9.力ある者こそが王に相応しい

 俺とクアラ殿の出逢いは十一年前の剣術大会。

 彼に負けるまでの俺は現国王である叔父以外に負けたことがなかった。公式でも非公式でもいつも俺を負かすのは叔父で、叔父以外、俺に勝てる者はいないと思っていた。


 もし俺に膝をつかせることが出来るとしたら、毎年優勝争いをしているビルドだろう。

 彼の実力は認めていたし、良きライバルだと思っていた。だから十以上も年下の子どもに負けたと聞いた時は、心の底から絶望した。


 大陸最強と呼ばれる叔父以外、自分と対等以上に戦える人間はいなくなってしまったのではないかと。


 その叔父ですら、最近はこちらが有利なことが多く、このまま剣の腕を磨き続ければ数年中には勝ってしまうとさえ思う。彼に三度勝てば、王家の決まりで自分は新たな王となり、退屈な人生を過ごすことになる。なんてつまらない人生だろうか。


 そう、思っていた。

 だがクアラ殿は俺の驕りと、退屈な日々を打ち砕いてくれた。


 死に物狂いで斬りかかってくるクアラ殿に俺はいつのまにか息を荒げ、剣をはじき返す手が痺れていく。


 相手はまだ子どもだ。だが彼には俺にはないものがあった。

 金属音が耳の近くで奏でられ、その度にもう長らく忘れていた勝利への欲というものが沸々と沸き上がる。


 勝ちたい。

 そう思うと同時にいつまでもこのまま戦っていたいと思えた。


 それでもこの時間が永遠に続くことはない。

 ならば彼に勝利し、その名前を胸に刻みたい。その一心で剣を振った。



 だが俺は負けた。

 彼が俺の腹に入り込む瞬間、少しだけ笑ったような気がした。


 その日から、俺はあの人に仕えたいと思ったのだ。

 実力を示し、彼の臣下にさせてもらいたいと。



 そのためにひたすら剣の腕を磨いた。

 剣術大会の三日後には叔父だって倒した。三度目の勝利をするのに一カ月もかからなかった。


 国王になれと騒ぐ親戚どもを蹴散らして、騎士団のトップの座を勝ち取ったのも国に仕えるためではなく、クアラ殿が成長するまでのわずかな間でも国内最強の座が他の人間に与えられていることが許せなかったからである。


 だが彼に打ち負かされた俺なら、自分こそが最強など馬鹿みたいな考えは端から持ち合わせていない。上には彼がいることをこの身に刻み込んである。


 王家の忠誠など毛ほどもなければ、国を守ろうという考えなど持ち合わせていない。

 だがこの国の王家はそうやって繋いできた。


 この国は代々力で王を決めている。

 第一王子や第二王子などの冠は飾りに過ぎない。王位継承権は力によって決められる。


 今や選出の枠は王家の親戚筋までと決められているが、昔は国民全員が参加して王を決めていたらしい。現在、貴族の令息達が参加している剣術大会はそのときの名残だ。


 力なき者は王にはなれない。

 王家の子どもが参加した大会では王家に関わりのない人間が優勝したことはたったの一度しかない。その一度の優勝者はいわずもがな、クアラ殿である。彼はガルドベーラ王家に例外を生んだ。同時に関心も。


 一時期、実はあの双子は入れ替わっているのではないかと噂が立った時なんかは将来的にどちらを王家に迎えればいいのかと騒ぎになったものだ。同性結婚・多夫多妻を導入すべきではないかとの声も上がり、法案が可決する寸前で、頓挫した。


 クアラ殿を王家に取り入れることで成長が止まることを恐れたためである。

 また、彼ら双子の入れ替わりの確たる証拠も掴めなかったというのも理由の一つではある。まさかお茶会デビューまで親戚以外との交流がほとんどなかったとは思わなかった。


 その最低限ですら家庭教師や針子であり、彼らはその答えを知らなかったのだ。

 唯一、正確な答えを知っているのはバルバトル家お抱えの医師だけ。彼は王家相手であろうとも決して口を割ろうとはしなかった。


 それに俺としても王家としても過去の入れ替わりや性別はそこまで重要視すべきことではなかった。


 本人がどちらかと主張するかの違いで、どちらの性別として受け入れるかが違うだけ。

 もしクアラ殿が本当はキャサリン嬢で、女性だったと判明したとしてもこの国には女王が君臨した前例がある。


 強ければ男女など関係ないというのが王族の考えである。

 ……ちなみに二年ほど前から再び同性結婚を認めるべきだとの声が上がっているのは王家からではなく、貴族達からなのでこちらは今後の流れに任せることとする。

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