第二十七話

 あれから一日かけた熱心な説得によって、オリガも自前の移動手段をこのタイミングで手にする利点を分かってくれた。


「はぁ……全く、アイヒルは飛空船の話になると目の色が変わるね」

「そりゃあ、夢の第一歩目を踏み出せるんだから。少しは必死になるさ」


 説得が終わるころには深夜となっていたが。むしろそれまでいい顔をしなかったオリガに驚いたよ?


 この先、各空域に利用する定期便の値段を交え、飛空船の燃料費など維持費を書き出すことで、彼女も納得してくれて。船を手にする障害は一つ潰えた。


 次は飛空船を扱うのに必要な資格や許可取りだ。


「ラガルトさんの所に行ってくる」

「いってらっしゃーい」


 冒険者ギルドで待ち合わせ。一昨日の宴に参加していたブレイズロアのメンバーに今日会おうと伝言を頼んだのだ。


「お待たせ~」


 待ち合わせの少し前に着いたのだが。そのすぐ後にラガルトさんも来た。


「あっ、おはようございますラガルトさん!」

「おはようアイヒルちゃん。元気そうで良かったわ」


 そのままギルドで借りておいた会議室に移動し。早速、今日集まった話を始める。内容は勿論、先日の勝負についてだ。


「それじゃあアレはお流れという事で良いのね?」

「ええ、当然そうなるでしょう。あれは予想できない事故ですから。前提が崩れた以上は勝負は成立しません」

「ありがとう。そう言ってくれると助かるわ」

「大体、前半はそちらが勝っていたではないですか。助かったのはこちらもです」

「ふふふ、勝利の女神は最後まで諦めない人が好きなのよ?」

「はい?」

「じゃあ、この話はここまで。次はお楽しみの「ご褒美」について話しましょ?」


 勝敗については無効試合という事で話を終え。続いては向こうの提示していた「ご褒美」に関して詳しい話を始める。


 予想通り飛空船の技能訓練所は入校にもお金がかかるらしい。

 幸い、「ご褒美」は問題なく出してくれるそうで。それによって入校費は一部免除になるだろうとの事。


 これから大きな買い物を控えているので。その結果には本当に安心した。

コンコン

「はい」

「会議中に失礼します。推薦状をお持ちしました」

「あら、丁度いい所に。入って~」


 ノックの後、ギルドの職員さんが書類を携えて入室した。彼女は確か、砦でオレ達の担当だった人だ。


「お二人ともお疲れ様です」

「お疲れ様です」「おつかれ~今日もカワイイわねっ」

「……こちらが冒険者ギルドとブレイズロア連名の推薦状になります」


 そう言って一枚の書類を机に差し出した。

 一言断り。内容を検めさせてもらう。

 確かに両方の組織の推薦と代表者の直筆署名が入っている。


「確かに頂戴しました。ありがとうございます」

「いいのよ~齢を取るとつい、若い子の夢は応援したくなっちゃうのよ~」

「あと、ギルドの方に幾つかお聞きしたい事があるのですが。今はお時間を頂いて大丈夫ですか?」

「私でよければ構いませんが……」


 良い機会なので、冒険者の所有する飛空船について相談する。


 彼女はとても丁寧に教えてくれた。最初に一定の登録料が必要で。それに加えて年に一度の船の税金、後はギルドを通して収めると少し割引してくれる公共の港利用料が大まかな概算らしい。

 やはりゲームでは語られない面白くない要素がいっぱいだ。


「ありがとうございました。大変参考になりました」

「いえ、これも仕事の一環ですので。お気になさらず」

「お仕事の話はここまでね。それじゃあ、おしゃべりしましょう!」


 これでオレの要件は終わったので。次にラガルトさんの話を聞いた。

 あの依頼から二日経つが。当然ながら、クランの受けたダメージは重いものとなったようだ。


 ギネクも、あの夜から建て直しへ熱心に活動してくれているそうで。話の途中で抜けたオレに怒っているらしい。すまんな。


 まあ、その話はどうでもよくて。失ったものを想いながら我々は更なる躍進を目指すという宣誓を。クランの恩人であるオレに言いたかったそうだ。


 とても畏れ多い事だったが。しっかりと覚えておくと言っておいて会談は終了。ラガルトさんは、これから職員さんとお出かけらしいので。オレは中座させてもらった。


 その後、ギルドとブレイズロアの連名書類を提出し。オレとオリガの技能訓練所入所は、しっかりと許可された。


 これから手続きをするので、入所は三日後との事。

 依頼をするにも半端な時間なので。折角だから、飛空船を見に行くことに。




 飛空船の業者はギルドの紹介された所を利用する事にした。


 まだまだ船の良し悪しは分からないし。とりあえず一隻目は自分たちで動かす練習も兼ねた、いわゆる「壊すのも込み」で買う船なので。出来るだけ専門家の意見が欲しかったからだ。


