第十三話

 旅行から二か月、戦法改善から一月後、ようやくランク昇給により信用を得た事で金庫の利用が許可された。


 鉄札から銅杯へ、とうとう冒険者としては一人前だ!


 ちょっと前の昼間にギルドの酒場でちょっと顔見知りと飲み食いしていたら、急にギルドの個室に呼び出されて面接が始まった時は驚いた。何よりビビった。

 

 心当たりなら割とあるし、ゲームじゃこんなこと一度も無かったし、前世の嫌な記憶が次々に蘇るんだもん……。


 まあ、聞かれた内容はいたって普通の質問だったから何とかなったけど。

 以下はそのやり取りの記憶だ。


「あなたの種族は分かりますか?」「恐らく人族ヒュームです」


「存命のご家族は?」「両親と兄が一人」


「故郷はワイセイルと聞きましたが、ゼットゥスの印象はどうですか?」

「言うまでもないと思いますが、都市の規模が凄まじいと常々思っています。それだけに依頼が豊富で、仕事を選り好みしていた身としてはとても助かりました」


「今後の展望などありましたら、是非聞かせてください」

「聞き及んでいるかもしれませんけど、ギルドの金庫を利用してお金を貯めたいですね。それでいつかは自身の飛空船で旅をしたいと思っています」


「という事は、将来的にパーティを組む意思はあるという事ですか?」

「そうですね、そろそろ一人では限界も見えて来たので。前向きに検討しています」

「成程、ギルドとしてもそれは強く推奨しています。良い出会いがあると良いですね」


「では質問は以上です。今日はありがとうございました」

「こちらこそ。いつも我々に寄り添う仕事をありがとうございます」


 対面式のいたって普通の話だけで終わった。もっとこれまでの来歴とか、達成した依頼の話とか、討伐した魔物についての質問が来ると思っていたのに。正直拍子抜けだった。

 もしかしたら今後は面接必須なのかな?だとしたら、ちょっとめんどくさいな。


 発行してもらって古いのと交換して貰った、新しい冒険者証に視線を移す。

 銅で出来たカード上のそれに、豪華な杯の絵とオレの名前が刻印されているシンプルな物だ。


 ゲームでも最初はカードの絵も石ころから。昇格するのに伴って、鉄の札、銅の杯、銀の草冠から花冠、金の旗と紋章となる。


 もう一段上の銀になると、金までは二段階踏む必要になるのだが。ここからはギルドの一存で上げるランクではなくなってしまう。

 冒険者ギルドと提携している商業、傭兵、職人ギルド四つの団体に認められる必要があるのだ。


 まあ、ゲームでは設定だけの話で、他のギルドの話は滅多に絡まなかった。普通に依頼をこなしまくって貢献ポイント稼いでいたら、初めの町で金紋章になったりできたけどね。


 あれはイベントシーンで他の人が「未熟なガキ(金紋章ゴールドエンブレム)が、銀花冠シルバーレガリアの俺に意見するな……」とか「君(金紋章ゴールドエンブレム)じゃ力不足だ、せめて銅杯ブロンズカップは欲しいね」などの面白い絵面を演出する為だけのやり込みだったな……。




 受ける仕事の範囲を広げたことで、この一月は手を出したい仕事を優先したらドンドン忙しくなった。

 金庫の開設にあたり。利用料を兼ねた一定額を中に修める必要があったから。手持ちのお金を全部突っ込んじゃって、ちょっと現金が足りなくなったのもある。

 

 それまで主な収入源にしていた、「陸路の往復護衛」や「町の公共物保全」、「地下水路の清掃」、「個人宅の魔物退治」などに加えて。今は「盗賊討伐」や「中規模の魔物退治」も受ける様にしている。


 他の冒険者が様々な理由でやらない、競争率の低い仕事は意外と多いので。報酬の総取りが出来るお一人様なら、実力と道具の消耗を少なく収める手さえあれば意外に美味しい物が多かった。


 周りの冒険者は未だにオレが一人で活動することに引いたり心配されたりされたが。だんだんそう言う事も言われなくなってしまった。ちょっと寂しい。

 まあ、何言われても聞く耳を持たなかった自分の態度が原因なんだけどな。


 しかし、ギルドでのやり取り通り、オレもそろそろ仲間を募っても良い時期だ。

 自身の船に乗ってこの世界を自由に旅したいと夢見る以上、飛空船を操る人手は必須の条件である。


 超小型の船なら一人で旅できるけど。そんなボートみたいな船はオレの好みではないのでNG。どうせ乗るなら大型の開拓船がいいなあ……。いっぱいギミックやガジェットがついてるゴチャゴチャしたやつ。それでいてどこか統一感のあるデザインが良い!しかもメチャクチャ速くて小回りも効いた船なら最高だ!


 ……とりあえず仲間は十人欲しいな。




 昇格の決定打ともいえる新たな力は、もう使えそうな時はドンドン使っている。

 あくまで電気っぽい魔力なので、仕事でも日常生活でも使いどころのある能力だ。


 雷属性はゲームでも大体の敵に通る優等生ポジションを誇り、それが利かない敵が初心者の壁と呼ばれているくらいだ。


 先日の仕事でも、ちょっと身体強化する魔力を調整したら、早く動けるようになったし、反応速度が人間の限界を超えて動けた。かねて予想していた通り、こっちの世界にも前世の理屈はある程度通用すると見ていい。


 いち早く能力に慣れるには、色々使い続けるのが一番!という事で、ここ一月は筋肉に微細な電流を流して筋肉を鍛えることを試している。

 効果はまだはっきりとしていない。だけど最近は筋肉痛がすごいので多分行けると思う。


 何よりもこの力に目覚めてから静電気が大人しくなったのが一番うれしいかもしれない。




 ある程度自分の実力に納得することができたので、そろそろ仲間を募集してみることにした。一人では大きな船は動かせないからね!


 取りあえず一人と組んでみて慣れていこうと思っている。なので今回は「対人関係に自信がある人」と条件を絞って募集してみよう。


 ギルドの人に相談したら、仲間募集用の掲示板があるのでそこに募集用紙を張ればいいとの事で、さっそく自作の用紙を掲載させてもらった。


 それからそれ程時間を置かずに、三名の名前が用紙に記されていたので。そこへ面接日時を書き込み、その了承のサインをもって募集を一時打ち切った。


 その間も仕事を続けつつ、面接の日までは地道にお金稼ぎだ。


 いやーしかし。早速、仲間になりたいという希望者が三人も来るとは思わなかった。思わず自己肯定感が高まってしまう。ちょっと……いや、かなりうれしい。


「ふふふ……リーダー……へへへ……」

「お、おい……」

「ん?」

「気持ち悪りぃから、その顔ヤメろ」


 一人の仕事もこれが最後かもしれないとニヤニヤしながらやってたら気味が悪いのでやめてくれとお願いされてしまった。

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