第18話 高1 ・ 11月

11月の水曜日、いつもの4人で弁当を食べていた。


今日の俺の弁当は、ご飯、ふりかけ、プチトマト、ミートボール(冷凍)、かまぼこ、そして、玉子焼きだ~!


「どう、俺のつくった玉子焼き!会心の出来栄えなんだけど!」

玉子焼きだけ別のタッパーにすべて入れてきていて、3人に試食をお願いした。


「ほう、どれどれ。」

海原雄山のような厳しい視線が俺の玉子焼きを射抜き、ユイカの口に吸い込まれた。


「うむ、まあまあだ。成長したな。」

「いや、お前の弟子じゃね~し。」


「!!ほんとに美味しい!」

悠里が目を見開いて驚いていた。


やった!

「長く、苦しい、修行の成果が出たよ。」


よよっと泣きまねをすると、雄太郎に突き放されてしまった。

「大げさで、わざとらしいな。演技力はゼロだな、ゼロ!」


★★★★★★★★★★★★★


「ねえ、ちょっと頼みがあるんだけど・・・」

みんな、弁当を食べ終わるとユイカがおずおずと切り出した。


「珍しいな。お前がそんな殊勝な態度を取るとわ!」

「雄太郎、黙れ。」

「厳しい~!」

雄太郎のお陰で、たちまちユイカが元通りになった。


「土曜日にさ、一緒に、市民会館に行ってくれないか。

その~、アタシの絵が美術展で入選に選ばれたんだ。」

「凄い!」

「おめでとう!」


俺と悠里が称賛すると、ユイカは照れ笑いを浮かべた。珍しい・・・

「えへへ、ありがとう。」


「・・・でもよ、なんで俺たちなんだ?

美術部員と行かないのか?」

雄太郎が素朴な疑問を口にすると、ユイカの笑みが苦笑いに変わった。


「それは、ほら。アタシしか入選しなかったから・・・」

「なるほどね~。」


「じゃあ、そのあと何か食べようぜ。」

ノリノリで雄太郎が提案すると、ユイカは白けた目をむけた。


「アンタ、テニス部は?」

「うん、たぶん、その日、病気になるから。仮病っていう病気に。」

雄太郎はわざとらしく、ゴホッゴホッと咳き込んでいた。


「アンタはいい友達だよ。」

「いや~、それほどでも。」


★★★★★★★★★★★★★


土曜日、指示された電車の車両に乗り込むと、

ユイカ、悠里、雄太郎が手を挙げた。


だけど、雰囲気が固い?


見渡すとユイカたちの反対側に20歳くらいのド派手な格好の男がいた。

秋なのに上は派手なタンクトップだけで、ピチピチのボトム、

アクセサリーをじゃらじゃらさせて、3人分の席を占領していた。


まあ、空いている席がたくさんあるので、問題ないけど。


ほんの5分ほどの辛抱だなって思っていたんだけど、

何やら事故があったらしく、途中で電車が停止してしまった。


すると、派手男のイライラが増してきて、貧乏ゆすりが激しくなっていった。


そんな派手男のことを一切気にしない5歳くらいの男の子が騒ぎ続けていた。


お母さんが何度か静かにしなさいって注意したんだけど、

男の子は静かになって、また騒いで、を繰り返した。


「うるせえ!黙れ、クソガキ!

静かにさせろや、ぼけ!

なにやってんだよ、くそばばあ!」


突然、立ち上がって怒鳴りまくった派手男が男の子をねめつけると、

ビビった男の子はわんわん泣きながら、お母さんに抱き着いた。


その男の子を抱き上げたお母さんはビビりながら必死で謝ったが、

派手男は怒鳴り続けていた。


「いい加減にしなさい。」

ユイカが怒りの表情で立ち上がった。


「なんだ、このアマ?」

派手男の注意はユイカに全振りとなった。


「アンタの方がやかましいのよ!

アンタの方が不愉快なの!

まだ、子どもの方がずっとマシ!

注意はもっと静かに、丁重にしなさい!」

ユイカは怒りを我慢できず、かなり大きな声を出した。


派手男が一歩、ユイカに近づくと、ユイカは半歩、後ずさった。


俺と雄太郎が左右からユイカの前に立った。


派手男、俺より頭ひとつ、デカい!


「なんだ、てめえら。

女の前だからって調子に乗るんじゃね~ぞ。」


「あの子がうるさかったのは確かなので、

あの子は向こうの車両に移動させますよ。」


「ああん、俺はてめえらにムカついてんだよ!」

派手男は俺と雄太郎に顔をぐっと近づけてきた。


ちゅってしてやろうかな?


