第16話 高1 ・ 10月

2学期の中間試験の初日の朝。

私とその隣の金吾の席の周りにいつものメンバーが集まっていた。

ユイカ、雄太郎、晴子、誠人と純の7人。


「トップは譲らないから。」

自信満々に晴子が宣言すると、雄太郎が茶化した。


「トップは誠人に譲るぜ。」

「いやいやいや、お前は永遠のトップだろ?」

「いやいやいや、もう世代交代の時期だ。」


最下位争いをみんなで笑っていたら、榎本くんがニヤニヤしながら近寄ってきた。

6月の体育祭の事件の後からは、私たちに近寄って来なかったのに。


「へへへっ。試験前なのに余裕だな。」

榎本くんは私と金吾を見比べて、嘲りの笑みを浮かべた。

そして、振り返るとクラス中に響き渡る大きな声を出した。


「鮫島、熊谷、お前ら入学式の日は恋人がいたんだってな!

だけど、入学式の日に二人ともフラれたんだ!

熊谷は松久保に!鮫島は夜木に!フラれたんだ!


松久保と夜木は初対面で、

お前らは幼なじみで、10年?15年?の時間を掛けてきたのにフラれたんだ!

そんな長い時間をあっという間にひっくり返されるってよぉ!

ダッサ!カッコ悪~!


俺なら恥ずかしくて学校へ来れないね!

だって、相手は同じクラスで毎日、ずっとイチャイチャしてるんだぜ?

それなのに、仕返しもせず、ずっと同じ教室にいるって!

お前ら、ダサすぎるよな!ぎゃははは!」


バレた!

どうしよう?

ユイカと雄太郎がビックリして私を見つめていた。


やっぱり、バレてしまった!

だけど、なんでこんなタイミングで!

クラス中から一身に注目を浴びていた。


どうしよう!


助けを求めてそっと見てみたら、金吾は余裕の笑みを浮かべていた。


そして、金吾はゆっくりと立ち上がると、クラス中を見渡してから

榎本に負けない、張りのある声を出した。


「ああ、フラれた、フラれた。

俺も悠里もフラれたよ。

そのことは、雄太郎たちには話していたんだけど、

お前には届いていなかったんだな。

ところで、その悠里にフラれちゃったよね、榎本クン!」


「なっ!」

詰まってしまった榎本を嘲笑いながら、金吾はもう一度、大きな声を出した。


「ああ、そのうえ、悠里と仲がいい俺に嫉妬して、

俺をぶちのめそうとして、たった1発で返り討ちされたよね、榎本クン!

たった1発ってかっこいいよね、榎本クン!」


「黙れ!てめえ!いい加減なこと言うな!」

激高した榎本を全く気にせず、金吾はスマホを操作していた。


「そうそう、お宝映像があるんだった。はい、ポチっとな。

クラスラインに投稿したよ~、みんな~、見てね~!」


榎本は慌ててスマホを操作すると悲鳴を上げた。

「やめろ!やめてくれ!消してくれ!頼む!」


「あ~、あ~。そんなに言うなら取り下げてあ・げ・る。」

金吾がニヤニヤ笑いながら、すぐにスマホを操作すると、

榎本はひゅーひゅーと大きく息を吐いて、がっくりと肩を落とした。


終わった。


とりあえず、だけど。


ホッと大きなため息をついた。


だけど、前座が終わっただけで、本番はこれからだったんだ。


教室の対角、廊下側の最前列で立っている松尾進が、

目を血走らせ、狂気じみた笑みを浮かべて大声を出したんだ。


「熊谷悠里の母親は風俗嬢だ!ソープ嬢なんだ!

ゴールデンタイムっていう店で、キアラって源氏名なんだ!

Eカップの優しい熟女で、NO.1嬢だってさ!

予約取れなかったよ!

ぎゃははは!」


松尾の調子の外れたバカ笑いが静まり返った教室中に響いた。


辺りが暗闇に覆われ、急に寒くなり、クラスメイトの針のような視線を浴びた。


そして、松尾は私を指さした。

「風俗嬢の子が進学校へ来るんじゃねえよ!

お前もそこで働けよ!

母娘でNO.1を争えよ!

お前ならいける!ぼろ儲けだぜ!

ぎゃははは!」


「嘘よ!嘘!嘘!全部、嘘!」

私は絶叫した。


「嘘じゃね~!俺は確かめ」

また、松尾が大声を出していたが、


「それがどうした!」

怒気をみなぎらせた金吾がそれをはるかに上回る大声を出して遮った。

また教室中が静まり返り、松尾でさえ息をのんでいた。


「俺はお前より、悠里を信じる!

悠里のお母さんがどんな職業かは知らない。


だけど、悠里を真面目で、優しくて、魅力的な女子に育ててくれた

悠里のお母さんを尊敬する。


肝試しの時、フラれたからって悠里を真っ暗闇の山中に、

置いてけぼりにした松尾、お前なんかよりはな!」


金吾のお陰で、世界が明るくなって、暖かくなってきた。

母のデマを大声で流し、興奮していた松尾の顔がたちまち青ざめていた。

流れが変わって、私へのクラスメイトからの視線が少し優しくなった。


「そうだよ!そもそも、親の職業なんてアタシたちには関係ないよ!」

「ホントに!悠里はウチらの大事な友達だよ!」

ユイカが、続いて、晴子がそう叫んで、

席にへたりこんで泣いている私の肩に手を優しく置いてくれた。


「フラれたから、その相手を貶めるって最低だな、お前!」

「松尾!お前は自分のやらかしを反省しろ!」

雄太郎と誠人が松尾を追撃すると、

逆にクラスメイトの厳しい視線が突き刺さって、松尾は力なく席に座り込んだ。


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