第十四話

「すぅー……はぁー……いやー緊張するー……」


 いよいよ面接の当日!会場は、冒険者ギルドの中にある貸し会議室を受付さんにおすすめされたので、お言葉に甘えて貸してもらう事にした。


 今日は一日かけて一人ずつ面接し、その場で合否を決める事にしている。指定した時刻の前から拘束する意味もないし、希望者さんの時間を無駄にするわけにはいかないからね。


 用紙に記載した時間の前に、借りた会議室の中を面接仕様に調整した。前世の時からなじみ深い、典型的なテーブルと椅子を並べた対面型だ。


 面接については、向こうの服装を指定させてもらった。冒険者として普段から使っている武装をしてくるように書いてある。

 主な目的としては、向こうの普段使っている武器を見せて欲しい。装備の質はどんなものか、手入れは行き届いているか、どれだけ使い込んでいるかは見るだけで大体わかってくるものだ。


 これは重要な評価基準でもあるし。オレが個人的にいろんな武具を見たい。つまり趣味も兼ねている。




 朝一番。大体の冒険者は依頼に出かけた時分。最初の希望者がやってきた。


「よ、よろしくお願いいたします……」

「どうも!募集を出したアイヒル・ディクターです!まあまあ、座って座って!」


 ゴリラの獣人ライカンであるガルボウくん。見た目は厳つくデッカイが、何と俺より年下、十六歳だった。


「あ、あのーその……「それじゃあ面接を始めようか。じゃあ先ずは……」


 最初に軽い来歴と志望動機を聞いた。彼の故郷では、獣人は成人の証として、故郷の外で一年過ごさないといけないらしい。

 ついこの間ギルドに登録したばかり。まだまだ都会に慣れておらず、知らない環境に出てきたばかりで不安なのだそうな。


「ほう、流石にゴツい獲物だねぇ……自分で作ったの?」

「ええ、これは故郷の木を削って自分で整えました。こっちは既製品を調整してもらってます」

「イイね!」


 主な武装は木の棍棒と手甲付きグローブ。自作の片手棍棒に格闘を織り交ぜるタイプらしい。

 柄の革ひもは握りやすく綺麗に結んであるし、グローブの金具も使い込んである割に錆の一つもない。手入れが行き届いており、丁寧な扱いをしているのがよくわかる。


「ふーん……それじゃあ、こっちには頼れる人とかいないんだ?」

「はい……じ、地元の友人に「一緒に行かないか」と誘われたんですが……その町は僕には遠すぎまして……」

「あー、故郷から離れすぎると不安になる的なやつねー」

「そ、そうですっ!」


 今は鉄札を目指し、主に魔物討伐を頑張る事で生計を立てているらしい。 


「えっ?よく組む人とかいないの?」

「……ちょっと知らない人は怖くて……勇気を出して話しかけても、僕の顔を見るとどこかに行ってしまうんです……」

「そ、そっかー……」


 今のところ見た限り性格は温厚で、人との荒事を好まない気質を感じる。言葉遣いは丁寧だし、緊張しているのか視線が安定していない。


(うーん、会話は出来てるし。質問にもしっかりと答えられている。見た感じ弱くはないから、これから鍛えたら結構いいかも……)

「じゃあ、最後にオレと組んだ時の目標を話すよ」


 最後に仲間入りした場合、船を所有して長期の冒険も行うという話をしたら。だんだん顔色が悪くなってきた。


「大丈夫か?気分が悪いなら一旦休憩を入れよう「すいませぇんっ!!」うわっどうした急に」

「実は……僕、一年過ぎたら冒険者やめて、故郷に帰って実家の家業を継ぐつもりなんですっ!」

「えっ……」

「同年代のすごい人だと言う噂を聞いて!短期で組むならいいかなと思って来たら!結構本格的で!気まずくなりましたぁっ!!」

「……そっかー」

「正直に言うと、誰とも組む気はなかったんですっ!一年無難に終わらせるつもりでしたっー!」


 残念だけど、今回の目的は長期で組める人なので泣く泣く落選。

 餞別として、一人でやるなら割と儲けの出やすい街中での仕事を教えてあげた。


 獣人の戦士ガルボウ、落選。




 最後まで腰の低かった彼を見送り、昼休憩を挟んで二番手の時間になった。


「失礼する。アナタがディクターさん?」

「そうです。どうぞ、掛けてください」

「うん、じゃあ始めて」


 今度はダークエルフのオリガさん。スカラベの世界では希少種であるエルフの、更に希少なダークエルフである。冷静な印象の社交的な女性だ。


「じゃあ早速、これまでの軽い経歴をお願いできますか?」

「いいよ、ワタシは同族の集まる村に生まれたんだけど……」


 彼女の取りあえず来歴と志望動機を聞いた。故郷の森で里守をしていたが、お使いから帰ってくると村が焼き討ちにあったそうな。


「?」

「そいつは赤いワイバーンの群れを操っていた……。ワタシも故郷を守るため挑んだのだけれど、手も足も出ず切り刻まれてね。死にそうになったけど、焼け残った薬を使って何とか生き残れたんだ」

「……しぶといですね」

「うん、体力には自信がある」


 その後は焼けた村の跡地で、同胞を弔いながら傷をいやし。数少ない手がかりを頼りに復讐を果たすべく空を旅して十五年ほどだそうです。


 今回、オレの仲間募集に応募したのは。そろそろ一人に限界を感じ、一回誰かと事情を共有してみようと思ったから。ギルドから出世株と言われているオレの噂を調べて来たらしい。おっもっ!?


