第十二話

「それではこれで失礼します。今後とも冒険者ギルドをごひいきに!」

「ああ、ありがとな。また何かあったら君たちに頼むことにするよ。今日は本当にたすかった」


 今回の依頼主と別れのあいさつを交わし。ギルドへの帰り道を歩きながら、オレは仕事の振り返りをしていた。

 依頼主はちょっとした店を持っている商人で。先日、倉庫の中を整理しようと扉を開けたら、内部に人ほど大きい巨大なクモの巣があったという。


 当然、自分の手には負えないと判断し、緊急の依頼としてギルドに張り出されていたのをオレが受注した。


 魔物は「クワイエトスパイダー」だった。「沈黙」の状態異常をおこす毒をもっていて、良質な糸を出す魔物だ。

 ねばねばした糸で獲物を捕まえる待ち伏せタイプのクモだが。どうやら産卵のための営巣を倉庫でやっていたらしい。


 なので依頼主に一言断ってから、糸にワザと引っかかり、仕留めようと近づいてきた所を電撃で焼き倒した。


 幸い、糸以外には倉庫の品にも被害が出なかったので。依頼主は糸は自分で何とか処理すると言い、仕事はそこで終わった。


 魔物の死骸は袋に入れて背負っている。ギルドの受け取り所に持っていけば、手数料と引き換えに処分してくれるのだ。

 勿論、売れる所は別にして包んでくれる。


 中継地の町ゼットゥスへ帰港してから数日後。オレはいつも通りの生活リズムに戻っていた。




 体質改造を行い町に帰還してから数日。ようやく念願の魔法の力を手に入れた訳だが。それを表だって使ったりするのは、少し時間を空けようと思っている。


 理由の一つとして、この世界では魔法は魔力を使った技法の一つなわけだが。それを習得するには当然、時間がかかる。

 ゲームではスキルポイントを割り振る事で習得していたが。残念ながらここではそれは出来なかった。


「長い時間をかけて魔力を知覚し、世界を構成する一部である魔力に親しみ、自らに流れる魔力を知る事で、やっと魔法と言う技を知る事が出来るのだ。」(古本屋に売っていた魔法入門書の記述)


 この本によれば、普通の人は魔力を知覚するところから始めているが。オレに関しては、この項目に書かれているほとんどを終わらせている。十分、魔法の素養が育っている段階に入っていると言えるだろう。


 オレが魔力を使った基礎技能を使える事は、ギルドの人たちを含め、既に周囲には認知されている。つまり、この本を持ち歩きながら練習している所を目撃させれば。魔法を使っても「やっと成功したか」と思われるだけで、悪目立ちしない!


 邪推でも余計な探りを入れられると、今後のスカラべのストーリーにどんな影響を与えるか分からない。

 出来るだけ物語は乱したくないので、なるべく邪教団も空賊にも関わりたくないのがオレの方針。

 これからも直接襲われない限りは、自分から首を突っ込むのは控えておく。


 今後は魔法の訓練も行う必要が出てくるので、周りの人にも言わない訳にはいかないので、可能な限り自然なかんじで見せつけていく。


 堂々と使い始めるタイミングは半月後位を考えている。出来るだけ喜んで乱発していれば、危なっかしい感じで微笑ましく見てくれるだろう。


 この後、訓練場でボヤ騒ぎを起こした。

 魔法を使えることは周知されたが、同時に失敗の噂も流れたので、しばらくは依頼でも誰一人組んでくれなかった……。




 さて、多少の失敗はあったが。自身の懸念点を解消した今。未来への更なる躍進を現実のものとするため。地力を更に上昇させる為、鍛錬だけではなく実戦の経験を積んでいきたい。


 具体的に言うと、今後はもっと危険な依頼もドンドン受けていく。


 今までは身体づくりと資金集めを重点に置いて、比較的危険性が低い物を選んでいた。

 ギルドでも、今のオレならもう少し難しい仕事も大丈夫、とのお墨付きを得ていたが。改造前に変な傷を負ったりするのを防ぐべく、今まではやんわりと遠慮していたのだ。


 急に方針替えする事は疑問に思われるだろうが。これが魔法を習得した後なら、新しい力を試したいという、一般的な挑戦として受け取ってもらえるだろう。


 調査や探索だけでなく、討伐を含めた戦闘を伴う依頼も満遍なくこなしていくとしよう。




 魔法を織り交ぜた戦法に変えてはや一か月。依頼の規模が大きくなったが実践はいたって順調だ。


 戦う魔物も幅が出てきて、いつもの奴らに加えて「ガイストエッジ」(攻撃する時だけ実体化する剣の影みたいなやつ)「シャドーフライ」(自分の分身を一つだけ出すハエの群れ)「ポイズンフォグ」(気化した身体を持つスライムの親戚コア丸出し)と、実体があやふやな奴らも見るようになった。


 名前を売りながら冒険者ランクを上げる計画は、依然進行中だ。


 鉄札の一つ上、上位ランクの「銅杯どうはい」。金庫利用を開放するために目指すそのランクは、ようやく背中が見えて来た。


 これまでの評価に加えて、魔法の使い手になった事を評価してくれれば、ゲームの描写を鑑みるに、十七の若者でもランクアップさせてくれるのではなかろうか?


 ある程度経験を積んだ若い冒険者が、普段から使用していた魔力に慣れて魔法の力に目覚める。この世界ではそこそこある事で、オレはその条件にも合致している。


 ちょっと時々変な事もやっているかもしれないけど、他の組織に鞍替えされるよりは、今のうちにギルドの看板を掲げてもらう方向に考えてもらいたい。


 魔法を戦いに織り交ぜた戦闘は、上手いこと噛み合っている。近頃は擦り傷程度のケガすらした覚えがない。


 最近は剣に纏わせた魔法武装の魔力を起点に放つ技「雷刃サンダーエッジ」や、盾から同じような理屈で感電させる「往雷カウンターボルト」など、ゲーム技の再現をしている。

 前世のとった杵柄。使い込んだ回数ならちょっとしたもので、実際に使ってみた時はかなり感動した。


 その代わり強化して特化させた魔力によって武具の消耗が激しくなり、点検整備の値段が増しているが。その分を補って余りあるほど報酬の実入りが良い。


 これなら予定より早くランクアップできそうだ。あと一つで冒険者用の貸金庫が開放され、扱える金額が増えるのだ。


 それを成すにはまず仕事。今日も依頼掲示板で仕事を探すオレの背中を幾つかの視線が捉えていた。

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