第三十五話
牢獄で一戦した後、一通り内部の探索を済ませたオレ達は。一度休んでおこうとブリッツ・スパロウが停まっている隠し港まで戻って来ていた。
桟橋に泊まる船は、出かける前のまま無事な姿で。乗り逃げもされず、損傷も無い所を見るに、本当にこの島には誰も居なかったようだ。
いや、いたのだろうが。あのブラウンの手にかかって全滅したのだろう。
結局、彼の亡骸を運ぶための道具は見つからなかった。出来れば持って帰ってやりたかったが、保存して運ぶための資材も置いておらず。オレ達に出来ることは、再び起き上がらない様埋葬しておく事だった。
休息を挟んでもう一度、最上階の扉まで行き外の様子を窺ったところ。外の嵐もやっと通り過ぎたのか風の勢いも収まって来ていた。
なのでこの機を逃さず、オリガと二人して牢獄内の遺体を全て運び上げ、空賊とブラウン二か所に分けて頂上部の土地に埋葬する事にした。
これからこの島に上陸する人がゾンビに襲われるのを防ぐためであり。彼らを野ざらしにする事に忌避感を覚えたオレの気分の問題でもある。
資材を使った即席の棺桶に土をかぶせて墓石を立てただけの簡素な物だが、彼らが再び魔物と化さない様に祈っておいた。多分これで大丈夫だろう。
「よし。これなら大丈夫だろ」
「お疲れ様。おお、なかなかしっかりしたお墓だ。凝ったねえ」
「一応、空賊たちも弔っておいたから。これでどっちも起き上がる事は無いと思うけど……」
「うん、良いと思うよ。ゾンビなんてしっかり埋めておけば予防できる物だし」
嵐が去って快晴の空の下。オレの作業が終わった頃に、オリガも再度のお宝捜索から戻って来た。
諦めきれないという彼女の情熱に押されて許可を出したが。どうやらそれは実る事が無かったようだ。
「あれだね。奴らは全財産を持ち歩くタイプの空賊だったんだ。そうに違いない」
「それかブラウンが奴らをこの島から追い出したとか?」
「うーん……それは違うと思う。もしそうだったら、もっと戦いの痕跡で色々散らかってると思うんだよね」
「あー……」
「臨時収入が入ると思ったのにーとんだ肩透かしだよ!」
港に行く通路をそんな感じの会話で流し。空模様からしてそろそろ出れそうなので、船の点検をした後この島から出発することにした。
さっき行った最後の探索で目ぼしい物も見つかっていないので。オリガの気もすんだ様子。ブラウンを含めた遺体は弔っておいたのでもう動かないだろうし。彼の遺品も預かってある。
水や食料に関しても、ここに放置されていた物に頼るほど困っていないので、ややもったいないが朽ちるに任せる事にした。
代わりに幾つか飛空船の部品は頂いておく。
「主翼も副翼も大丈夫。主機の調子も良いし燃料はまだ大丈夫だよ」
「こっちも気球部との連結は異常なし。船体に一部怪しい所があるから補強しておいた。ちょっと視てもらいたいから、寄れそうな所があったら寄ろう」
「了解。じゃあ、出発!」
点検の結果大丈夫そうなのでいざ出航。
再び洞窟の中を慎重に進み、出入り口までは問題なくこれた。
外に出たところ、島の周辺は予想通り風の勢いも弱く、雲もさっきより大分減っていた。これならブリッツ・スパロウを走らせる事に不安はない。
どれだけ予定の空路から逸れたのか、現在地を測るべく地図と道具で照合したところによれば。少し外れて流されているが、まあこの程度なら問題ない。
少し予定を改める必要はあるが、あと数日で目指すコルノス空域に着くのは変わらず。燃料を切り詰めて船を進ませたりする必要が無いと分かったのは幸いだ。
さっそく主機を蒸かし、修正した空路へ船を走らせながら。オレは舵をオリガに任せ。先ほどの点検とは別に、航行中の船を見回りダメージの影響が無いかを調べていた。
少し怪しい所と彼女が言っていた側面は。隙間風があるものの、航行には影響は無く何とかできている。注視しておくのは勿論だが、取りあえず放置するしかないか。
「取りあえず隙間に布でも詰めておこう」
空賊の小島を出て少しした道中、上手く気流に合流出来たところで、またまた魔物が襲ってきた。
今度は群れではなく。さっきの嵐で群れから逸れた個体との遭遇戦だ。どうやら随分と弱っている様子だが、血気盛んに襲い掛かって来たのでサクッと倒す。
ここに来るまでに魔法を多用したので大分魔力も減ってきていた。もう半分くらいしかないので、出来れば魔物も空賊も遠慮してほしい。
そうして予定の気流に乗った頃には夜になっていた。今夜も錨と凧の合いの子みたいな道具で船をゆっくり進ませながら。交代で船番を行う。
今日はオレが先に寝ずの番を行うので、甲板に椅子を出して月見しながら探知を広げる。
嵐の過ぎ去った空は、雲一つない快晴だ。
夜だけど月の光で優しく照らされ、月明かりに照らされる船の陰影と、遥か下方で海面がチラチラと白く煌めいていた。
少し前に体験した凶悪な嵐とは違う、心地よい風が静かに船を運んで行く。
この風景を独り占めするオレを他所に。船室の中では主機の動く音だけが響いて探知にて知覚させていた。
穏やかな一時に釣られたのか。ふと、あの冒険者ブラウンの事を想った。
彼にも帰る場所や、親しい人が居たのだろうに。薄暗い小島の牢獄で、動く屍として獲物を探す姿は、オレにも他人ごとではないだろう。
ゲームでは空賊もどこか憎めない奴が多かったが。実際には人も平気で殺める奴らもいる。そういう事だ。
そう考えれば、あいつらの飛空船は落としただけで済ませたのは悪手だったかもしれない。今度見かけたらしっかりふん縛って突き出そう。
夜半の道中、オレは新たな決心をして一度目の見張りを続けたのだった。
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