第12話 高1 ・ 8月②
日が暮れ始めて、いよいよバーベキューをすることになった。
2チームに分かれることになって、
水風船戦争と同じく俺、熊谷さんと松尾、菅野さんの学級委員コンビの4人と
須藤、木岡、小笠原、大塚さんの4人に別れた。
慣れた小笠原が手際よく、2つの炭を熾してくれた。
「きゃ~、まこっちゃん、かっこいい!」
褒め上手な大塚さんが大げさに小笠原を褒めると、
小笠原は嬉しそうに鼻をぴくぴくさせていた。
フロントで買わずに、節約のために持ってきたお肉を並べた。
須藤たちの方から、大きな笑い声が聞こえた。
話好きな4人がそろっていて、話題に困らないみたいで、
みんなすごく、楽しそうだった。
それに比べ、こちらはなんだか緊張感があって、話が弾まないので、
いたたまれず、お肉に箸を伸ばした。
「まだ早い!」
「えっ・・・レアの方が好きだから、もういいだろ?」
「まだ早い!」
焼肉奉行の松尾が厳しい!
なんだか、みんなが肉や野菜の焼け具合にひたすら注目していた。
「はい、できたよ。」
松尾が焼けた肉、美味しそうなものから、
熊谷さん、菅野さん、松尾、俺の順番に配っていく。
ずっと頑なにそのローテーションだ。
・・・おかしくないか?
でも、口に出したらまた心が狭いって罵られてしまう!
あれってトラウマになるよね。
「ありがとう。」
肉の配布があったので、お礼がてらちらっと松尾を見てみたら、
熊谷さんのことをじっと見ていた。
あらら。
小笠原と大塚さんのカップル成立のためのバーベキューに、
追加クエストが発生しているじゃないか。
熊谷さんは松尾の行為に対して、普通に、嬉しそうなカンジだった。
う~む。
須藤、木岡、熊谷さんとのカルテットは居心地がよくって、めちゃくちゃ楽しい。
特に、熊谷さんとは期末テストでも勝負して、その時は負けて、
ハーゲンをおごらされた。
たった、それだけの関係だけど、これも楽しいんだよ。
松尾が熊谷さんに告白したらどうなるのかな?
恋人になるのだろうか?
松尾は学級委員、つまり、入学試験でトップクラスだったってこと。
姿かたちは、眼鏡ののっぽさんで、特に秀でているとは思わないけど・・・
ホームルームとかでの司会進行をそつなくこなすし、まあ優良物件なんだろう。
でも、熊谷さんに恋人が出来たら嫌だな~。
だからと言って、綺麗で仲のいい熊谷さんでさえ、恋人に立候補なんて絶対にしないけど。
今は、恋人なんて絶対にゴメンだよ・・・
「ねえ、どうかした?」
菅野晴子が心配そうに俺をのぞき込んでいた。
「ああ、炭火に見とれちゃっていたんだ。」
「ふふふ。4月の最初に戻っちゃったかって思ったよ。
あの時は、話しかけても全く顔を上げてくれなかったから。」
「ええっ。そんな失礼だったっけ?」
「そうよ!鮫島くんはウチのお腹に話しかけていたよ。」
「括れた腰が魅力的で・・・」
「はい、セクハラ~。」
菅野さんはにっこり笑ってから、
意味深に熊谷さんを見つめながら、俺の耳元に顔を近づけてきた。
「松尾くんに奪われちゃうよ。」
「・・・俺は恋人をつくる気ないから。」
「せっかく二人、イイ感じなのに?」
「そうかな?そんなことないだろ?」
「そんなこと、あるよ。」
菅野さんと小声でやり取りしていたら、
「あらあら、なに怪しいことしているの~。」
ってニコニコしながら、熊谷さんが体を寄せてきた。
熊谷さんに逃げられた松尾が俺を睨んでいる!
「・・・小笠原と大塚さん、上手くいくかどうか、話していたんだ。」
誤魔化そうと菅野さんにアイコンタクトをしてみた。
「ウチが上手くいくって言ったら、金吾は上手くいかないって言うんだよ。」
いきなり名前呼びされてしまったので、ぎょっとして菅野さんを二度見してしまった。
菅野さんはニマニマしていて、一方の熊谷さんの目がなんだか怖い。
「・・・二人上手くいかないって、鮫島くんは心が狭いのかな~?
ところで、菅野さんって前から金吾って呼んでいたっけ?仲よかったっけ?」
熊谷さんと菅野さんの視線がバチバチいっている!
あちっ!火の粉が飛んできた!
「ううん、たくさん話したのは今日が初めてだよ。
金吾ったら、晴子、金吾って呼びあおうぜって強引なの!」
ニマニマしている菅野さんが悪魔に見えたよ。
「うお~い!そんなこと言ってないから!
名前呼びなんて無理だから!無理無理!」
「・・・須藤、木岡って呼び捨てなのに、私だけ熊谷さん・・・
ねえ、壁を作っているワケ?」
拗ねた熊谷さんは俺の袖をぐいぐい引っ張ってきた。
「違います!」
「じゃあ、金吾くん、今度からこう呼んでみようか。悠里って。」
「いやあ、ハードル高すぎない?」
「はい。リピート・アフター・ミー。」「晴子」
菅野さんが熊谷さんの話中にぶっこんできて、また睨み合っている!
もうね、菅野さんの邪悪な笑顔が広がりまくっているよ!
「あ、はい。じゃあ、悠里。晴子。よろしく。」
観念して、一人づつ、目を見つめながらはっきりと名前を呼んでやったよ。
「「よろしく、金吾。」」
悠里と晴子が普通の笑顔になった安心したよ。
「じゃあ、俺のことは「進」って呼んでくれよ、悠里、晴子。」
大きな声を出して、松尾が割り込んできた。
「・・・なあ、お肉、焼きすぎてないか?」
「ああ、しまった~!」
バーベキューの片づけが終わると、花火をみんなで楽しんだよ。
調子乗りの小笠原が点火した噴出花火をもって、俺たち男どもに花火を向けてきた。
男どもは逃げまどい、花火のやり返しを企んでいたのだが・・・
「こら!」
みんな楽しんでいたのに、たった一人、大塚さんがマジで怒っていた。
燃え上がっていた小笠原がたちまちシュンと消火されてしまった。
「その花火はね、下から噴出することがあるんだよ!
私の親せきがね、大やけどして死にそうになっちゃったんだから!」
「マジで?知らなかったよ。もう二度としないから。」
「うん。じゃあ、線香花火でどっちが長持ちするか、勝負しようよ。」
「おう、負けないぜ!」
たちまち二人の世界を作った小笠原と大塚さんのやり取りを
みんな、ほほえましく見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます