第六話

 助言に従い、真面目に仕事をこなしていたら。冒険者ランクが「石ころ」から「鉄札てつふだ」に昇格した。ようやく見習い卒業である。


 これによってオレの受けられる依頼は大幅に増えた。質、量、報酬どれをとっても石ころとは比較にならない。

 今までが日雇いのアルバイトだとすれば、これからは日替わりの専門職の現場くらい違う。相応の知識と技量が求められるのだ(受付さん談)。


 魔物一つとっても、石ころの時に相手したロードッグに加えて「アーツエイプ」(パリィしてくる。剣を買い替えた、はーウザイ)「ガスボア」(体内のガスで浮く。投げた新品の剣が欠けたウザイ)「ボマーマウス」(突っ込んできて自爆してくる。盾が壊された、マジウザイ)など、めんどくさい性質をもった相手も出てくる。

 報酬も期待できるが、命の危険も段違いに上がるので。作中でもギルドでも特に注意された。


 そんな魔物との戦闘でも不覚を取らず!危険な仕事の合間も続けた修行の成果もあって。オレは単独で活動しているエクスリアの冒険者の中では、有数の実力とまで言われるようになった!


 残念だが、エクスリアはお世辞にも大きな町では無い事もあり。ここら辺では下から二番目の鉄札冒険者は立派な主力扱いだ。




 修行と言えば、今までやっていた魔力強化抜きの体力づくり。あれが少々不効率だと分かった。


 きっかけはいくつか仕事を共にした冒険者との出会いだ。彼も鍛錬について一家言あり、お互いに見識を広げるための話をする機会があった。

 その時に自分のやり方を実地を交えて説明したところ。ドン引きした顔で「変態だ……」と言われてしまった。


 どうやらこの世界では無意識でも魔力で動作を補助するのがほとんどで。全く魔力を用いずに運動するのは特殊技能扱いらしい。


 その後、彼の普段やっている鍛錬を見せてもらったのだが。オレよりもスムーズに強化を使いこなし、バリバリ負荷の高いメニューをこなしていた。


 目からウロコだったのが、「普段から使えば自然と強化の練度は高くなり、肉体は其れに順応する」という考え方だ。

 確かに、言われてみれば普段から強化状態で過ごせば、肉体もおのずとその状態を自然体とするだろう。実に筋の通った理論に瞠目してしまった。

 

 幸いなのは。オレのやり方も無駄ではないと言ってくれたこと。


 若いうちから強化に任せて体を酷使することなく、しっかりと筋肉を付けているので、これから鍛錬に強化を加えても十二分についてこれると太鼓判を押してくれたのだ。


 その言葉に救われたオレは。彼の進めるお金のかからない鍛錬法を実践し、魔力強化を交えた鍛錬に精を出していると。気づけば大体半年たっていた。




 半年もの間、身体づくりを優先してしまい、どうしてもその間は仕事の頻度が減ってしまった。


 なので冒険者ランク昇格の為の得点稼ぎは滞ってしまっている。これから仕事を増やすにしても、正直ここら辺のうけられる仕事は経験済みだ。

 率直に言えば、この町では昇格するには仕事が足りない。




 という訳で。オレはかねてより計画していた体質改造計画を実行に移すことにした。


 その為の第一歩は拠点の変更。港町エクスリアから更に大きい、この空域で唯一の流通拠点都市である要衝ゼットゥスへの渡航である。


 ここから更に高みを目指すため拠点を変えることは、冒険者の間では珍しくない。今までの調査によってここはゲームの知識とも合致してると分かっている。


 腹が決まれば早速行動開始だ。


 ギルドで拠点変更についての手続きを聞いてみたが。驚くほど簡単だった。冒険者証を現地のギルドに提示し、「今日からここで世話になる」と言って幾つか依頼をこなせば晴れて移籍完了だとの事。ちょっと緩すぎる。


 多少腑に落ちないが。仕事関係の話が終われば、次は普段お世話になった人達へのお知らせだ。


 各地区へ足を運び、他所の町へ移動することを告げた知人たちは、皆それぞれの言い方で別れを惜しんでくれた。数々の激励や応援を受け取り、志を新たにしたオレは皆とへ行き飛空船のチケットを予約した。


