第五話

 エクスリアで冒険者として生活を始めて最初の朝からかれこれ一か月たった。


 あれから町を巡り歩き、何とか朝の運動オッケーの宿を見つけて。やっと、衣食住といった生活の基盤を整えられてきた所だ。


 ギルドにも朝から顔を出して仕事を受ける様にしている。

 ようやく最近、よく見る新人として顔を覚えてもらってきて。密かに盗み聞きしたところ、感じのいい若いのとして注目され始めているらしい。


 仕事は変わらず最下位ランク「石ころ」向けの依頼がほとんどだ。


 ゲームでも、この時期の依頼はストーリーの物を除けば、地味な仕事ばかりであまり面白くなかったのを思い出す。

 いわゆるサイドクエストだが。しっかりこなすとちょっとだけ早く良い武具が買えたりする。やらなくてもいいけど、やれば得をする寄り道だった。


 仕事を共にした冒険者に、打ち上げの席で一杯奢って教えてもらったところ。腐らずマジメにやっていれば、少なくとも一月以内には上のランクに昇格できるとのこと。ここは我慢の時である。


 さて、目標への現在の進捗は、もっと大きな町に行くための船を待ちながら旅費稼いでいるところだ。


 今のところオレの目的は、自分の船を手に入れるというのはブレる事の無い指標だが。その前に、いくつかの段階を踏む必要があると考えている。


 まずは冒険者として今後も戦って稼いでいけるだけの地力をつけること。


 幼い頃から身体を動かして、魔力にも親しんできた結果。自分の才能は、幸いにも結構ある方だと思う。


 だがしかし、知識として知っている世界の強者と比較すると、このまま成長したとしても無いよりましとしか言いようがない。

 これまで育ててくれた両親には不満は無いが、生まれついての天才が沢山確認できるこの世界で目指す先へ向かうには、もっと強くならねば話にならず。今のままではいささか物足りない。


 勿論、その為の方法にはいくつか心当たりがある。なので最初は自分の才能について改善を行う。体質改造を決行するのだ。


 この計画が成功すれば、少なくとも才能と言う土俵では勝負できる水準に立てる筈。

 その為にはこの町を出て。もっと大きい、物も人も集まる都市へ行く必要がある。


 なので今後しばらくは。旅費稼ぎにいそしみながらもっと基礎を固める修行を積む方針だ。たとえどれだけ才能があったとしても、それを活かせねば宝の持ち腐れ。戦える技術も磨いておかねばならない。


 夢見る冒険者的な活動はその時までお預け。今はひたすらにお金稼ぎである。




 そういうわけで。オレの一日は日々労働と鍛錬によって彩られている。


 最近は朝は日の出前に起床し、軽い鍛錬の後、日雇いの仕事をこなしてお金稼ぎ。仕事が終わると船やその他の情報を集めるべく、ギルドの酒場で情報収集。寝床に戻ってトレーニングして寝る。といったスケジュールで生活中だ。


 ちょっとストイックすぎるかもしれないが。こうでもしないと一介の冒険者の若造には碌な仕事も情報も回ってこない。


 動かずとも最低限の機器があれば星の裏側のニュースまで見れた前世がおかしいともいう。


 こうして日々の糧を得るべく、毎日出される日雇い労働に従事しているわけだが。そのうちのいくつかはゲームでは見たことが無い物がいくつかあった。


「廃屋解体」「町内清掃」「荷物配送」この三つはオレでも受けられるとの事だったので。このあいだ後学の為に受注してみた。


 結論から言うと、どれもしんどかった。


 解体は放置された小屋を壊すだけの仕事だったが。崩す小屋の中から魔物が出た上に、壊すときメチャクチャ埃っぽかった。

 受注時に受付さんから「口元を覆う物を用意した方が良いです」とアドバイスをもらっていなければ、もっとヤバかっただろう。


 清掃はその名の通り町の中を回ってゴミ拾いする仕事だった。

 オレ以外にも数人の参加者がいて、それぞれの持ち場をキレイにするのだが。思っていたよりゴミが多い。

 最終的に貸し出されたかご一杯になった。


 荷物の配送はこの中だと一番報酬が良い。

 ギルドで流通させている道具を各小売りの店に卸す仕事だったが。台車一台に山のように積まれた荷物は重たかった。

 この時ほど体を鍛えておいて良かったと思ったことは無い。


 すべての仕事を体験したが。仮にこれ等がゲームにあっても、絶対にやらない。フレーバーテキスト程度にしかならないだろう。

 もしかしたら、ゲームの世界でもこの仕事があるのかもしれないが。それを実装しなかったクリエイターさん達には感謝しよう。


 結局、この時のもうけは全て酒場で飲み食いするのに全部使う事にした。

 同席した冒険者たちも、オレが何の依頼を受けたかを知ると同情したり笑い飛ばしたりしてきた。

 どうやらあの仕事で痛い目を見るのはこのギルドではよくある事らしい。


 おかげで馴染むのは早まったから。まあいいか。


 


 週末は休養を兼ねた情報収集の日だ。この日だけは修行だけして仕事は入れない事に決めている。


 前世の知識「スカイトラベラーズ」の物語は、この世界で値千金の情報である事は間違いない。

 しかし、それを指針に行動するのは不味いと、オレはこの間の三つの依頼でハッキリ思い知った。なのでこの経験を糧に、オレは時間を作って既知の情報の精査を行う事にする。


 ゲームに登場したアイテムの照合は、故郷にいた時にもやっていた。今回はギルドに置いてある魔物の情報も対象に、記憶との差異を事細かに確認を行った。


 それは傍から見れば勉強熱心な新人に見えたのか。この日以降から、先輩冒険者や受付さん以外のギルド職員達から声を掛けられることが多くなった。


 どうやら真面目な新人から有望株を経て、若手のホープに評価が上がったようだ。


 この数日後。オレは晴れて昇格した。

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