第十五話

 色々な人との交流を行った日の翌日。厳正な審査によって選出された初めての仲間。ダークエルフのオリガさんとの初依頼を行う。


 昨日の結果は冒険者ギルドにのみ報告した。

 場所を貸してもらったので、一応の義理で言ったのもあるが。今後継続して組む事になれば、パーティとして記載してもらうので、その話を通りやすくしてもらおうという狙いもある。


 余計な手間をかけさせているかもしれませんが、今後の活躍でお返しできればと思っています。と言っておいたのでセーフ!


 待ち合わせはいつもの冒険者ギルド。昨日の別れ際に話を付けておいたので、もうすぐ来るはずだが……。


(あっあれかな?)


 約束の少し前にオリガさんはやってきた。紫銀色の美しい髪が、朝の混雑の中でも目立つ。彼女も直ぐにこちらに気づき、足早に近づいてきた。


「おはようございますオリガさん」

「ああ、おはようアイヒル。良い朝だね」


 あいさつの後、彼女から早速受けたい依頼の方針を提案された。

 というか既に掲示板から剥がして持ってきていた。


「取りあえずこれにしようよ。君とワタシなら問題なくこなせる筈だ」

「ちょっと確認していいですか?……そうですね、これいきましょう」


 軽く内容を流し見したが、特に否定する理由が無かった。なのでその案を採用し、依頼を受注する。


「こちらが目的地の地図になります。お気をつけて、行ってらっしゃいませ!」


 受付さんから詳しい地図と割符を受け取り、消耗品を少々買い足したら準備完了。オレ達は二人連れだってギルドから出かけていった。




 今回受けたのは「洞窟探索および魔物集団討伐」。ギルドの発行した依頼だ。


 ゼットゥスから街道沿いに少し離れた所に、いつの間にか洞窟が出来ていたのだという。その調査と、そこを根城に魔物が営巣している恐れありとの事で。確認でき次第討伐との事だ。


