第十六話

 静かな山中、草木も眠る深夜帯。

 月の光も木々の影で遮られ、自分の手すら輪郭しか見えない真っ暗闇の中。オレはオリガさんを伴い、島の山中に潜んでいる。


 近頃、街道を騒がせる盗賊団の被害が相次ぐため。ゼットゥスの兵士隊からの依頼で。彼らの仕事に協力する事になったのだ。


 何とわざわざ俺たちを名指しした、指名の依頼である。


 道中に行った兵士隊との打ち合わせで。盗賊団のアジトは割れているので、そこを強襲する時の火力支援と、斥候を要請された。


 偶々捕らえた盗賊団の一人がアジトの場所を吐いたので。別の場所に移られる前に急ぎ出動する必要があるとの事だ。

 動員できる戦力を少しでも多くする為の冒険者起用という事か。




 情報通り、盗賊のアジトは山中にあった。

 自然洞窟を利用した拠点は入口が限定されており、そこに見張りが二人配置され、かがり火を焚いて周囲を警戒している。


 単独で先行していたオレの魔力探知によって、既にアジトの規模は割る事が出来た。内部は一本道に小部屋が連なる構造で、中には数十人の動く人間の反応がある。

 他には出入口は無く、空気穴があるだけだったので。上手くやれば制圧に手間はかからないかも。


 必要な情報は集めたので、オレは静かにその場所を後にした。


 斥候の結果を聞いた兵士隊の隊長は、今すぐアジトに奇襲をかけることを決定。オレたち二人の次の仕事は火力爆撃。

 落雷をアジト近辺に落として、混乱を誘う事で中から連中を引き寄せ、待ち伏せた兵士隊で捕縛する作戦だ。


 オレとオリガさんで見張りを処理して、作戦を開始した。


 アジト直上に着弾した雷撃に泡を食って飛び出て来た盗賊たちを、一人ずつ丁寧に捕獲する仕事だった。

 引き返して敵襲を知らせようとした者もいたが、それらはオレとオリガさんで阻止し。それほどかからずに全員取り押さえる事が出来た。


 結局、盗賊団は四十二人もいたが、全員お縄を頂戴する事になり。ゼットゥスの牢獄を埋める結果となった。


 緊急の名指し依頼な上に、完璧な仕事だったこともあり。報酬にも結構色を付けてもらった。懐が一気に温かくなったオレもオリガさんもウハウハである。


 パーティ結成からここのところ。全く持って順調だ。




 ちょっと天然気味の復讐者系二刀流剣士ダークエルフのオリガさんと組んで二週間たった。


 人手が増えたことで、行える仕事の幅が広がった結果。今までは二の足を踏む規模の討伐や、探索依頼に手を伸ばせるようになり。稼ぎの効率が倍以上に伸び、報酬を頭分けしても、個人の収入が倍くらいに増えて生活が豊かになった。


 具体的には、夕飯が一品増えて、仕送りを一割増やせて、武具のお手入れ道具を新調できるくらい。


「そろそろ組んで二週間。試用期間は終わったけど、ワタシはアイヒルのお眼鏡にかなったかな?」


 盗賊団の連行も手伝っていたら、全部終わったころには空が白み始めていたし。解散してギルドに戻ったころには。もう町では一日が始まっていた。


 あくびを噛み殺しながら、朝一番で報酬を受け取ったのが少し前。

 今日は代休にしようというオレの宣言を聞いた後、オリガさんは酒場のテーブルでそんなことを言って来た。


「今までこんなに長く、誰かと組んだこと無かったんですけど。正直、上手く行き過ぎてて怖いくらいですねぇ……」


 とりあえず無事に試用期間を終えた所感だが。今後も行動を共にするのに申し分ない人だと確信している。

 腕も立つし、復讐関係が地雷なのを注意すれば話しやすく、武器の好みもオレと近いので話が弾むと大変当たりの人材だ。


 どうしてこんなに濃い人がゲームに出てこなかったのかが疑問だが。そこはこの世界、野生の変人は割と多いので気にする程でもなかった。


「そっか。じゃあ今後ともよろしく」

「ええ、これから正式にパーティを組んでいきましょう!」


 もう一度結成を祝して、ついでに依頼達成の乾杯もしておいた。

 さて、仲間が出来るのは初めてだけど。やっとスカラベの冒険者らしくなってきた。


「あと先に言っておきたいんだけど」

「はい」

「ワタシを身内に入れる以上は、ワタシの復讐にも付き合ってもらうけど。大丈夫?」


 オリガさんから、自分と組むなら今後の道に復讐の手伝いが入る事を忠告された。彼女も自分の目的に人を巻き込むのは本意ではないらしい。

 まあ、オレはそういうの大好きだから。臆する事は無いのですが。


「オレとしては、村焼きする様な輩は始末するのが当然なので。復讐のお手伝い、快諾させていただきます」

「君さ、普段は愛想がいいのに。時々、質の悪い一面をのぞかせるよね」


 彼女もその主張には異論を唱えつつ、「その無神経さが頼もしい」と笑って握手。ここに新たな冒険者コンビが誕生した。


「じゃあ、これからは対外的にもアイヒルが頭目ね。ワタシの事も呼び捨てる様にしな」

「えっ」

「財布はワタシが管理しても良いけど?」

「リーダー権限で却下します。分け前は今まで通り頭分けで行く。オリガもそれでいいか?」

「うん、それでいいよ。これから慣れていこうかリーダー」




 さて、関係性をはっきりさせたところで。今後の活動方針をリーダー格であるオレから発表させてもらう。

 今日は代休にする予定だったが、予定を変更してこのままミーティングを始めさせてもらった。

 オリガも好きな一品を奢る事で買収し、滞りなく会議を始める。


「前も言ったと思うけどさー。オレ、自分の飛空船で旅がしたいんだ」

「うん、それは聞いた」


「最近やっと安心して貯金できるようになったから。そろそろ飛空船の操船術でも習いに行こうと考えているんだ」

「それだけ?実はー?」

「……ちょっと、あわよくば、小型の飛空船を買いたいです……」


 元々、飛空艇を運用する為には、自分も操船の技術を習得する事は必要だった。そのためには技能を学ぶ時間と、その間の生活費を稼ぐ必要がある。

 今は少しお金に余裕もあるし、思い切って勉強に時間を使うのも悪くないと考えている。


 飛空船の免許があれば、今年度の残りは飛空船貯金にいそしむつもりだ。


「それって、もしかしてワタシもやるの?」

「うん、もちろん学費も出すよ」

「……身に着けて損はないからね。わかった」


 計画の全容を聞いたオリガは、自分も勉強する事に難色を示したが。概ね支持してくれた。


 丁度いいので早速、操船訓練を行えるところをギルドで調べた。そこで重大な事実に直面してしまう。

 何と、操船訓練場はこの町にあるものと思っていたが、無かった。


「えっ、ホントにないんですか!?」

「はい。この町には優秀な飛空船乗りは集まっていますけど。新人は育てなくても来るので。学校はないんですよね」


「そうですかー……じゃあ、どこら辺が一番近いですかね?」

「ここからだとダウルクにしかないです」

「マジですか」

「マジです」


 仕方なく近場で良い所がないかギルドの相談員さんに聞いたら。この空域で一番大きい町にしか訓練場は無いとの事。

 訓練期間もそこそこ長く。拠点替えは必須との見解を述べた。


 またまた二人で話し合い。どうしようもないので、しっかり準備してその町に移動する事で決定。


 教えてくれた職員さんに感謝して、今日はもうギルドの酒場で飲むことにした。紛う事の無いヤケ酒である。

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