第十一話

 目的を果たし、一しきり笑った後は撤収準備。


 やっておいてなんだが、この技術はかなり先の物な事に加えてバリバリに違法っぽいので、ここに痕跡を残すのはヤバい。

 特にここで使った道具を特定されるのが一番まずい。ほとんど落雷でぶっ壊れてるけど、大きめの残骸は処分しておかないと、特定されてオレにつながる可能性がある。


 4の連中はどいつもこいつも倫理観が怪しいのが多かったので。たとえ他空域でもそれが自分の求める者なら、文字通り飛んできて好き勝手やりそうだ。


 お世話になったおばあさんとかにも迷惑がかかるかもしれない。なにせ奴らは人体実験上等の邪教集団なので、人の命が軽い軽い。


 黙々と雷でまき散らされた道具の残骸回収や、いつの間にか出ていたオレの血を埋めたり、クレーターに人が居た痕跡が消える様にした。


 もともと豪雨の中なので、ほっといてもよさそうだが。それでも痕跡はしっかり消しておきたい。


 体感小一時間程かけて作業を終えると、帰り道に雨粒で土汚れを落とし、こっそりと部屋に戻り、ぐっすりと眠った。


 あー……成功して良かったー……。




 翌朝の宿では、昨夜の雷がすごかったというおばあさんの話で持ち切りだった。


「もーねぇ、あんなのおばあさん初めてでびっくりしちゃってなぁ。夜中も夜中に飛び起きちゃってよぉ」

「いやーすごかったですねー」

「お前さんこれから外見に行くんじゃろ?気いつけていきな」


 どうやら昨夜、オレが出かけていたことには、気づいていなかったようだ。とりあえず一安心。


 今日の予定は島の見回り。宿にやってきた島の人に頼まれた。


 昨夜の嵐で、観光地行に何か起こっていないか調べて欲しいとお願いされたのだ。丁度、オレも外に出る用事が欲しかったので、喜んで協力を約束した。


 支度を済ませると、おばあさんが弁当を持たせてくれた。ちょっとうれしい。「気を付けてなー」と応援され、見送られながら宿を出発した。


 個人的な都合もあるが、嵐の被害調査は勿論まじめに行っている。

 オレにとって都合が良かっただけで、非常時なのは間違いないのだから当然だ。


 各地で落雷の影響が無いか調べながら、日の出ている明るいときに、昨日の森の広場へ行ってきた。

 痕跡を明るいうちから再調査出来たが。僅かな見落としも残さず隠蔽は完了していた。


 一応、魔力探知で調べたが。魔石も吹き飛んでいて欠片も無かった。


 滞在三日目は一日かけて村と観光地近辺の被害状況を調査した。結果を報告したらとても感謝されて、一日ぶんの宿代を奢ってもらった。


 帰りの船は明日の予定だが、昨日の話からするともう少しかかるかもしれない。もう少し協力させてもらおう。




 ライブリング島二日目の大嵐は、島の長老でも見た事の無い巨大なものだったそうだ。

 あれから滞在を一日増やし、飛空船の修繕が終わるまでにオレは島の各地で大工仕事に励んで過ごした。


 彼らの土地で勝手に人体改造を行った罪悪感もあるけど。ここの人たちは土地の気象と違いとても親切で、何かあるとすぐに構ってくれるので何か居心地が良かった。


 船が来る日。オレはここに来た時とさほど変わらない量の荷物で港に居た。


 おばあさんやオレに依頼してきたお爺さん(町長だった)、島の農家さんや猟師さんがお土産をたっぷりと持たせてくれて。怪しげな道具を入れていたリュックが、美味しい保存食と土産物でパンパンだ。


 この島に行ったことは隠さず「休暇のはずだったのがとんだ災難にあってしまい碌に観光もできなかった」という事にしておくつもりだったが。このお土産も配って歩けば、ばれる事はまず無いだろう。


 オレの食べる分は別にしておいてくれたので、帰ったら宿の女将さんに分けて美味しく料理してもらおう。


「碌にもてなせんで、すまんねぇ。こりてなかったら、またおいでな」

「そうですな。またきて今度はしっかり観光していってほしい物ですじゃ」

「もちろんです!今度は自分の飛空船にのって来ますね!」


「はっはっは!そりゃあいい!その時はぜひ、ライブリング島へいらして下さい」

「それならおばあさんも長生きせんとねぇ」

「皆さん、大変お世話になりました!では、オレはこれで……」


 島の人たちに見送られて飛空船に乗り。オレは島を後にした。


 出来れば今度は普通に観光に来たいなぁ。




 来た時とは違う航路の旅だが、面子はその時とほぼ変わらない。

 船は真新しい修繕の跡が目立ち、もともとのツギハギに新しい柄が加わっている。


 船旅中もオレのやる事はまだまだ多い。やっと手にした念願の力。訓練をして早く慣れるのだ。


 今度は船の探索は無しで、大人しく用意された船室にこもる事にした。


 先の移動の時は一乗客だったが、今はそれなりに会話する中になっているので、そこら辺の融通が利く。

 船長を始め、乗客も今度はさらに少なくなったので。数少ない個室も、オレが頼んだら使わせてもらえた。勿論、お金は払っている。


 新たに手にした雷の力は、強力だがそれと同じくらい危険を伴っている。

 これまでの訓練で得た経験と数々の知識を駆使し、この力を完全な制御下に置く必要がある。


 なので今回の航海中は、緊急時以外基礎練習の時間とする。

 船室でひたすら修練に励む俺の姿は、船員たちには旅行疲れととられたようだ。差し入れの果物や水がありがたかった。


 冒険者を始めて一年以上かけることで、ようやく自分の考える最低限の素養を準備したので、次は本格的に経験を積んでゆく。


 とりあえずゼットゥスに戻ったら仲間でも探してみよう。




 今度は大鴉の魔物にも襲われず、無事にゼットゥスへ帰ってきた。


 死ぬ様な経験をしたからか、やけにあの町の風景が懐かしい。まるで長い事帰ってきていなかったように感じる。


 港で濃い体験を共有した奴らとの別れを済ませ。冒険者ギルドに提出する書類を受付さんに預けたら、ようやく自分の部屋に帰ってきた。


 とりあえず旅の荷ときをしたら、町の知り合いに帰った事を報告して回った。


 ついでに近況を聞いてみたが、大した変化は起こっていない様だ。よくある噂話だったり、誰かのケンカの勝敗くらいしか耳にしない。


 つまり平和だったという事だ。今夜は外食してさっさと寝る。

 明日からはまた修行と仕事に精を出す予定なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る