第九話

 出航から直ぐに出くわした魔物との戦いによって、船の人員は一晩中気を張る事を余儀なくされた。


 本来なら異常事態により港へ引き返すのだが。この航路は追い風にのって進む急行なのが災いし、この船に積んでいる主機では出力が足りず、引き返す事が出来なかった。


 帰りは別の気流にのって行くので、魔物の襲撃に関しては恐らくは安心かな。


 目的地ライブリング島に到着して飛空船を停泊接舷させた時に、向こうの人たちが船の惨状に顔をひきつらせたのは当然だろう。


 出航前とは少々、様相を変えた小型貨客船は。甲板こそキレイにしたが、他のところには手が回らず、魔物の血で赤黒い汚れがそこかしこに飛び散っているし。手すりの一部が壊れたままな上、気球部分の外装も一部剥がれかけたのを応急処置しただけの様相だ。まるで幽霊船ではないか。


 一先ず無事に目的地へと到着した事は確かだが。帰りの事を考えると、今から不安が鎌首をもたげる。この航海の感想はそれに尽きる。


「じゃあまた四日後に会おう!それまでに何とかこいつを見れる状態に戻しておくさ!」

「ええ、また四日後に。奢りは帰りの船でいただきます!」


「アンタがしてくれたことはギルドにもちゃんと言っとく。ありがとな!」

「いいえぇ!そこまでしてくれなくても!でも、言ってくれたらうれしいですね!やっぱり言っておいてください!お願いします!」


 船の人員、同乗した客たちと別れの挨拶を済ませ。オレも自分の目的、体質改造を果たすべく、先ずは宿を探しに行く。


 ライブリング島はゲームの表現では、汎用村グラの雷雲差分で表現されていたが。実際に目にする風景はしなびた田舎と言った感じのところだった。


 港のあるだけ故郷よりましと言った所か。その利点を万年曇天の欠点で帳消しにしているのだが。今から数年後は観光地としてもう少し開けていくだろう。


 宿は港を出た道なりに行くと、直ぐ近くに看板が出ていたのでそこにしてみた。

 「かみなり屋」と書かれた看板に宿の印が出ていたので間違いない。


「おんやぁ、いらっしゃい。珍しいねぇ、こんなお若い方がこんな田舎に」

「ここの雷が凄いって聞いて見物に来たんですよ。四日ほど泊まれますか?」

「えーえー、ここはかみなりばかりで、他にはなーんもないんだから。飽きるまで見ていきんしゃい」


 宿で店番していたおばあさんに話しかけて宿は確保できた。

 通された部屋は和洋折衷と言った感じの造り。雨戸付きの窓から見える町の景色がなかなか悪くない。


 特に窓があるのがいい。夜中にこっそり抜け出せる。

 早速、荷物を置き。身軽になって方々を歩き回ろうとしたら、入口のおばあさんが島内の地図をくれた。(おススメ観光地の場所が書いてあるやつ)

 「いってらっしゃい」という声を背中に、オレは島へくりだした。




 ここまで来るのに散々な目にあっているが。ここに来る表向きの理由は観光だ。


 ゼットゥスの知り合い達には、最近忙しかったから。休暇を兼ねた小旅行と偽っている。

 まあ、観光で来ているも間違いないので、宿を出る時にいくつか見ごたえのある場所を聞いておいた。


 雷の様な模様の樹皮をした「電目の大樹」とか、平地にも関わらずひたすら落雷が多い「落雷平原」など。他にも面白そうなところが目白押しだ!


 とりあえず今日は、脳内で箇条書きしていた地形と、貰った地図に齟齬がない事を確認し、計画に従い現地の調査を始める。

 勿論。紹介されたところを見物するのも忘れずに。




 この島は実家のある故郷に匹敵する田舎加減なので、よそ者の浮き具合は半端じゃない。

 宿を出てすぐの道を歩くだけで、オレの魔力探知範囲に入ってくる人の数が露骨に増えているから間違いない。


 計画の実行は人に見られるのは厳禁なので、絶対に見つからない様に決行しなければならない。

 観光の名所を巡りながら、人家の場所を地図に起こし。簡易的な行動範囲を割り出していく。


 こうする事で宿を抜け出した後の人目を避けた行動ルートを割り出せるのだ。


 「身投げ岩」、チェック。「住宅地区」、チェック。「畑地区」、チェック。「昇雷丘陵」、チェック。「雨ごい山道」、チェック。「雷魔石の祠」、チェック。「電撃遺跡」、チェック……。


 地図に書き込む情報を整理しながら、オレは心中で再度、自分を改造する必要性を自問自答する。


 これまでのゲームプレイ経験と知識、改造後の設定上の伸びしろを考慮すれば。オレが今後、冒険者として大成するためには、自らの体質改造は必須の行為だと確信している。それは間違いない。


 何よりも考慮すべきは、この世界を揺るがす知識の宝庫を抱えて生きるのに、自分の力量が低い事を許容できない、オレ個人へかかる相当なストレスだ。


 結論としては「改造せず、滅びにおびえて生きるより。改造に失敗して死ぬ方がまし」。

 ならばやろう。やることにした。


 それはそれとして、ゲームに出てくる舞台を訪れるのは初めてなので。こう見えて実は、結構はしゃいでいるのです。


 滞在期間は四日、お世辞にも十分とは言えない。


 それは資金的な事もあるが、用意した道具の消費期限もある。


 どうあがいても短期決戦だ。後悔の無いように励むとしよう!

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