第7話 ありがとう
「ふぅ、ここまでくれば大丈夫か」
急いで立ち去った後、俺たちは建物から出てベンチに座り、空の夕日を眺めながら一息ついていた。あのままいたら変に追及されたりとかして非常に面倒臭い展開になっていただろう。
「はあ〜」
結構目立っちゃったなぁ~と、そんなことを考えて隣に座っているメルを見る。
抱きかかえられていた彼女は、この場に降ろされてから一言もしゃべらず、ずっと沈黙している。
その様子はいつもの明るい態度とはとは違い、どこか落ち込んでいるようだ。
まあ魔法の練習をしていたのにもかかわらず、結果的に練習を中断せざるを得なくなっちゃったのもんな。
メルが落ち込む理由にも納得だ。
「しかし、練習が途中までになっちまったな。悪い」
俺がそう謝るとメルは首を横に振る。
「うんうん、それは全然大丈夫だよ」
あれ?どうやら魔法の練習が十分にできなかったのが理由じゃないみたいだ。じゃあ、なんで落ち込んじまってるんだ?
曇った表情のメルはまるで申し訳なさそうにこちらを見ながら口を開く。
「手、大丈夫?」
「うん?ああ、ばっちり防いだから大丈夫だ」
聞いたメルは安心したような表情をしたが、再度顔を曇らせる。本当にどうしたのだろうか?
「ごめん、アレス」
「うん?」
「私のせいでアレスを怒らせちゃったから」
俺が怒る?
ああ、あのあいつの魔法を防いだ後か。
いや、というかあれは全然メルのせいじゃないだろ。
「いや、あれはお前のせいじゃないだろ?」
俺がそう否定するがメルは納得がいかないのか、暗い顔したままだ。
「うん、それはわかってる。けどね、私が勝手にアレスと戦わせることを承諾しちゃったから、あんなことになったんだよ。それでアレスを危険な目に遭わせちゃった」
ああ、なるほど。負い目を感じてしまっているのか。
確かにメルがあいつに喧嘩を売ってしまい、困ったことが起きたなと思ってしまったのは事実だし、俺がこうして巻き込まれてしまった原因を作ったのはメルかもしれない。
「迷惑だったよね?」
メルは涙を目の端に少し貯めながら、そう俺に問いかけてきた。
「いや、それは違うぞ?」
メルの瞳の涙に、俺は指をあてる。
迷惑なはずがないメルは俺を信じて、俺の為にやってくれたことだ。それを迷惑なことをやってくれた、と両断するのは絶対に違う。
「え?」
「確かに面倒だなっと思ったのは事実だ。でもそんなことは抜きにして、友達が俺のために怒ってくれたんだ。迷惑なんて思うはずがない」
「でも・・・」
「むしろ俺がバカにされたのを、友達だからって理由だけで、アイツに楯突いてくれたのがすごくうれしかった」
普通ならば実力至上主義のこの学園において、高ランクのものに対して反抗的な態度を見せるものはいない。だがメルは自分ではなく、俺がバカにされたというだけの理由であんなに怒ってくれたんだ。
そして、俺ならばあいつになんか負けないと信じてくれた。
こんなに俺のことを大切に思ってくれたんだ、めちゃくちゃ嬉しいに決まってる。
俺はニカッと笑みを浮かべる。
「アイツは俺の友達を傷つけようとしたんだぞ?お前が俺の為に怒ってくれたのにも関わらず、俺がアイツに怒れないでどうする」
「アレス・・・」
「そんなメルだから友達になったんだ。ちょっと暴力的で明るくて笑顔が一番似合う、そんなおまえといっしょにいるのが俺は楽しいんだ」
メルはぽろぽろと瞳が抑えきれなくなった涙を地面に落としながらうんうん、とうなずく。
「明るいメルが好きなんだ。だから泣くなよ」
メルはその言葉にあふれる涙を制服の袖で必死に拭って抑える。
「本当に、こんな私と友達でいいの?」
「何言ってんだ、俺とお前はこれからも友達だ」
聞いたメルはいまだに潤んだ茶色の瞳をこちらに向け、頬を桜色に染めながら花が咲いたかのように満面に笑った。
そんなメルは、背後の水平線に輝く黄金の夕日と重なってか、今まで一番明るい笑顔を浮かべているように見えた。
「ありがとう、アレス!!」
俺は、それが眩しくて一瞬目を細めるも、メル同様にいっぱいの笑みを作り、口を開いた。
「こちらこそ、ありがとな!」
「ひっぐ、なんだか、お互いお礼を言いあっているのって変な気分だね!」
「はは、だな」
それがどこかおかしくて、俺たちはしばらくくすくすと笑い合った。
今日、俺はメルとの距離が一歩近づいたような気がした。
☆☆☆
追記:初めての小説執筆なので、もし誤字脱字等がありましたらぜひぜひ指摘してください。
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