、見せびらかしてきた。


「どう、似合う?」

「ちょっと負けてるね!」

「うへえ!」

からかってあげると、金吾は大げさにおどけた。

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