第八話
約半年後という明確なタイムリミットが出来たことで、オレは気を引き締めて準備に奔走する事が出来ていた。
東に道具売り出し中の噂あれば、赴いて持ち主に交渉をし。足元を見られて割高で譲ってもらい。
(魔獣固定台(中)を手に入れた!中型の魔物を拘束する組み立て式の拘束具だ!)
「ちくしょう!それなら四万ガネーでどうだ!」
「売ったぁ!」
「よっしやぁ!」
西の薬屋に薬液が入荷したとの情報を聞けば。屋根の上を走っていき格安で売ってもらう。
(属性開放薬を手に入れた!自分の得意属性をハッキリさせる魔法の薬。飲むときは適量を心がけよう!)
「どうしても自分の得意分野が知りたいんです!どうかお願いします!」
「うーむ……そこまで言うなら譲ってあげよう」
「ありがとうございまーす!」
北の個人宅で家宝にされていた宝玉を手にすべく。魔物と命がけの戦いに赴き、さんざっぱらどつきまわし素材と交換して貰いもした。
(活性水晶を手に入れた!居るだけで意識を失いかねない極地で活動する人の為の道具。どんな所でも気絶しないぞ!)
「ほっほっ!まさか本当にデッドリリーを根絶してくるとは!」
「ゼエ……庭中掘り返してきましたから。ハア……球根も、もう……無いはずです……」
「うむ!ここまで頑張ってくれたのだ。君にこそ我が家の家宝はふさわしい!」
南のコレクターに原石の塊を先に買われた時はもうこれまでかと思ったが。その当人に護衛として雇われた遺跡調査にて、獅子奮迅の活躍をして報酬としていただけた。
(雷魔原石(大)を手に入れた!大きな魔石の原石。雷属性のそれは、自ら雷を呼び更に大きくなる!)
「ありがとうなアイヒルくん!君のおかげで私のコレクションが、より完璧に近づいたよ!」
「ははっ!出土品がお眼鏡にかなったようで、此方としても安心しています」
「そうだねぇ……本当はアレも名残惜しいけど……、キミとのトレードという事で納得しておくよ」
間違いなく、これまでの人生で一番ハードな半年だった。夢中になって依頼に取り組んでいたので。いつの間にか冒険者を始めて一年たっていた事に気づかなかったよ。
一応、実家には毎月手紙とちょっとだけ仕送りを送っているけど。今のところ返事は帰ってきていない。まあ、ちょくちょく拠点を変えてるオレが悪いから。返信不要と書いてるので、来るわけないけど。
文字通り血と汗と涙を流し、やっとそろえた道具たち。計画の要ともいえるそれらに加えて。この期間に他にも幾つか必要と思われる物を買い揃えている。
そうしているうちに、とうとうライブリング島行の船が出る時期になった。
善は急げとまとめた荷物を背負い。オレは世話になっている宿のオヤジに、「しばらく空けるけど部屋はとっておいて」と宿代を置き。満を持して目的地に行く船に乗り込んだ。
ここに戻るときは、オレがもっと強くなった時だぜ!
喜び勇んで港にはせ参じたオレは。業者の手配していたライブリング島行の船に対面した。その船はだいぶ小さかった。
この町に来るとき乗った貨客船型飛空船とは一線を画す小ささ。まるで小魚の様な頼りなさは、飛空船の浮遊気球が無ければ、前世の小型漁船にも見える。
確かに渡航便の頻度を鑑みると、二線級以下の船が割り当てられているのだろうが。それを込みでもボロい客船だった。
というかこれは本当に貨客船なのだろうか?まさか本当に中古の漁船を改装した船を使っているのか……?
停泊している桟橋から見わたせる範囲で、船体に修理した後が少なくとも二十か所はある……。
これに命を預けるのはだいぶ勇気を必要とするなぁ……。
チケットを提示し、恐る恐る飛空船に乗り込んだが。そこでまた不安な事が出て来た。
向かう先は腐っても観光地の筈なのにオレを除いた客が少ない。船員を除いた人の数は、片手で足りる人数だった。
確かにスカイトラベラーズ2の作中でも、「最近やっと有名になり始めた」と現地のNPCが喋っているテキストがある。
たしか2は無印の数年後と言う設定だったから。オレが行こうとしている今は、まだまだ売り出し中ということか?