あ~、いやだ、いやだ。


「ほらほら、後ろで貴方のこと、撮っていますよ。」

「ああん?」


俺たちの後ろで悠里がスマホを構えていて、

派手男は撮られていることにようやく気付くと少し迷ったようだった。


『お待たせしました。発車しま~す。』

タイミングよく車掌の声が車内に響き、電車が動き出した。


「ちっ、もういい。」

そう言い捨てると、派手男は元の席にドカンと座り、

そして駅に着くとすぐに降りて行った。


「「やれやれだぜ。」」

ハモったのでびっくりしたら、悠里がクスクス笑っていた。


「あの、ありがとうございました。」

男の子を抱っこしたまま、お母さんがユイカに頭を下げた。


「いいんですよ!

アタシも昔、弟が騒いでいて、あんな感じの奴に絡まれたんですよ!

そしたら、カッコイイお姉さんが助けてくれたんです!

だから、お互い様ですよ。」


ユイカは熱弁をふるって、お母さんの罪悪感を消そうとしていた。

ええ子や・・・


「本当にありがとう。」

お母さんは泣き止んだ男の子をおろして、頭を無理やり下げさせた。


そして、三宮駅につくと、俺たちと一緒に降りて、

会釈してから、親子仲睦まじく別の出口へ向かっていった。


母子と別れると、ユイカはへたり込んだ。

今まで、頑張ってかっこいいお姉さんを気取っていたんだ。


「怖かった~。ありがとう、雄太郎、金吾。」

「俺、殴られたら泣いてたわ。」

「うん、怖かったよな。」


ユイカ、雄太郎、俺が今更の弱音を吐くと、悠里が褒め始めたんだけど、

「みんな、よくがんばったよね。特にユイカ、ほんとに凄いね。

でも、金吾は意外だったよ。」

一転、悠里がいたずらっぽく笑った。


「へ?意外ってなにが?」

俺も頑張って立ち向かったんだけど・・・


「ユイカよりも早く立ち向かわなかったこと!

もしかして、JK女子しか守らないのかな~?」


「いやいやいやいやいや!

そうじゃなくって、ビビって、覚悟が決まってなかったんだよ・・・」

本音で、正直にカッコ悪いことを言ってしまった・・・


「ああ、ごめん。冗談だったんだけど。

ユイカをちゃんと守ってくれてありがとう。雄太郎も、ありがとう。」


駅を出て、雄太郎と並んで広めの歩道を市民会館へ歩いていると、

ご機嫌のユイカが俺たちの間に割り込んできた!


「アタシのナイトたち。さっきは守ってくれてありがとう~。

市民会館まで、またアタシを守って~。」


ユイカの右腕が俺の左腕に絡まり、

ユイカの左腕が雄太郎の右腕に絡められた。


「「任せろ!!」」

ユイカを真ん中に三人腕を組んで、笑いながら歩道を歩いていく。


「ちょっと!三人並んだら邪魔よ。」

後ろから悠里の注意が聞こえた。


「ほんとだ~。じゃあ、横向いて三人でカニ歩きしよう。

はい、カニ、カニ、カニっと。」


「「カニ、カニ、カニ、・・・」」

三人でもっと笑いながら、腕を組んだままカニ歩きしていると、


たくさんの通行人から奇異の視線を浴びてしまった。


後ろを歩いている悠里は他人のフリをしているし。


だけど、嬉しくて、楽しかったよ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★


市民会館の各会議室に部門ごとの入選作品が掲示されていた。


ユイカの入選作品はキャラクターデザイン部門で、

シャープな感じの男子、女子を描いていた。

「カッコイイね。」

「うん。」


絵のことを知らなくって、上手に描けない者が

絵の感想をいいまくるのもなんなので、黙って色んな絵を見て回った。


1時間ほど経ってユイカが満足したので絵画展をあとにした。


外に出ると、すぐ、俺と雄太郎は呼吸を合わせた。

「「悠里、ユイカ、誕生日、おめでとう!」」

悠里が11月下旬、ユイカが11月中旬が誕生日なのだ。


「ありがとう!知ってたんだ!」

「もちろんだぜ!」


「雄太郎がスイパラを予約してくれたんだ。

俺たちが奢るから一緒に行こうよ。」

「「ありがとう!」」


「じゃあ、カニ歩きで行こうぜ!」

雄太郎が誘ったが、悠里は苦笑いして、逃げ腰となった。

「え~、恥ずかしいよ!」


そんな悠里の隣に俺とユイカが陣取り、腕を組んだ。

「はいはい。女子二人を真ん中に、腕を組んで~。

はい。カニ、カニ、カニ・・・」


「「「カニ、カニ、カニ・・・」」」

「やっぱり、悠里も仲間になりたかったんじゃね~か!」


「「「アハハハ!」」」

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