 目撃された魔物は「レッドマスク」群れを作るタイプの肉食の魔物だ。

 頭の毛だけが抜け落ちた小型の猿のような魔物で。獲物の表皮に鋭い爪で穴をあけて、そこに頭を突っ込んで食事をする生態をしている。


 確かに覚えている設定では群れを作る種族なので、対多数を想定する必要がある。


 奴らにも雷属性は通るので、魔法で複数相手も出来るオレと、突破力機動力が高いオリガさんは。この依頼を遂行するのに十分な能力を有しているだろう。


「盾を諦めれば片手は空くので、洞窟内ではオレが松明を持ちますね」

「じゃあワタシが後方警戒だね。予備の明かりはある?」

「一応、魔力式ランプがオレのリュックの中にあります。壊したくないから中にしまってますけど」

「出しなさい」

「はい」


 目的の洞窟は直ぐに見つかり。少し離れたところで軽い打ち合わせをしてから、オレ達は洞窟へと侵入した。


「アオッ!アオッ!アオッ!」

「キッキー!ウキキー!」


 ギルドの懸念通り、洞窟の中は猿の魔物の根城と化していた。


 オレ達という侵入者を見つけたレッドマスクは、狩りにも使う鋭く長い爪を岩壁に突き刺し、洞窟内部を立体的に移動して襲い掛かってくる。

 その顔は鬼気迫るものがあり。こちらに対する敵意が十分に伝わってきた。


「先に打ちますっ!『雷よ、刃となり敵を刺し貫け!』サンダー・レイピア」


 市場にあった教導書を読み込んで練習を積み、再現に成功した。ゲームで最も愛用した魔法を放つ。


 貫通属性を付与した雷撃は、洞窟と言う閉所で十分な効果を発揮し、猿の魔物たちを次々に焼き貫いていく。

 しかもこれは高確率で麻痺を付与する。ゲームではよくハメ技の起点になっていた由緒正しい魔法だ。


 肉の焦げる匂いも振り切る様に、オリガさんは深緑のマントを翻し、その群れに突貫する。


 既に正面からの魔法によって、機動力と身体の自由を奪われていたレッドマスクの前哨達は、あっけなく全滅した。


「予想以上にすごいねその魔法。ワタシほとんどトドメ刺しただけだったよ」

「これには自信があるんですよ!」

「そっか。じゃあ、引き続き先導をお願いね。後ろはワタシが見るから」


 その後の戦闘では、射出した雷刺剣の合間を、オリガさんが走り抜ける即席の連携もうまく機能し、レッドマスクの討伐は特に窮地に陥ることなく完了した。


「結局、こいつらどこから来たんですかね?確かもっと山の方に住んでると記憶してたんですが」

「魔物の生態はよくわからないからね。もしかしたら数百年に一度の行動をしている事もあるし。深く考えすぎてもしょうがないよ」

「そんなもんですか」

「そんなもんです」


 依頼完了の証としてレッドマスクの一部(額にある突起物)を回収し終わったオレ達は、疲れた体を他所に良い雰囲気で町へ戻っていった。




「報告ありがとうございます!調査の報酬は後日、振り込まれますが。討伐の報酬は口座に追加されます。お疲れさまでした!」


 ギルドで仕事の報告を済ませたオレ達は、そのまま酒場で夕飯ついでに今日の反省会を開くことにした。


「射出に合わせて突っ込むのは有効だったけど。誤射の危険を考えると、あまり褒められた物じゃないよね。どうすればいいと思う?」

「予め空白地帯を決めて撃つとかですかね。なら、せっかく二人とも近接行けるのに、片方は固定砲台も惜しくないですか?どうせなら入れ替わりでオリガさんも後ろに回りません?」

「ワタシはナイフとかゴミしか投げれないからなぁ……。ちょっとした驚かしには良いけど、戦術に組み込むには火力が足りないと思うよ」

「道具で補おうとすれば、支出が増えると……」

「そういうこと。それにアイヒルの火力なら、魔法を見せびらかして意識を集中させているうちに、ワタシが裏から狩る方が良いと思う」


 お互いに相手の行動を場面ごとに評価して。ここが良かった、あそこが動きにくかった等、次につながる改善点を話し合った。


「ダークエルフって何食べるんですか?」

「基本的にはヒュームと変わらないけど。ワタシは特に肉が好き」

「へぇー、エルフって大体みんな草食だと思ってました」

「それは偏見だね。エルフが森で弓矢を持っているのは、基本的に狩りの為だよ」


 食事をとりながら種族ネタを交えた雑談を行った。やはり他種族の話は、当人に聞くのが一番いい。

 今日だけで、今までは画面の向こうの住民だったエルフと少し仲良くなれた気がした。


 あとダークエルフは違うけど。エルフは神秘的な顔だけど。普通に酒を飲んで酔っ払うし、喧嘩したら相手を殺すし、たまに森に火をつけるとも聞いた。

 ……エルフこえー…………。




「そういえば、アイヒルは魔法が使える様になったばかりなんだっけ?」


 食事も終わり。オリガさんの話題は、オレの魔法に関する物になった。


「そうですね。自覚するようになって、大体……三か月くらいです」

「ふーん、結構最近だね。でも、結構上手じゃん」


「沢山練習しました。あと、メチャクチャ本読みました」

「あー……だから、いまいちぎこちないんだ」


 最近目覚めた魔法の力。それを既存の戦法に組み込むのに。正直、少し難儀している。


 今までは、魔力探知で先んじて敵の接近を知り。鍛えた体に身体強化を重ね掛け。上昇させたスペックで振り回す魔法武装を押し付ける。ゴリ押しを戦闘の主体としていた。

 

 最近は、その基礎に雷属性が加わり。雷の速度で行える探知、人体の限界を超えた反応速度、触れるだけで感電する魔力の性質と、更に隙が無くなっている。


 そこに魔法という飛び道具を織り交ぜたいのだが。撃つ間があれば突っ込んで切った方が早いので。意識的に魔法を使うとそれがリズムを乱し、上手くいけずに困っていた。


「うぐっ気にしている事を……」

「それは慣れるしかないと思うよ。ワタシは魔法使えないから知らないけど」


 一気に中身を呷り、ジョッキを空けておかわりを頼みながら。オリガさんは続いてこうも言った。


「前にも言ったけど。ワタシ弓とか魔法とかずっと苦手なんだよね。基礎は使えるけど、魔法もずっと分からないままでここまで来ちゃったし」

「うーん……そうですか……」

「あーでも……「お待たせしました!ご注文のジョッキワインでーす!」


 到着したお酒を一口楽しんだ後、彼女は少し考えてこんな提案を出してきた。


「ワタシが今までに相手した魔法使いの話は出来るよ。特に嫌な手を使って来た奴の話なら、君の琴線に触れる物もあるんじゃない?」


「おおっ!それは良いかもしれないです!聞かせてもらって良いんですか!」

「良いでしょう。ワタシは年上の先達だからね!後輩は大切に育てる物だよ」


「流石は歴戦のダークエルフだ!懐が深い!」

「ふっふっふ。いいね、もっと褒めていいよアイヒル」

「すげー!」「すげー!」

「「あっはっはっはっはっ!!」」


 そのまま酒の魔力にこの話題は流されてゆき。オレ達二人は店が閉まるまで楽しんだが。最終的にオレは、酔ったオリガさんを宿まで送る羽目になった。

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