第14話 夜襲②

「ラスゴル、出てきなさい」


 細ガリの男がそういうと、巨漢の男が前に出てきた。その男は異様に筋肉を隆起させ荒々しく魔力を放出しながら、俺の背丈ほどはありそうな巨大な両手剣を片手で持っている。


「彼は一応私たちと同じ待遇にある仲間です。なのであまり苦しめず、一瞬で終わらせてあげなさい」


「ガァァッ!」


 細ガリの男が話すと、ラスゴルと呼ばれた巨漢の男は、獣のような返事を返す。その表情は何処か上の空といった感じで、口からは涎を出して歯軋りをしながらこちらを睨んでいる。


「アンァアアア〜〜!!」


 唸りながら、そう咆哮を上げる姿ははまさにといった感じだ。



 ・・・・うん、ていうか明らかにお薬とかやってそうな様相じゃんよ。



「グルゥゥァアッ!!」


 獣のような叫び声を出し、男がこちらに急に走り出してくる。そのスピードは恐らくこの国の王国騎士と並ぶほどであり、Ⅾランクではどう頑張っても出せない速度だ。



 驚きながらも、一息で詰め寄り振り下されたその大剣を、俺は横に飛び退くようにして避けた。大剣が地面に当たったことで陥没してしまい、そして小石の礫と衝撃波が飛んだ。その凄まじい威力の一撃に一瞬、体が飛ばされたと幻視してしまう。


「くっ!」


 俺は飛び散った礫が顔に当りそうになるのを腕で防ぎながら、追撃として繰り出された横払いをしゃがんで躱す。そのまま男は無造作に剣を振り回し、その体格には見合わない素早い攻撃を繰り出す。


 それを俺は紙一重といったところで躱し続ける。


「危なッ!」


「ほう、上手く躱しますねぇ。なかなか目は良いようですが、そのようでは体力も持ちませんし時間の問題ですよ?」


 細ガリがそう言ってくるが、俺はそれに返事を返している余裕はない。マジでどうなってるんだ、このパワーとバネは。熟練の戦士と遜色ないレベルで強いんじゃないか?


 ・・・あの手首につけている腕輪が原因だろうか。先ほどから不気味な魔力を出しながら、奴の魔力と混ざり合っていくのを感じる。しかし、それがどういう意味を持つのかわからない。


 疑問を抱きつつも、斜めに振り上げられた剣を上半身を後ろに倒してすんでのとで躱す。この攻撃が当たったときのことを考え、俺は舌を巻きながら冷や汗をかいた。



「ぎ、ギギガガァ、フンッ!!」


「はぁ、はぁ、ぐっ!」


 攻撃は苛烈を極め、俺は息つく暇もなく避け続ける。しかし、ついに肩で息をしながら地面に膝をつき動きを止めてしまった。体には避けきれずについた傷が蓄積し、その様子はもう一手で勝敗が見えるだろうと、誰もが予見できるほどに疲弊している。


「・・・ふふ、なかなか頑張ったようですがそろそろ限界のようですね。よし、終わりにしてあげなさいラスゴル」


「ガアァアアッ!!」


 細ガリがそう告げると、ラスゴルと呼ばれた男が叫びながら俺にゆっくり近づき、力強く剣を振り下ろしてくる。それはまるで断頭台の処刑人を彷彿とさせる。


「はあ、はあ、はあ」


 俺は息を切らしながら、覚悟を決めて大剣が振り下ろされるのを待つしかなかった。



 ここまでか。








 まあ十分に油断も誘えたし、ここらへんまで来たらもう安心かな。





 俺は振り下ろされた剣の側面に手を添えて、強めに練った魔力で斜めに受け流す。


「ギッ!?」


 唐突に振り下ろしたはずの剣が違う方向にいき、巨漢の男が驚きの声を上げる。


 今まで防戦一方だったのは相手の油断を誘う意図と、位置どりのためだ。白衣の女性が戦闘に巻き込まれず、かつ万が一の場合に人質に取られないであろう位置。



 おおよそ、男たちと白衣の女性の間のこの辺り。ここを抑えたかった。





 攻撃を受け流した後、すぐさま俺は攻勢にでる。


 ラスゴルという男は動揺していたが、俺が動くとすぐさま次の攻撃に転じようとする。しかし、手に持っている大剣を動かそうにもなぜか微動だにしない。


「ガッ!?」


 俺は周りに見えないように黒い雷を手に走らせながら、奴の大剣と地面の間にこっそり「自由引力フリーホール」を置いていた。地面に置いた黒点の引力により、相手は剣を地面からピクリとも動かせない。


