中継拠点都市ゼットゥス編
第七話
出航して二日が経った。
二等客室の設備は貧弱だったが、オレを含めた野営用の装備がある人は床で寝たりして過ごすか。もしくは船員に金を払ってハンモックを借りたり、何とか工夫を凝らして寝る環境を整えていた。
最も暇で死にそうだったのは一日目の昼間。
航行中の甲板で何度注意されても鳥を釣り竿で獲ろうとする客と船員の言い争いが唯一の娯楽で。あとは遠目に見る島々や雲を見る位しかやる事が無かった。
二日目は今日、この日に到着すると分かっていたので、昨日のそれほど退屈を感じなかった。
せっかくなので暇そうな船員を見つけて話をしたり、船室で同業と思われる人に話しかけたりして過ごした。
そうしてやっと、二日目の夕方に流通拠点都市ゼットゥスに到着。
エクスリアを含めた各地域の船だけでなく、他の空域に足を延ばす飛空船も立ち寄る。間違いなくこの空域一の港湾都市だ。
ゾロゾロと死人の様な顔色で、しかし滞りなく船を降りて市街地へ進んでゆく二等客室の人々は。無言でそれぞれの行き先へ散っていった。
それを見送りながら、オレも周りを見渡せば。そこはまさに異国情緒あふるる光景が広がっていた。
降りた船以外にもたくさんの飛空船が浮き連なり、まるで果実の様に立体的な桟橋に、実るかの如く並び揃っていた。その合間を乗客や船員が出入りしている。
夕暮れの空も相成り、所々にともされた照明と人影が、言葉に出来ない感動を胸の中にもたらしていった。
大変ちょろいのは自覚しているが、もうオレはこの町が好きになっている。
港を出たオレは、一先ず冒険者ギルドを目指して歩いていた。何はともあれ、まずは生活の基盤を築く必要がある。
都市の規模に違わぬ大通りを人の間を縫うように歩いていく。視線の端に映る建物の数々は隣近所でも造りが違っていて、見て飽きない。
人も種族だけでなくその装いも様々で、毛深い
あそこらへんは
冒険者ギルドでの届け出は問題なく受理された。
港のある区画に建つ、大きな剣が交差する看板が目印の大きな建物だった。
仕事は明日から始めるとして、この町で冒険者向けにやっている宿を教えてもらった。
旅の疲れを食事でもして癒したいのはやまやまだが。残念ながら懐が寂しい。今は寝床の確保を優先せざるを得ない。
楽しそうなギルドの酒場方向へ背を向けて、オレは再び町へ出ていった。
宿場通りの大きな道から少し離れた小道に紹介された宿はあった。
幸いにも財布の残りで三日は部屋を取れたので、当座はこの宿を拠点にすることにした。
最初の夜。オレは自室で荷物を広げて点検整理しつつ、この町で行う活動内容を再確認する。
この町では幅広い依頼人から、故郷より多様な仕事を受けられる。オレが一人でも割のいい依頼は増えている筈だ。
それらを受注して経験を積み、資金を稼ぎ冒険者として名声を得る事で。さらに上のランクを目指す。
今は
あの施設を利用することで、所持するお金の管理に気を遣う事無く活動が出来る。夢の自家用船が射程範囲に入るのだ。
その為に必要なのは、優秀な武装もそうだが切り札となる特殊技能。今こそ特異体質への後天的改造を行う。
ここで後天的に特異体質になる方法をおさらいする。
この方法は「スカイトラベラーズ4 デザートトーメンター」で初めて出た邪法で。砂漠に潜む邪教集団が、強力な私兵を作り出す目的で、先史文明の文献をもとに編み出した人体改造法だ。
これによって強化改造されたヒロインと、4の主人公がたまたま出会う事でストーリーが始まるのだが。その後のストーリーで語られた内容からすると、そこまでの研究で犠牲になった検体の数はかなり多いものになる。
当然、オレには技術も道具も経験も足りないが。この世界ではまだ存在しない未来の知識と、作品の垣根を跨いで行動する事が出来る足がある。
それを駆使すればぶっつけ本番の命がけでも自己改造を行えるはずなのだ。
というか、これくらいしないと、本編の戦闘力上位陣の化け物どもに遭遇したら。仮に自分の船があっても、それもろともに沈められてしまう。
自衛を確固たるものにするには、この行程は必須と言えるだろう。
翌日。早速、仕事を始めながら。市場や、個人の行商、商会の店舗を回り。必要な道具の選定を始めている。
仕事の方はいたって順調。流石、わざわざここまで来たかいがある依頼の量だった。一人だけでも鉄札でも、手を借りたい依頼人はいるらしい。
内容も廃屋調査や、魔物素材収集、畑を荒らす魔物退治に、敷地に出来た洞窟探索など種類にも事欠かない。
報酬は基本お金で支払われるが。中には現物支給のものがあったりして、その中には目的の物が紛れているかもしれない。
宝探しの気分で選んでいると、昔のゲームをしていた頃を思い出した。
まあ、今は実際にその世界で暮しているわけだから。そう思うのも当然ではある。
順調に資金稼ぎは進んでいるおかげで、宿代に困る事はしばらく無い位には稼げた。
しかし、目的の品はまだまだ見つからない。探してすぐに出てくる物でもないが。この町に拠点を移した理由の一つに、他所の空域の物も集まる事があげられる。
町の規模は知識にある空域の大都市には及ばないが、それでも故郷近辺とは比べ物にならない。
ここで見つからないとなれば、確保するために少し遠出をする必要が出てくる。船のチケットも冒険者には結構な値段なので、出来ればここで全て見つけ出したいところだ。
手段を選ばずに手にする事も考えなかったわけでは無い。
だがしかし、それを行った場合の数々のリスクを鑑みると、金銭で手に出来る合法の品を手にしたい。
この世界の裏家業の世界は、手が広くとる手段も基本的にヤバい。自衛できないうちに手を出すのは自殺行為だ。
だからこそ、多少の危険は承知の上で、単独の冒険者活動をしているところはある。一人で行動していると危険が増すが、稼ぎが増えるのが大きな利点だ。
可能な限り早く。財布の許す限り道具をかき集め。改造する自分の体調にも気を配って目的を果たさねばならない。
対象が自分とは言え、どうしても人倫に背く行為である以上。有名になりすぎないうちにやっておかねばならないのだ。
依頼と道具探しの合間は休息のほかに、改造を行う為に目を付けていた島へ行く船を探している。
お目当てはスカイトラベラーズ2のサブクエストに出てくる島。「ライブリング島」という。常に暗雲たちこめ、落雷が発生している危険地帯だ。
その特異な環境を売りにした、ちょっとした観光地になっているので。観光地を紹介する旅行者向けの業者を探していたのだが。幸運にもゼットゥスから出る定期便が存在した。
半年に一回程度の零細便なのも、こっそり行くのに都合がいい。今期の船は出てしまっていたので、次の便を目標にその他の準備を整えておく。
これが成功すれば、オレは自分の夢を追う資格を得る。慌てず騒がずしっかりと誰も知らないうちに完遂するのだ。
なお、渡航費用と滞在費は別途で請求されるので。その用意もしておく。
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