59.大切な人と共に
アイゼン様の即位式は私の回復を待って行われることとなった。
ギリギリまで私を女王に据えたい人達による抗議もとい決闘の申し込みが後を絶たなかったが、全てアイゼン様によって一掃された。
何度もそんな光景を目にすれば、本当に私でいいんだ……と理解させられる。
アイゼン様の言葉を疑っていたわけではないし、反対されたところでもう離れる気はなかったが、こうも全力で歓迎? されることは想定していなかったのだ。
柱の影からいきなり飛びかかってきた時なんて反射的に剣を抜いてしまったほどだ。相手はなぜか満足気で、私がお城に馴染むキッカケにもなった。
たまにクアラ様とキャサリン様をダブル女王に! と叫ぶ声も混じったり、それをクアラがうるさいと一蹴したり。なんだかんだで騒がしくも楽しい日々を過ごしてきた。
そしていよいよ今日がアイゼン様の即位式。同時に私との結婚も報告される。
ドレスもウェディングドレスを意識して純白のものを用意してくれたのだとか。アイゼン様の要望で胸元から足にかけて大きなグラジオラスの刺繍が施されている。
愛されているのは十分に伝わってくる。
ただ婚約発表ならまだしもいきなり結婚発表だなんて反発されないだろうか。
私が女であることを明かしてから人前に出たのは夜会と大会の二回だけ。
男性陣はあの日と同じように歓迎してくれると思うが、女性陣から見れば私は横から来て国一番人気の男性を掻っ攫ったように見えてもおかしくはない。
今まで女性との交流を行ってこなかっただけに不安も大きい。
アイゼン様を待つ間、緊張で部屋を歩き回ってしまう。
「そんなに緊張することないって。いい名前だと思うよ、キャサリン杯」
「いや、そこじゃなくて」
いつのまにか可決した大会の名前変更は早々に諦めた。新設された18歳以上の部の名称がアイゼン杯だったので、抗議したところでどうしようもないと悟ったのだ。
国名もガルドベーラだし。おそらく最上級の好意なのだろうと受け取らせてもらうことにした。
「え、じゃあ何に緊張してるの?」
クアラにとって心配する要因はそれしか思い当たらないらしく、どれ? と首をかしげる。髪の隙間から騎士団服に合わせて用意した青いイヤリングがちらりと見えてとても可愛い。
クアラが騎士団服を身につけているのは、彼の所属が決定した特別部隊の発表も今日だから。ライドはすでにそちらに向かっており、クアラも後で合流予定となっている。夜会のように近くにいてはくれない。
「いきなり結婚報告だなんて、女性陣からバッシングされないかなって」
「国中が姉さんの負傷を知ってるし、アイゼン様が姉さんを大事にしているのも有名な話だから、いくらなんでも遅いなんて不満を垂れるような人はいないよ〜」
「……有名、なんだ」
「国外でも知ってる人は多いんじゃないかな? だから何も心配いらないって」
そう告げるとクアラはヒラヒラと手を振って持ち場へと向かってしまった。
直前まで私の控え室にいてくれる理由は私を心配して、ではなく、同じく所属が決まったマルカを避けてのこと。
あの日、一足先に会場から去ったマルカは王都に溢れた魔物討伐で活躍したらしい。その功績が認められ、特別部隊にスカウトされたのだ。
彼女の他にもビルド殿など、あの日活躍した人を中心に数人の所属が決まっている。
他の団とは違い、有事の際の出動がメインなので、今まで何かしらの理由で騎士団に所属できなかった人たちをどんどんスカウトしていく予定らしい。
これ以上クアラを引き止めるわけにもいかず、私も「頑張ってね」と見送る。するとクアラと入れ替わるようにして、アイゼン様がやってきた。
いつもの騎士服ではなく、式典用に色々と装飾がなされている。ちなみに私とアイゼン様の感想は『戦う時に邪魔』と見事に一致した。
「クアラ殿が来ていたのか」
「マルカ様が苦手のようで」
「そういえば昨日も追いかけ回されていたな。苦手と言いつつ、ちゃんと相手にするところがクアラ殿の良いところだと思う」
「期待はしているようですから」
マルカもシルビア様も、クアラが今まで付き合ってきた令嬢とは違う。
頭を抱えたり眉間にしわを寄せたりするけれど、キャサリンとして過ごしてきた時よりも生き生きとしている。
二人以外とも少しずつ交流を広げていっているようだ。
「我が国はこれからもっと強くなるな」
「アデル様やリラ様もいらっしゃいますし、女性ももっと活躍されるようになるかと」
「変わっていく国を一緒に見ていこう」
差し出された手に手を重ね、会場へと歩いていく。
クアラと入れ替わったあの日から十二年と少し。
その間、本当にいろんなことがあったけれど、私達は元気に暮らしている。そしてこれからも大切な人とともに幸せな日々を歩んでいくことだろう。
完
姉弟で入れ替わって十一年、今日も私たちは元気です 斯波 @candy-bottle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます