55.核を壊せ

 あれを利用して何か出来ないか。

 絶対何かあるはずだ。クアラの言うように今まで相打ちでもなんでも繋げられてきたのなら、あれを相手に十日も粘れるだけの何かがあるはずだ。考えろと頭をフル回転させる。


 すると『核を壊せ』と誰かの声が聞こえた。聞き覚えのある声なのに、相手の顔や名前が分からない。


「核?」

 核って何? と振り返ってもそこにはアイゼン様しかいない。そしてそのアイゼン様の顔は輝いている。


「そうか、中から核を壊せばいいのか! さすがキャサリン嬢!」

「私の案じゃなくて、って今はそんなこといいか。中から核を壊すってどういうことですか?」

「傷を切り裂いて中に入り、核となっている魔石を破壊する。どんなに強い魔物でも核を失えば動けないはずだ」

「でもここからでは距離がありますし、地上からだと高さが……」

「高さなら問題ない。下からもう一度位置を教えてくれ」

「は、はい」

 アイゼン様は再びドラゴンの足元まで戻ると騎士達を集めた。


「今から腹部から内部に侵入し、核を破壊する!」

 そう宣言し、第一部隊の騎士達にハシゴになるように指示を出す。驚きつつも傷口の位置を知らせれば、彼らは素早く上に連なっていく。一番上の人がドラゴンの身体に触れた。


「キャサリン殿、ここであってますか?」

「はい!」

「では行ってくる。キャサリン嬢は待っていてくれ」

「え、私も行きますよ」

「危険だ」

「危険なのはアイゼン様も同じです! それにアイゼン様だけでは傷跡の位置がわからないでしょう? 何かあった時に中からの離脱ができません」

「それは、そうだが……」

「早く行きましょう。止まっているうちに入らないと」


 ライトを持ったアイゼン様が先に登り、彼が入った後で私が続く。失礼します! と声をかけ、騎士達をスルスルと登っていく。

 騎士達は慣れているようで、上の方まで来ても全く揺れることがない。


 一番上まで登り、剣を立てれば簡単に穴が開いた。そこからよじ登り、アイゼン様の手を借りて内部へと侵入する。


 隙間から見たとおり、中はがらんとしていた。

 皮と骨ばかりで、肉がまるでない。そんなところにポツンと置かれた大きな岩。あれがドラゴンの心臓部分なのだろう。


「やはり桁違いに大きいな」

「私、漆黒の魔石なんて初めて見ました」

「俺もだ。剣で破壊できるといいんだが……」

 アイゼン様は手でコンコンと叩きながら、心配そうに呟く。するとドラゴンの身体が大きく揺れた。また一歩進んだのだろう。


「ドワーフの剣は丈夫だと信じましょう」

「だな」


 悩んでいる時間はない。ライトを近くに置いて剣を抜く。

 二人で魔石を挟んで思い切り叩く。見た目通り硬く、キンっと金属音が響く度に剣が折れないか心配になる。だが確実にヒビが入っていっているのも確か。

 身体が震える度に立て直して、また斬りかかる。


 ドラゴンがゲートから出るのが先か、私達が核を破壊するのが先か。

 ドワーフの親父さんの腕を信じて剣を振ると、バリンと何かが割れるような音が耳に届く。


「もうすぐです!」

「ヒビが大きなところは!」

「アイゼン様から見て右上のあたり!」

「ここだな!」


 アイゼン様が大きく振り下ろすと、パキンっと剣が割れる音とともに魔石が細かく割れた。


「やった!」

 そう喜んだのもつかの間、身体を形成していた骨や皮が次々に消えていく。倒した魔物から魔石を採取しても、魔物の身体が消滅することはない。だがこのドラゴンの身体は消滅しようとしている。


 大きな揺れに耐えきれず、身体が横に倒れていく。その先にはぽっかりと空いた大きな穴。すでにそこにあった皮は消えてしまったようだ。


「キャサリン嬢!」

 アイゼン様から伸ばされた手に向かって必死で手を伸ばすも、届かずそのまま落ちていく。ドラゴンを見た時は感じなかった死が今は背中にピタリとくっついているようだ。


 正直、ドラゴンが倒せたのかは分からない。これはクアラが言っていたような『繋ぐ』という行為でしかないのかもしれない。

 それでも短期間でドラゴンが出没していたらもっと騒ぎになっていただろうし、しばらく平和は訪れるはずだ。


 なら、いっか。

 不思議と後悔や恐怖はない。眠りにつくようにゆっくりと瞼を閉じればそこで意識が途切れた。

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