第三十六話

 一夜明けた翌日の朝。ブリッツ・スパロウは朝焼けの雲の間をすり抜け、予定の航路を順調に進んでいる。


 寝ずの番を頑張ったオレ達二人は。あれから一度夜中にコウモリの魔物と出くわしただけで。大きな問題は無く夜明けを迎える事が出来た。


「見えたオリガ!島!島!」

「ふぁー……眠いから、今日はあそこで一泊ね」


 嵐で空路から逸れてしまい、ちょっとした冒険で時間を食ったが。それほど苦労せず遅れを取り戻したオレ達は、空図に記された島に到着した。


 この島は気流に乗って旅をする、昨日の小島と似たようなもので。そこにある小さな集落は、旅の飛空船乗り相手に商売をして生活の糧を手にしているのだ。


 飛空船の船員向けに宿泊施設や道具屋に工房、冒険者ギルドの出張所があったりする。前世で言えばいわゆるSAサービスエリアみたいな所といえる。


 この時期はコルノス空域の近くに来ることが空路の予測図から分かっていた。なので初めての長距離航行をするオレ達には丁度いいと、休息を目的に最初から寄る予定だったのだ。


 実際に此処までの道のりで十分疲れていたし。予想に無かった出来事の報告で、人里へ寄る必要があったので。どちらにせよ縁があったと言うべきだろう。


「お疲れ様です!この船でしたら十三番桟橋へ船を停めてください!」

「ありがとう!良い一日を!」


 島から太いワイヤーで繋がっている案内気球に乗る係員に従い、指示された番号が記された桟橋に船を接舷した。


「いらっさーい!お初の人だね、どんくらい居るー?」

「一泊の予定だ。嵐にあったから船を視て欲しいんだけど。ここで出来るかな?」

「あいあい、だいじょぶ。それじゃあそれ込みで一泊ねー」


 走って来た職員に一泊だと告げて停船チケットを貰い。ついでに軽く補給と点検修理をお願いしておいた。


 獣人の職員さんは手元のメモ帳にさらさらとオレ達の要望を書き込むと、来た時と同じ調子で駆けて行く。

 それからすぐに工具を腰に下げた整備員を連れて戻って来た。


「お疲れっす。船の調子を見てもらいたいと聞いたんすけど。どこら辺を視ましょか?」

「お疲れ様。昨日、嵐にあってその時に船体部が軋んだんだよね。それから隙間風が出るようになったから、そこを何とかしてほしい」

「了解っす。では、お邪魔するっすよ」

「ああ、お願いします」


 職員さんと同じウサギっぽい獣人の整備員さんを船内に招き入れ。問題の箇所に連れて行った。

 彼は幾つか器具を使って損傷の程度を調べた後、眉間にしわを寄せて口を開いた。


「あー……これちょっと面倒っすね」

「良い方に?」

「悪い方っす。ここの設備じゃ面倒見切れないんで。応急処置だけしてドックのあるトコで直すのがおススメっっす」


 その後も話を聞いた所。どうやら隙間風は船体部が歪んだのが原因らしい。

 しょうがないから応急処置をしてもらって、明日の出航までにどうにかしてもらう事にした。


 作業の完了を待つその間に。オレは所用を片付けるべく、先に上陸し島の施設に向かう事にした。

 整備員さんから、作業中は船員を残してほしいとの事で。留守をオリガに任せたオレは、ギルドへの報告がてら宿探しと相成った。


 先ずは懐にあるブラウンの冒険者証と、空賊の隠れ島の情報を伝えるべく、冒険者ギルドへ向かう事にした。


 この村は規模にしては整備が進んでおり、道も全て石畳で舗装されている。荷台がそこを行き交い、人や物を運ぶ姿はここの活気を物語っている。

 見ていて面白いので、機会があれば一人でふらふら見物しながら歩きたいものだ。


 目的の冒険者ギルドの出張所は直ぐに見つかった。一軒家を改装した店構えで、中には受付しか無く。こじんまりとした所だった。ここまでわかりにくいギルドは初めて見たよ。


「お疲れ様です。ようこそ冒険者ギルド出張所へ」

「どうも。少し報告したいことがあって……」


 オレ達が出くわした空賊についての報告は、受付さんに書き記してもらってつつがなく終わった。


 しかし、回収した遺品に関しては。ここではなくもっと大きい所に提出してほしいと言われてしまう。

 詳しく話を聞くと、冒険者が死亡した時の情報はギルドの各支部で管理していて。ここのような出張所では、そもそも報告が出来ないとの事。


 それはそれでどうかと思ったが。そう言われれば確かに、少し気が急いて早まったかもしれない。

 でも目的の一つである空賊との遭遇と、その隠し島の情報については伝える事が出来たので。ギルドを出た次は今日の宿を探すことにした。


 町にある宿屋の連なる通りを歩き。良い感じの店構えをしている所があったので、そこで一泊部屋をとる。勿論、晩と翌朝の食事つきだ。


 用事は皆済んだので一度船に戻ってみると。作業は終わったのかオリガの姿しか無く、痛んでいた所は見た感じキレイに直されていた。修理代込みで明日払う仕組みらしい。


「ただいまー。船はどうだって?」

「おかえり。無理な機動と、全力稼働させなければ大丈夫だって。ほら、ここ樹脂で固めてあるよ」

「ほぉー……こんな感じで補強できてるんだ……へぇー……」


 オリガに促された所以外にも数か所、同じように樹脂を流しいれて補強されている場所があった。

 特殊な樹脂で固められた隙間は、独特の光沢を船体に光らせて船に新たな痕跡を残している。


 早速無茶をさせてしまったが。もう少しこの船で冒険したいので、ここからの航行も、気を付けた航路選びを心掛けたい。


「それでいい宿とれた?ワタシもう眠いんだけど」

「ああ、そっちは大丈夫。厨房から良い匂いさせた所にしたから」

「いいね。それじゃあ今日はもう休もうか」


 オリガと合流もして、いい加減疲れたので今夜の宿へと向かう事に決めた。

 見込み通り、宿の夕飯はとても美味しく。オレ達は二人して舌鼓をうって食事を楽しみ、部屋の布団が放つお日様の匂いに眠気がくすぐられる。


 もうすぐ憧れの場所へ着く興奮で今夜は眠れないかもと思ったが。「ベッドに寝そべった瞬間、ビックリするくらい寝つきが良かった」と、オリガに言われた。

 しかしオレにはその記憶が無く。どうやら気絶同然の寝つきの良さだったらしい。

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