高校の入学式の日、幼なじみの恋人から、運命の人と出会ったから別れてくれって フラれた俺たちの話。
南北足利
第1話 高1 ・ 4月
高校の入学式の日、天気は快晴で、俺たちの高校生活初日を歓迎しているようだった。うん、周りのみんな、一緒だけれども。
クラス分けの掲示板を、俺、鮫島金吾は恋人である夜木紗季とドキドキしながら見ていた。
「「3組!」」
「「同じクラスだ!」」
笑顔の紗季と見つめあい、万歳してハイタッチした。
パチンと大きな音がしてちょっと手が痛かったけど、
喜びのほうが圧倒的だった。
「じゃあ、教室に行こうか!」
「うん!」
「幸先いいね!」
「うん、楽しくなりそう!」
夜木紗季は幼馴染でずっと仲良くしていたのだが、
入試合格後から付き合い始めている。
身長は俺と同じ170センチくらい、手足がすらっと長く、
スタイル抜群、茶色の長い髪、大きなパッチリの目の綺麗な女子だ。
校舎に入って、3組へ向かいながらずっと楽しく話していた。
「昼ごはん、何食べたい?」
「パスタ?いや、お肉?寿司もいいよね。」
俺と話しながら、紗季が先に3組に入ろうとしたら、
出てこようとした奴と軽くぶつかってしまった。
「きゃっ。」
「あっ、ごめん。」
紗季がぶつかった相手は、身長180センチくらいの背の高い男子で、
甘いマスクのイケメンだった。
「「あっ・・・」」
ぶつかった二人が見つめあっていた。
「大丈夫か?」
「・・・」
答えがないので心配になって、紗季の肩に手を載せて、もう一度声をかけた。
「あ~、大丈夫?」
びくんとした後、紗季は俺を振り返ったりせず、ぶつかった男に謝った。
「ああ、ごめんなさい。前を見ていなくて。」
「こちらこそごめんね。」
男と入れ違いに教室に入って、黒板に張り付けられている座席表をみた。
あいうえお順で、廊下側の前から並んでいた。
俺は廊下側2列目の一番後ろで、紗季は逆に窓側の一番後ろだった。
「どうかした?」
ぼうっとしていた紗季に声をかけると、俺を見て硬い笑顔を浮かべた。
「ううん、なんでもないよ。・・・時間だから、席に座っていようか。」
しばらくすると担任の若い女の先生が現れて、
すぐに体育館に案内され入学式が行われ、
クラスに戻るとすぐにみんなの自己紹介が始まった。
クラスは男18人、女18人の計36人で、
男連中の一番の注目を浴びていた綺麗な女の子は夜木紗季、
俺の彼女だった。ふふん!
華やかさがあるもんな!
しばらくはカレカノということを内緒にしておく約束だけど、
早くお披露目したいわ。大きな声で。
このクラスだけでなく、1年、いや全校生徒に向かって。
ちなみに、女子からの一番人気は俺、
でなくて、紗季とぶつかった背の高いイケメン、松久保琢磨みたいだ。
どうでもいいけどな。
俺には紗季がいるから!
自己紹介が終わると、教室でホームルームがあった。
自己紹介やホームルームの間、紗季の方をチラチラ見たけど、
紗季と視線が合うことはなかった。
寂しい・・・
紗季はぼうっとした感じで、前を見ていた。
ホームルームが終わるころ、スマホが震えた。
『ごめん、今日は一人で帰ってくれる?』
!!!
一緒に帰ろうって言っていたのに!
昼ご飯を一緒に食べようねって言っていたのに!
恐る恐る紗季を見てみたら、深刻そうにスマホを見つめていた。
不安と言う真っ黒な入道雲が心にむくむくと湧き上がってきた。
『どうかしたの?』
『ううん、大したことじゃないの。ごめんね。』
『わかった。じゃあ、またあとで。』
もやもやしたまま、家に帰り、真新しい制服を脱ぐと、
その制服を壁に思いっきり投げつけた。
「なんなんだよ!」
しばらくふて寝していると紗季からラインが届いた。
『家の近くの公園にいるけど、出てこられる?』
俺と紗季の家のちょうど中間にある小さな公園は
小さいころ一番よく遊んで、俺が紗季に好きだと告白した公園だ。
そこのベンチに紗季はスマホを見つめながら座っていた。
「ごはん食べた?今から行こうよ!」
なるべくお気楽そうな声を出しながら、紗季の隣に座った。
「ごめんね、一緒に帰らなくって。」
そう言って、こちらを見た紗季の顔はひどく困惑していた。
「どうかしたの?何かあった?」
「・・・告白されたの。」
「ええっ!今日?高校で?こんなに早く?」
「うん・・・」
矢継ぎ早の質問に肯くと紗季は俺から目をそらして、黙り込んだ。
「えっ、断ったんでしょ?」
「・・・」
笑顔を浮かべて「冗談だよ。」って言ってくれると思っていたけど、
紗季は黙り込んだままだった。
「断ったんだよね?」
「・・・」
不安も声も大きくなってきた。
「・・・冗談はいいから!」
「・・・」
「断ったって言えよ!」
我慢できずに、立ち上がって怒鳴ってしまった!
すると、紗季も立ち上がって、がばっと頭を下げた。
「ごめんなさい。別れてください。」
言葉はちゃんと分かったのに、理解できなかった。
「・・・はっ?何言ってるの?」
紗季に、いや誰にだって出したことのない、ひび割れた声が出た。
「本気だよ。」
顔をあげ、俺をまっすぐ見つめる紗季にいら立ってしまった。
「意味わかんないよ!相手、誰だよ!ちゃんと説明しろよ!」
「相手は松久保琢磨くん。朝、ぶつかった人よ。」
「あいつか!・・・前から知っていたのか?」
「ううん、初対面だよ。お互い、一目ぼれだったんだ。これは運命なんだよ!」
紗季は見たことないような、うっとりとした表情を浮かべた。
「はあ?俺っていう彼氏がいるのに、一目ぼれって、運命って、バカなの?
・・・お互いのことをどれだけ知っているんだよ!」
俺は紗季に向かって初めての冷たい声をだしたが、
紗季は気にしたそぶりもなく、弾んだ声を出した。
「ちょっとお話しただけ。それなのに、お互いがお互いを好きでたまらないの!
これは運命なのよ!だから、ごめん!」
「全然、相手のことを知らないのに!
ずっと一緒だった俺をフルのか?」
思いっきり睨みつけたけど、紗季は全く動じなかった。
「ええ、そう。ごめんなさい。」
「ああ・・・」
俺はベンチにへたりこみ、頭を抱え、髪をかきむしった。
「悪いんだけど、周りに、カレに、誤解されたくないから、もう紗季って呼ばないでね。」
全く悪いと思っていなくて、
出来の悪い子どもに、釘を刺すような口調、
俺はそんなふうに言われるほど、バカなことを、悪いことをしたか?
「黙れ・・・」
「誤解されたくないから、ただのクラスメイトの距離感にしてね。」
「うるさい!ふざけんな!もう、俺に近づくな!行け!行っちまえ!」
涙が流れ出し、止まらなかった。
「わかった。じゃあね。」
紗季はそうつぶやくと、すぐに俺から背を向けた。
「あっ・・・」
行ってしまう紗季を引き留めようと、手を伸ばしたけど届かなかった。
紗季は胸を張って、さっそうと、弾むように遠ざかっていった。
「わあああ・・・」
しばらくその場でわんわん泣いたあと、
家に帰ってリビングのソファに寝転んでまた泣いた。
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