「アナタはよく、自分の飛空船で旅をしたいと言っているようだから。ワタシのやりたい事と並行できると思って来たんだ」

「成程、理にかなってますね……」

「そうでしょ?」


 主に二刀流剣術で戦うそうです。魔法も弓も苦手だとか。飛び道具は投げナイフとか手元にある物を投げるのが得意と自己申告。

 確かに、見せてもらった剣は業物っぽいけど。ナイフは数打ちの安物をまとめ買いして投げやすい形に調整しているようだ。


「投げて失くしても惜しくない物しか投げないでしょ。剣とか」

「はっはっは、そうですねー」

「……投げた事あるね?」


 冒険者としてのランクは、オレと同じ銅杯。好んで受ける仕事は、対人戦が想定される物。場数をこなして、ケガで鈍った勘を取り戻しているそうです。

 魔物相手も十分に出来るけど。大きすぎる相手や、硬くてそもそも刃が立たない相手だと、有効打に乏しいとの自己申告。


「これが最後になるんですが。オレの目標を知っているからには、それに向かって協力してくれると考えても良いので?」

「そういう人なら勿論大歓迎。アナタの船に乗せ続けてくれるなら、力を貸すことに異論は無いよ」

「歓迎するのはこっち何ですけど……。まあまあ、それじゃあ内定という事でよろしいですか」

「まだ刻むの?慎重なのはいいけど」


 結論としては内定。最後の人の結果次第だが、試しに組むことは確定した。握手して面接は終わった。


 ダークエルフの剣士オリガ、内定。




 いよいよ面接は次で最後。窓の外は日が沈み始め、仕事が早く終わった冒険者は既にギルドで報酬を受け取ったりしている。


「ごめんなさい。待ち合わせをしていたのだけれど、少し遅れてしまったわ」

「大丈夫です。これくらいなら気にしませんよ。どうぞ、お掛けください」


 ちょっと遅れて来たのはカマキリ系の蟲人ヴァームズティスカさん。様々な蟲の特徴を持つ人種蟲人の女性で、黒い服装に身を包んだおっとりした感じの人だ。


「では、始めましょうか。まず……「その前に、ちょっといいかしら?」はい、どうぞ」


「今日はせっかく時間を作ってもらったのに、遅れてごめんなさいね。反省してます」

「解りました、謝罪を受け取ります。では、め……「それで貴方には遅れた理由も言っておこうと思うの」……そうですか、そうですね。お聞きしましょう」


 先ずは来歴を聞こうとしたら。まず遅れたことを謝罪してもらった。

 それは受け取りさあ、面接を始めようとしたら今度は遅れて来た理由を話そうとしてくる。

 ちょっと興味があったので、話を促して聞いてみる。


「今日の面接のまで時間があったでしょう?だからその前に一つ、お仕事をしておこうと思ったのだけど……その時に浴びた返り血を落とすのに時間がかかっちゃったのよ」

「……なるほど?」

「わたしったらいつも夢中になりすぎちゃって。あの人にもいつも注意されていたんだけど……」


 その流れで来歴を教えてくれたが。話のペースがゆっくりだったので割愛。

 若くして夫を亡くし、数いる子供たちも皆独り立ちして暇になったので、結婚前にやっていた冒険者に復帰し。一人で仕事をやっているらしい。


「さっき時計を見たら、もう直ぐに約束の時間になりそうだから。わたしも身支度したかったけど、この子たちだけキレイにして急いで来たの」

「あー……返り血はそのままに?」

「恥ずかしいけど、そうなの。服の色で目立たないだけ」


 道理で部屋中から血の匂いがするわけだよ!武器も軽くしか洗ってないだろこれぇ!


 内心、ドン引きしながら武具を観察してみるが。とても奇麗な状態で手入れも完璧なのが逆に怖い。

 出来のいい市販の片手剣と、見るだけで名品分かるとげ付きのバックラーは、自己申告通り彼女が接近戦を特に好んでいる事を強調している。


 既に、かなり印象が悪いが。一応、他の質問もやっていく。


「好む依頼の傾向とか分かりますか?」

「そうねぇ……血が見れるなら何でも好きよ。命をやりとり出来るならもっと好き」


 仕事の好みは殺せるのなら魔物から人まで大体何でもやるそうです。


 もう、疲れて来たので最後の話を始めたが。彼女は長期の遠征はあまり得意ではないとの事だった。

 理由を聞いたところ、定期的に血を見ないと落ち着かないらしい。

 抽象的な表現だったが、場合によっては誰にでも襲い掛かるかもしれないと匂わせる様に言われた。


 オレは頭が痛くなってきたが、最後の力で彼女に落選を言いつけて。理性で抑えられる近日中に、医者か教会でカウンセリングを受けることを進めた。


 彼女も落選には納得した表情で「これからもがんばってね」と言い残し部屋を後にした。


 カマキリ蟲人の狂戦士ティスカ、落選。


 全ての面接を終え。オレは会議室の窓を全開にし、掃除して家具を元に戻した後で、職員さんに鍵を返してお礼を言ってギルドを後にした。


 とりあえず一人は確保できたのでヨシ!

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