第33話 高2 ・ 9月

9月の3連休の前日に、悠里からラインが届いた。


『急募!家具組立員、3連休初日、勤務場所:私の家、勤務時間:14時から18時、報酬応相談』


『履歴書、鮫島金吾17歳、報酬:夕ごはん希望』

『採用!家に直接、来てね。』


「いらっしゃい。」

迎えてくれた悠里は、いつもとは違い長い髪をポニーテールに纏めていた。


そして、半袖がヒラヒラとしている可愛いTシャツにハーフパンツという、

いつもより肌色多めだった。


「おっふ。部屋着も可愛いね。」

「ありがと。もうすぐ組立式本棚が届くからちょっと待ってね。」


「今度は通販なんだ?」

「そう。持っている本のサイズ、ピッタリのやつを頼んだんだ。

悪いけど、少し待ってね。」

「うん。宿題でもして待っているよ。」


15時頃に本棚が届いて、悠里の部屋に運んで組み立てることにした。


初めて入った悠里の部屋は4畳半くらいの狭い洋室で、

机と一体化している背の高いシステムベッドが置いてあって、

可愛らしい小物やぬいぐるみがいくつか並んでいた。


まだまだ暑いのに、窓が全開になっていたが、つい、クンクンとしてしまったら、

「匂わないで!」

って厳しく叱られてしまった。


まずは軽く説明書を読んで、板を順番に並べて、それから協力して組み立てていった。


「出来た!」

「思ったより簡単だったね!ありがとう!」


まずは予定場所に本を入れずに置いただけだったけど、

悠里は満足そうに肯いていた。


とりあえず休憩することとして、俺が買ってきたハーゲン2種を

分け分けしてご機嫌で食べていると、玄関扉の鍵がガチャガチャと音がした!


「たっだいま~!」

帰って来たのは悠里のお母さんで、超ご機嫌だった!


「な、なんで?」

慌てふためく悠里、固まっている俺を見て、お母さんはにんまりと笑った。


「いらっしゃ~い、金吾クン!

くくく!来ていると思っていたわ!」


「なんで?今日は20時まで仕事って言ってたじゃない!」

「明日と間違えていたの~、てへぺろ!」


お母さんはあざとく、自分の頭をコッツンと叩いて、ウインクして、

舌を少しだけ見せた。

あっ、これ、悠里、嵌められているわ!


「騙したのね!」

「間違えたんだって!

それより、アンタたち、よ~~~やく、付き合いだしたの?

ねえねえ、その恰好ってもしかして・・・」


お母さんはニヤつきながら、いつもより肌色多め悠里のTシャツ、ハーフパンツを

じろじろと眺めた。


「何にもしてない!」

「もう、終わっちゃったの?残念、もう少し、早く帰ってくれば・・・」

悠里の否定を曲解して、面白いTVを見逃したように悔しがった。


「だ・か・ら、何にもしてないって!ねえ、聞いてる?」

悠里が絶叫しても全く堪えず、お母さんは俺の右肩に手を置いた。


「ねえ、金吾くん、こっそりと来なくてもいいのよ?

自分の家だと思って、毎日でも来てくれていいし、

なんなら泊ってね。

もちろん、この娘と一緒のベッドでね。

私は邪魔しないから、気にせず可愛がってあげて。

ああ、高校卒業までは避妊だけ気を付けてね!」


最後のセリフとともに、バチンとウインクされてしまった。

俺にどうしろと?


ありがとうございます!って笑顔で頭を下げたら、

きっと悠里に絶交されてしまうな・・・


「お母さん!本棚を組み立ててもらっただけなの!」

「五月蠅いわねぇ。

ねえ、金吾クン、こんなやかましい小娘なんかより、私なんかどうかしら?」

お母さんは髪をかき揚げ、色っぽい表情をつくった。


お母さんはさすがも元スナック店員、

下ネタ関係の攻撃力が高いうえに、攻撃方法も自由自在だ!

俺は巻き込まれても何も言えず、途方に暮れてしまう。


「お母さん!」

悲鳴を上げた悠里の目が、これ以上ないくらい吊り上がっていた。


「もう、そんなに怒鳴らないでよ。

アンタがもたもたしているからでしょ。

アンタ、この春にあのクソに襲われて金吾クンに助けられてから、

スマホ握りしめて、乙女の表情になっているじゃない!

金吾クン、夏にケガしたんでしょ?

その時はいつも心配そうにしてて、会えなくて家の中をうろうろしていたじゃない!」


最後に恋する乙女ぶりを暴露されると、悠里の怒りは霧散した。

「もうヤダ!」

涙目でつぶやくと、家を飛び出してしまった!


「悠里!すいません、お邪魔しました!」

「よろしくね~。」

慌てて悠里を追いかけると、背中にお母さんのお気楽な声がぶつかった。


家の近くの交差点で悠里は立ちすくんでいた。

「悠里・・・」

なんと声を掛けたらいいか分からず、名前だけ呼んでみた。


「もうヤダ。帰らない!」

顔を真っ赤にした悠里が小さな子どものように拗ねていた。


「わかった、付き合うよ。だけど、その恰好は・・・」

悠里は袖がヒラヒラしたTシャツ、ハーフパンツの肌色多めの部屋着のままで、

しかも足元は裸足でサンダルを履いていた。

まあ、家の庭の木々に水を撒く恰好だ。


「ヤダ。帰らない。」

「えっと、スマホと財布は?」

しかも手ぶらだった。


悠里はハッとしたけれど、やっぱりフルフルと顔を横に振り続けた。

「ヤダ。帰らない。」


「わかった。じゃあ、これを羽織るかい?」

俺が着ている薄手のジャージの上を脱いで差し出すと、

悠里はおずおずと受け取った。


悠里の方が俺より10センチほど背が低いので、

丈が長く、袖も長くて、カレジャージを羽織っているってカンジだった。


やっぱり部屋着の雰囲気のままだけど。

まあ、肌色少なくなって、周りの視線はぐっと減るだろう。


「どうしよう。カラオケとか、ネットカフェとかで時間つぶす?」

「ヤダ。電車に乗りたくないし、駅にも近づきたくない。」


「う~む。じゃあさ、俺の家まで歩いていく?1時間近くかかるけど。」

「・・・お姉さんはいるの?」


「たしか、今はバイトしていて、終わったら女友達と晩御飯に行くって。」

「じゃあ、そうする。約束どおり、金吾に晩御飯作ってあげる。」

ようやく悠里が笑顔を少しだけ浮かべてくれた。


ちらっと悠里の家の方を見てみると、

お母さんがこっちを見つめていて、手を振ってくれた。


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