 そうして身動きの取れない相手に対し、奴の顎に魔力で膂力を強化した肘鉄を入れる。男は顎を打たれたせいか、か細く声を漏らして体をぐらっとよろけさせた。


 が、完全に意識を刈り取るのに、この巨漢の男にはまだ不十分だろう。そう考え、俺はつかさず空いている胴に勢いよく膝で蹴りを放つ。


「ぐっふ!」


「もう、一発!」


 次に蹴りでくの字になった巨漢の後頭部に、魔力で固め組んだ両手で渾身の一撃を入れる。男は「あっ」と小さく声をあげて白目になり、膝をついてそのまま意識を完璧に手放す。よし、これぐらいやればしばらくは動けないだろう。



「まずは一人」



 そう言い、俺は膝をついた状態の巨漢の男を手でトンッと押す。男は意識を失っているからか、抵抗もなくそのままドスンっと激しい物音をたてながら倒れた。



「は?」



 一瞬の出来事に細ガリを含め、男たちが皆固まっている。


 俺はその隙を逃さず、偶然近くにいた背が小さい男に素早く接近する。


 近づいた男はほげーっと呆けているが、そんなことなどお構いなしに俺は力強く相手の腕を掴む。そして空いた手で後頭部を押さえ、右足を軸に回転を生んでから、相手の顔面を力強く地面に叩きつけた。


「ヒベッ!」


 小柄の男は頭部に強い衝撃を加えられたことで、情けない声を上げながら意識を手放す。



「二人目」



 俺がそう口を開くと、ようやく状況を理解したのか二人の男が魔法を発動させる。その発動速度はかなりのもので、こちらもおおよそDランクとは思えない実力だ。


「フ、フレイムウィップ!!」「サンドアーム!!」


 俺から見て左右にいた二人が手をかざし、白熱化したような火の鞭と砂で作られた大きな腕を地面から出現させた。そして、その二つの魔法が同時に俺を襲う。


 俺はまず火属性魔法を出した左の男から片付けようと駆け出した。背後から迫る砂の手を躱し、高速で繰り出される鞭の攻撃を避けながら、相手に対してスピーディーに距離を詰める。


「く、くそっ!」


 近づいてきた俺に気圧されたのか相手は魔法を中断し、慌てて腰にさしてある短剣を取り出そうとする。が、これは判断ミスだ。


「グフッ!?」


 俺は目の前で隙を見せてしまった男に走った勢いが乗った後ろ蹴りをお見舞いし、一撃で昏倒させる。


 その直後に月明かりにキラリと照らされた細剣が、蹴った体勢で隙が生まれている俺を襲う。


 なかなかのスピードで振り下ろされたその剣は、おそらく魔力で強化されているのか白く発光している。これがもし、まともに当たれば一振りで俺の体は両断されるだろう。


 こちらもなぜ緑のピンをつけているのか疑いを持ってしまうほどの実力だ。



 俺は後ろ蹴りを放ち、隙ができてしまっている体勢から魔力で左腕を覆い、振り下ろされた細剣を受け止める。


 するとガキンッ!とまるで金属と金属が激しく当たる音が鳴った。


「え?」


 細剣を持った男は、腕で剣を止められたことに動揺を隠せずにいた。普通は魔力で強化してある剣が勝つのだから、まあこうなってしまうのも無理はないだろう。


 しかし、そんなところを俺が見逃すわけもない。すぐに硬気で硬くした手で剣身を直につかみ、そしてこちらに体を引き寄せてから右拳で鳩を強打した。


 男は「ゴフッ」と口から唾を漏らし、意識を失って前のめりに倒れる。



「これで4人目」



 そうして俺はわずか10数秒足らずで、8人いた奴らを半分まで数を減らした。



「な、なにをやっている!数はこっちが上なんだぁ、物量で潰すんだよぉ!!」


 細ガリが状況を判断したのか、残りの3人に指示を飛ばす。俺はそんな様子を見ながらも、残りの4人を制圧しようと走り出す。


「「サンドホール!!」」


 3人いたうちの二人がそう声を上げると、急に地面に魔力が流れる。すると俺が踏み出そうとしたところに、直径2メートルほどの深い穴が突然出現した。


 俺は急に踏み出そうとしていた足場を失くしてしまい、なくなった地面に足をスカッと振りぬいた。まずいな、このままでは落下して上から集中砲火を浴びてしまう。


 くそっ、このような高度な土属性魔法を瞬時に放てるとは、完全に予想外だ。



「ハッ、引っかかったな!」


 細ガリの男が嬉しそうな声を上げてそう口を開いた。



 クソ、見誤ったか。



 足場を急に失った俺は穴にそのまま落下・・・・・






 







 するはずだった。


「はは、急に驚いたが所詮我々の敵ではな・・・」


 奴はなにか話そうとした口を止め、驚きで動きを固まらせた。




 「ば、バカな・・・、だと?」





☆☆☆

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