 流石に需要の高い所へ行くだけあって結構な値段がした。




 予めこの日の為に準備万端で迎えた出航当日。


 オレは長く世話になった宿の部屋を引き払い。売ったり、捨てたり、人にあげたりして、リュック一つにまとめた全財産を背負って飛空船港に来ていた。


 貨客船はこの町に来て長いが、ここまで近づいてしっかり見るのは初めてだ。

 ここまで大きな飛空船は、ゲーム本編では滅多に出てこなかったので。飛空船好きのオレとしては、見ているだけで笑顔になってしまう。


 港に併設された客用の待機所を出て、飛空船に繋がる桟橋へ移動し。時間の許す限りはその雄大な船体を舐めまわす様に見つめるつもりだ。


 船体が短く太く、気球部が横に広いこの造りは2に出て来たあの飛空船メーカーの製品か?推力機構から漏れ出る薄緑色の光からして、一番ポピュラーな風属性の魔石で動くエンジンだろう。


(仮にオレがこの形式の船を持つなら……やっぱり大きい副翼は外せないなあ。こんなフグのヒレみたいなのはちょっと遠慮したい。それにもう少し推力機構は露出しない。出来れば船体の影からチラ見せ程度に収めるのがベストだろう。動力は色で決めるのも悪くないけど、実際に運用するからには燃費も考えないといけないのか……)


 かぶりつきで桟橋に陣取るオレは、脳内で理想の飛空船を妄想していた。


 まだまだこれから信用も金も稼ぐのだが。実際にどんな船が欲しいかを妄想するのも大事だろ。それで具体的に欲しい船さえ決まれば、其処へ向かって頑張れる。


「はあ~オレも船ほしー……」

「それには同意するけどな。兄ちゃん、ちょっと周りを見なよ」


 誰にいうでもない言い訳を考えながら、桟橋から足を出して船を見ていたオレだったが。その様を遠巻きに見ている他の乗客たちに通報され。船員から注意を受けた。


 乗り込む前にちょっと念入りに検査されたが、挙動以外は無害なので無事通過。


 そうして問題なく出航時刻を迎えた貨客飛空船は問題なく出航した。




 特に問題なく乗船したので、指定された船室に着くまで少し周囲の乗客を観察したい。

 乗る前に少し目立ってしまったオレだが、この程度ではすぐに注目は外れる事はよく知っている。


 オレが通されたのはちょっと広いスペースに複数人詰め込まれる二等客室だ。チラチラ周囲を観察したけれど、そこそこ冒険者以外の人も乗っている。


 町では人族ヒューマ以外の種族の人が少なかったが。ここではそれほど差は無いように見える。

 彼らもこの世界を彩る主役の一人だが。作中でも種の違いからくる争いはしていた。

 勿論オレとしては見ているだけでうれしいのだが。


 周りにいる人では、蟲人ヴァームズの彼が纏っているマントが特徴的だった。

特徴的な湾曲した刃の紋様と草木を色に絡めたデザインは、彼がカマキリ系氏族に属する戦士階級だと表している。


 顔の造りは基本的に人に近いが、耳や目が虫のようになっている。それに加えて額からは触角が映えているのが大きな特徴か。


 オレの観察する視線を感じたのか。付近を見まわし始めたので、一度船室から退散して甲板へ退散することにした。




 航行中の甲板は船員以外の姿はまばらで、どうやらあまり人気が無いらしい。


 遠くの景色がキレイだ。島も見えるし、雲の影が芸術的、とても絵になる。


 遠目には鳥の様な影もたくさん見えた。この船に限らず大型の飛空船は魔物除けの道具が取り付けてあるから、余程の大物でなければ襲われることは無い。


 流れる景色を見つめるうちに、厚着をしているのにだんだん体が冷えてきた。成程、これがあるから人が寄り付かないのか。


 自分の船には暖かい飲み物を用意できるようにしようと考えながらオレは船室へと戻った。

 座れるところは皆埋まっていたので、この後到着までずっと立ちっぱなしだった。

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