でも、いくら何でも少なすぎないか?これだけ渡航者が少ない船に乗ったら逆に目立ってしまいそうだ。
今更計画の変更は出来ないので、もう開き直って行くしかない。どうかただの物好きな旅行者と思われていますように……。
オレの不安を乗せたまま、船の出発時間になった。
残念な事にあれから乗客が増えることは無く。小さな飛空船はゆっくりと浮き上がり、ゼットゥスから離れていく。
遠くに見える町のきらめきが小さくなるにつれて。オレの楽観も小さくなっていった。
予め提示されていた航行予定によると。到着は約一日後だそうだが。既にオレはこの船に乗った事を後悔していた。
「ギシャッー!」「ガァー!ガァー!」
「ギギギギギギギギッ!!」
「野生のギガノバードだぁ!群れで来たぞぉ!」
「ゴァー!ゴァー!」
乗った飛空船を襲われるのは生まれて初めてだ。依頼でも飛空船で魔物と戦う類の仕事はやったこと無いから。初の空中戦と言う奴ではなかろうか。
「ガァー!ガァー!」「アガァー!ガァー!」
襲って来たのは大きな鴉の様な魔物「ギガノバード」だ。本来は普通サイズの鳥を人間が常用に改造した人造魔物だが。よく脱走して野生化する。
この連中は見たまま鴉がベースだろう。とにかく数が多く、群れで狩りをする習性らしい。
「ひぃ!?」「ギシャー!!」
「危ないっ!」
ザシュッ!
「ガギャッ……」
孤立してしまい足で掴まれ、船から引きずり降ろされそうな船員の命を助ける事が出来た。
身体をつかんでいた足を剣で斬り落としたが。魔物は一瞬怯んだだけで直ぐに離脱、仕留めるまではいかなかったか。流石に頑丈だ。
「あ、ありがとう。助かった」
「船の中へ!」
「ああっわかった」
さっきの一瞬で死の恐怖を味わったのか、船員は顔色が悪い。取りあえず船室の方へ行ってもらったが。この調子では中も外も安全性はあまり変わらないかな?
「ギャァ!ギャァ!」「ギィ!ギィ!」
「グエッ!グェッ!」
「うわぁ……めっちゃいるじゃん……」
甲板に影が差したので上を見れば、空が狭く感じる程に黒い羽毛の塊がこちらを睥睨していた。
設定でしか知らなかったが。小さい船は本当に魔物除けの効力が弱い様だ。
それだけではない。少し先の雲の中からも複数の気配が迫ってくるのを感知した。この船の人々に全滅の危機が迫っている。
「ギャァ!ギャァ!」「ギシャー!!」
「ギギギギギギギギッ!!」
ザクッ!
「グギャ……」
「アンタ、いい腕だね。ランクは?」
「
「上等!生きていたら一杯奢るよっ!」
一応、護衛の冒険者がいたが多勢に無勢。助太刀の申し出は滞りなく受け入れられ。初めての空戦と相成った。
魔物の群れと言っても、冒険者ならば一匹単位での危険性は低い。ここは市販の空域航路図にも記される路線なので、一定の安全性は複数の組織から担保されている。
確かギルドでは定期的に魔物を間引く依頼を出していた。この路線もその対象になっていたと記憶している。
(つまりこの群れは建て直し中の一団。若い個体が割合のほとんどを占めている)
なので必ず打ち止めになるはず。この場で此方が注意するのは、各個撃破されない様にする事。人命第一だ。
「無理に相手にするんじゃないよ!確実に数を減らすんだ!」
「小さいのはほっとけ!デカいやつを優先して殺れ!」
向こうが集団で来ているのにこちらが単独で相手をする必要は無いのだ。
「ギギギギギギギギッ!!」
「てめえ!さっさと死ねぇ!」「はぁっ!」
「ギャァ!ギャァ!」「ギシャー!!」
「うるさいっ!」「おらっ!」
案の定、群れの長は此方を散らばらせようとしてきた。なのでオレは絶対に誰かの死角を補うように動き。逆に向こうの連携を寸断して数を減らすことに注力した。
「ギシャー!!」
「くっ……しまっ……」
「そらっ!」
ガシュッ!
「こっちだ!はやく!」
「すまん!」
もう一度船員の一人が危なかったが、そのフォローもうまくいき。少し経って魔物の群れは動きに精彩を欠き始め、その数を大きく減らして空へと敗走した。
「終わった……のか……?」
「はぁ……はぁ……くそっ……これだから零細路線は嫌なんだ……」
「二度と来るなっ!ボケガラス共っ!」
時間にすると一時間もない短い間に、小舟に乗っていた人々に連帯感が生まれた。やはり危機を共に乗り越えたのが大きいのだろう。
「あんた、さっきは助かったよ。ありがとう」
「いえいえ、こんな時は助け合いですよー」
一息ついたところに護衛の冒険者のお姉さんが話しかけて来た。彼女もさっきまで大剣を振るって戦っていたので。オレと同様に魔物の返り血で赤くなっている。
「思ったよりやるじゃないか。札付きにしておくのはもったいないよ」
「そのうち有名になる予定なので。よろしくです!」
「はっはっはっは!イイね!若いのはこうでなくちゃ!」
とんだ船旅になってしまったが。願わくば魔物の流した血によってこの先の道程が安全になる事を願っている。
「約束通り、島に着いたら一杯奢ってあげるよ。楽しみにしてな」
「マジですか。ご馳走になりまっす!」
今は到着した後の一杯を楽しみにする事にしよう。
オレまだお酒飲めないけれど。
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