第三十四話
突発的に始まった、空賊の隠し拠点である洞窟の調査だが。幸か不幸か、探索を開始して今のところ拠点内部で人との遭遇は無かった。
薄暗い環境を利用して、不意打ちの一つや二つはしてくるものと覚悟していただけに。少し拍子抜けだ。
二人で通路を歩いているが。床に平らな石が敷き詰められて、しっかりと道が整備されている。空賊たちにとっては「まるで」ではなくまさしく秘密基地だったのだろう。
恐らく最初は自然洞窟だったのを掘り進めたのであろう基地内部は。道は入り組んでいるものの、構造としてはシンプルだった。
港から一本の長い通路に繋がっていた。それがらせん状に上下に伸びた造りで、これが基点となる。
先ずは天頂部へ向かってみたところ、島の最上部に繋がっていた。
「どれどれ」
ガチャ
――――ビュオォォォ――――
バタン
「うわっちょっと開けただけでずぶ濡れだね」
「まだしばらくダメそう」
外はまだまだ嵐の真っ最中だった。オレの服は犠牲になったが、室内に吹き込んでもイケないのですぐにドアを閉めた。
上に向かう道中に幾つも壁を掘って作った部屋が連なっていた。どれも家具や収納が用意され、かなり手の込んだ個室となっている。
こんなに人の手が入っている小島が、この空路で今まで発見されていないのが信じられない。さっきも考えた通り、別のところから流れてここまで来たのだろう。
各部屋も勿論、中に入って一部屋ずつ調べて回った。先ずは宿舎や食堂、武器庫や倉庫なども巡ったが。個々人の持ち物入れまで漁っても、碌な物が無かった。
大多数は腐ってたりして使い物にならず、使えそうな保存食などはネズミや虫が食べてたのだ。ちょっとそれは口に入れる気にはならない。
下の階層は魔石や飛空船の機材などが並ぶ倉庫がほとんどだったし。オリガが狙うお宝が隠してある部屋などは見つからない。
似たような部屋が続き、単調になってきた探索に変化があったのは。階下の牢獄と思われる場所での事だった。
オレの魔力探知に一つ、物陰でこちらを窺う気配を見つけたのだ。
「オリガ。ちょっと」
「なに?どうかした」
「探知に反応アリ。一体、そこの牢屋「アイヒルっ上!!!」にいっ!?」
こちらが気付いたことを察したのか。牢獄の天井から何者かが剣を振りかぶり襲い掛かって来た。
「ジャアッ!ゴギャハッ!」
「おおっ!今の躱し方すごいね!人間の動きじゃないみたいだ!」
「それ今言うことかな!?なんでこんなに機敏なのコイツ!?」
声をかけられたおかげで相手の攻撃に剣を挟み込めたが。向こうも不意打ちが失敗したらさっさと退いて行き。そこで初めて相手の姿が見えた。
腐敗によって外観が劣化している為定かでは無いが、恐らくヒューマの男性の遺体が変化したゾンビと思われる。
溶けかけ肉で支える顎をカチカチ鳴らし、手に持った剣を巧みに振りかざしているが。憎しみに満ちた形相と崩れかけた身体も相まってマジで怖い。
しかもそれだけでなく、牢の中で壁や天井を足場に飛び回り、前後左右に加えて上下まで駆使してくるからたまったものではない。
牢の奥の方に空賊の死体が転がっているのは。恐らくはこのゾンビにやられたのだろう。コイツを倒さねばオレ達も仲間入りする事になる。
幸い理性はほぼ無いみたいで、再び物陰へ隠れるようなことは無かったが。かなりすばしっこく、オリガと背中合わせになって死角を無くす事で応戦した。
幾度か切り結んだが躯に宿る怨念故か妙に強い。こちらが自由に動けない様な立ち回りを徹底し、剣の技量はオリガにひっ迫する使い手だ。
彼女に及ばぬオレは魔法で強化した反応速度で何とか捌いているくらいなので。留守の空賊では一たまりもないだろう。
このままでは焦れた先で事故りそうなので、魔法を切って盤面を打開する事にした。
「オリガ!魔法二秒後!」
「了解」
狭い室内で行動を制限させるため雷細剣を選択した。これなら射出した後しばらく雷の剣が残るので、移動先を減らす事が出来るのだ。
電気の音が響きゾンビに向かって撃ち出された魔法は、しかし魔力を察知したのか俊敏に魔法を躱される。
それでも狙い通りに相手の動きを邪魔する事が出来た。向こうは電撃を警戒して近づけない所も、術者のオレは素通りできるオリガとの連携で挟み撃ちの体勢に持ち込んだ後は特に語る事も無く順当に討伐できた。
「はぁ……何とかなった……」
「かなり強かったね。生前は相当な使い手だったんじゃないかな」
動かなくなった遺体を前に、オレはいつの間にか冷や汗をかいていた事に気づく。
紛う事無き実力派ゾンビだった。今回は上手く対応できたが、オレ一人では魔法を使う間もなく押し切られたかもしれないと考えると今更怖くなってきた。
牢獄にある空賊の死体と纏めて何かないかと漁ってみる。
一人だけ服装も違うゾンビになった彼は、空賊に捕まった犠牲者だろうか。
「うーんこれは唯の量産品だね売ってもそれなりかな」
「他には?身元を記した物とか無いか」
「えーっと……あっこの人冒険者だ。ほら、冒険者証があったよ」
オリガが懐を探って取り出したのは、彼の所属を示す一枚のカード。オレ達も持っている冒険者の証だ。
「オルビス・ブラウン。スゴイね、銀葉冠の冒険者だ」
「所属は?」
「ブランガルド。ワタシは聞いたことが無いな。アイヒルはどう?」
「オレも無いね。という事はこの人、かなり遠くまで流れて来たんだな」
「空賊の捕虜としてか、自力かは知らないけどね」
オレの前で二度目の眠りについている同業者は、オレすら知らない所からやって来ていた。
彼の冒険がここで終わったのかは定かでは無いが。彼の事を心配する誰かは、今も心配しているのだろう。
それを終わらせるためにも、彼の死はギルドへ伝える必要があるのだが、オレ達は遺体を運ぶための道具を持ち合わせていない。
なのでこの島の資材で何とか工面できないか探索を再開する事にした。彼は取りあえず即席の棺桶に入れて牢に置いておく。
休息も取って探索を再開する。牢獄の先、島の下方へと下って最下層へ出たが。そこは唯の見張り塔だったので引き返す。
途中にあった横道を進むと、それは島の中央部へと伸びていて最深部にある大部屋へ出た。
「ここは?魔石と……ツルハシ?」
「うわー……これ飛空船用の魔石固定器具だ。成型用の金型もあるよ」
そこには島の浮力を生み出している魔石が露出しており。付近に魔石を採掘した痕跡が残されていた。
恐らくここで島の高度が落ちない程度に魔石を採掘・加工し、自分たちの飛空船に搭載していたのだろう。
奴らの飛空船の動力はこうして調達していたという事になる。いくらお尋ね者で正規の業者から調達できないとはいえ、これは魔石で浮遊するこの島の寿命を削る愚かな行いだ。
これでアジトがダメになったらどうするつもりだったんだ?また何処かの無人島に引っ越すのか?その労力を空賊相手にも商売する業者探しに使った方が良いのではないか?
こんな事をする奴らに捕らえられたブラウンは何かあったのだろうか?
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