「いらっしゃいませ。シップズネストへようこそ」


 島と島を繋ぐ大きな鎖を利用した、モノレールっぽい乗り物を乗り継ぎ。ダヴルクで船に関する施設が集中している島に来た。そこに中古の船を取り扱っている業者「シップズネスト」の事務所がある。


「初めてのお客様ですね。お名前と所属、もしくは身分証をお願いできますか?」

「冒険者ギルド所属の銅杯冒険者アイヒル・ディクターです。冒険者証をどうぞ」

「同じく銅杯のオリガ・コレリカ」


 清潔でキレイな建屋に入ると、すぐに受付の業者の人が対応した。ちょっとこの店にはミスマッチな服装だったが、とてもフレンドリーだった。まあ、お客に一先ず愛想が良いのは、何処も一緒か。


「……確かに確認しました。こちらはお返しいたします。今日はどのような船をご所望でしょうか?」

「そうですねー。オレ…いや、自分が考えているのは……」


 受付を終えたオレ達は、店員さんに連れられて商談スペースへ通された。質の良い椅子に案内されて、早速要望を聞いてきた。


 先ずは最低限の条件を話す事にした。希望する船の乗員は二人以上、初心者でも扱えて、そこそこの距離を航行できる頑丈な船。


「なるほど。失礼ですが、ディクター様は飛空船の免状はお持ちですか?」

「いいえ。前の仕事で推薦を頂いたので、これから訓練所に行く予定です」

「ありがとうございます。そうですね、それでしたら……」


 業者の人はまず、オレたちの資格の有無を聞き。ないと分かるとそれを加味して資格取得の平均期間を教えてくれた。大体、ほとんどの人が三か月程度で免状を取れるとの事だった。


「では、先ほどの条件に合う船のカタログをお持ちいたしますので、少々お待ちください」

「お願いします」


 その説明の後。いくつかのカタログを持ってきてくれた。

 今、ご用意できるものですと、ここら辺がおススメです。といって出してくれたカタログを見ながら相棒と相談をさせてもらった。


「なあなあアイヒル。この船よくないか?」

「んー?……オリガさん?これ、近空用の漁船ですけど……」


「これは良いんじゃないかオリガ!カッコいいし、早いし、デカい!」

「おい、これ絶対二人じゃ無理だぞ」


 あーでもないこーでもないと楽しい時間だった。


「それじゃあ、これでお願いします……」

「かしこまりました。担当者に確認してきますので、もう少しお待ちください」


 二人でいくつかを抜き出すと。業者の人はそれらを確認した後。「これなら今日見る事が出来ますよ」。と言ってオレ達を停泊所まで案内してくれた。


「「お~~~~!!」」


 事務所の裏手には飛空船ドックと停泊施設が完備され。今まさに稼働中だった。

 大小さまざまな飛空船が、ずらり整然と並ぶ光景は。いつもの港で見る姿と違い圧倒された。


「ご希望の船のところへご案内いたします。こちらへどうぞ」

「は、はい……」

「お~~~~」


 いつも見ている飛空船と違い、周りに乗客がおらず。周辺には整備員しかいない光景は、人と船の数が入れ替わっている事もあり、独特の環境音を生み出している。


 オレ達は持ち出してきたカタログのイラストと実物を見比べながら。あれはこの船だろ、これはあそこの船だなと。業者の人の案内についていきつつ桟橋を歩く。


(やべー……あそこの船、無印の開拓団が乗ってたやつと同型じゃーん……)

(うわっ!こ、この船、3で火計に使ったボンバーシップ!?この時代の船だったのか!うわー!資料集にも乗ってなかったから気になってたんだよねー!)

(ヤバい。知ってる物確認するだけで、脳が沸騰してきた……これ、ここで一日潰せるな?)

「お~~~~……なにやってるか、さっぱりわからん」


 個人的に言わせてもらえば、ここはスゴク気に入っている。時間さえ許せば一日中いる事が出来る。いや、何日何か月でもいける。

 そうやって業者の人の先導で船を回り。いよいよ選んだ船がある所に来た。


 さてさて、記念すべき最初の船はどんな船だろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る