15.衝撃の告白と名前の知らぬ想い
「それで、その……謝罪をした直後にこんなことを言うのはとても厚かましいと思うのだが、もう一度、彼女に会わせてはもらえないだろうか」
なるほど、こちらが本題か。
前回はテンパって変なことを言ってしまったがやり直したいのだろう。
さすがに虫が良すぎる。
それに条件付きどうのこうのをとりあえず後回しにして、キャサリンを手に入れてから動く作戦にシフトしただけかもしれない。
言葉を濁しながらも明確な拒否を伝える。
「いくらアイゼン様でもそれは……」
だがそれはそれとして、なぜそこまでキャサリンを手に入れることにこだわろうとするのかは気になる。
「なぜもう一度姉と会おうと思ったのでしょう? 謝罪のことなら私の方から姉に伝えますが」
彼は先ほど『あなたの騎士団入りを要求した』とはっきり告げている。もう隠す理由がない。
ならば次に出るのはキャサリンともう一度会うことよりも、騎士団入りの話を持ってくる方が自然な流れと言えるだろう。何かあるのか。
まさか本当にキャサリンに惚れていて?
理由次第ではここで強くNOと提示する必要がある。
今から告げられる言葉が真実か偽りかを見極めるために彼を真っ直ぐと見つめる。
けれどアイゼン様の口から飛び出した言葉は予想もしていないものだった。
「あの日から彼女が頭から離れないんだ」
「は?」
「クアラ殿にキャサリン嬢を紹介して欲しいと頼んだのは、あなたともう一度戦うためだった。こんなことを言っては失礼に当たると思うが、正直、彼女自身に興味などなかったんだ」
「ではなぜ」
「あの日の彼女は表情がよく動いて、まるでクアラ殿みたいだった」
「私、ですか? 姉と私は別人ですよ」
もしかしてあの日屋敷に行ったのが私ってバレている!?
いや、だが表情がよく動くのはクアラだって同じである。むしろあの子の方が私よりも感情表現が豊かで、考えが顔に出やすいタイプだ。
外ではしっかり取り繕っていると言っていたが、私が見ている時はいつも朗らかに笑っていたし、おかしなことなんてなかったはずだ。
それで入れ替わりに気付かれるはずがない。
そう、きっと大丈夫と自分に言い聞かせ、なんとか平静を保つ。
「ああ分かっている。初めは似ているからだと思っていた。だが、違ったんだ。確かにきっかけは顔だったが、今の俺は彼女に興味がある。クアラ殿と戦うための口実なんかではなく、彼女自身と会って話したいと、彼女の特別になりたいと思った」
「それはつまり」
「キャサリン嬢に結婚を申し込みたいと思っている。もちろん、クアラ殿と戦いたい・騎士団入りして欲しいという欲がなくなった訳ではないが、それと同じくらい彼女を求めている」
「で、ですが、姉がアイゼン様と話したのはたった半刻にも満たない時間だと聞いています。そんな短時間で相手への思いは変わるものでしょうか?」
「従兄弟が言うには、恋なんてそんなものだと。俺は今まで強さでしか人を判断してこなかったし、弱き者には興味すらなかった。だからこれが恋という感情かどうか見分ける手段を持たない。だが人の思いを変えるのに一瞬もあれば十分だということはもうずっと前にこの身で理解している。だから、頼む。もう一度キャサリン嬢に会わせて欲しい」
アイゼン様としては、シスコンな弟になんとか協力してもらおうと打ち明けているのだろう。目的を達成するために適当な嘘を吐いているようには見えない。
だが彼が惹かれたと話している相手はクアラ演じるキャサリンではなく、今し方クアラの格好をしている私である。
彼もまさかあの日のキャサリンが私なんて思ってもいないようで、頼む! と頭を下げて頼み込んでくる。
クアラとして求められたことは何度もある。
剣の腕を見込まれて男性達から求められたし、優良物件の一人として女性達からアプローチもされた。
けれどどちらもクアラとして、男性としてだった。女性として求められるのは初めてなのだ。
美人でおしとやかなクアラではなく、なぜ私なんだろう?
剣の腕だって見せていないし、たったあれだけの会話で分かることなんてないだろう。
少し前までふざけるな! って本気で思っていた相手に謝罪されて、心の内を打ち明けられただけ。
そう、思うのに、思いも寄らぬ方向からの熱烈な告白に胸を打たれる。
心臓はバクバクと脈打ち、目の前にいるアイゼン様に聞こえてしまわないかとヒヤヒヤしている。
この胸の高鳴りの正体を私は知らない。
初めてのことに戸惑っているだけかもしれないし、もしかしたら……。
幼い頃から剣を振ってばかりで、クアラや母さんの勧める恋愛小説を拒んでいた私には、正解を導き出す公式が浮かばない。だから赤く染まった顔をごまかすように撤退宣言をする。
「あ、姉と相談させてください」
「クアラ殿!」
「姉が拒んだ時は遠慮なく断らせて頂きますからね!」
「検討してもらえるだけでありがたい」
「あと、私は騎士団に入りませんから!」
言いたいことだけ告げて、逃げるように店を後にした。
店を出てからも顔の赤みは引かなくて、手芸屋の店長さんには「風邪かい?」なんて心配されてしまった。
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