第10話 金欠シスター
その日の放課後。
俺は学園の敷地外、つまりは王都の町に来ていた。
「いやぁ、どんな料理が出てくんだろうなぁ〜」
そんなことを独り言を言いながら、俺は道を進んでいく。
本日は、懐にある先日もらったお金で久しぶりに外食でもしようかなと思い、こうして街に赴いていた。基本こうした無駄遣いは極力しないが、先日バイト先でもらった初給料もあるから今日は特別DAYというやつなのだ。それに最近頑張ってたし、疲れたし。
やっぱりこの前のあれはやばかったし。
今日ぐらいは使ってもいいだろう。うん。
そう考えながら、人通りが多い道から外れて人気のない路地裏の通路を通る。時刻は夕方を回っているため、建物の陰は普段よりも濃い色を通路に残し、不気味な薄暗さがあった。
何か不審者とかが出てきそうな雰囲気ではあるが、王都は治安維持のために騎士が見回りをしているおかげで犯罪率は少ない。
「まあ、どこにでもよこしまな考えを浮かべる輩はいるなあ」
そう言いながら、俺は急な襲撃などに少し警戒しながらも、人の気配がしない薄暗い道を歩く。
「うん?」
しばらく歩いていると、道のわきに座っている修道服を着た少女が目に映った。セミロングの銀髪にパッチリと開いた目、そしてその瞳は黒い真珠のようである。
見た目的にはかわいらしい新米シスターという印象だ。
しかし、その横の木の板には「お腹が減ってるんです、どうかお恵みを・・・金、金」とオルスト王国の文字で書かれている。その前には金を入れてもらうためのなのか、簡素な木箱が置かれていた。
いやぁ〜、キャラ強いなぁ。
シスターで、しかも乞食とかキャラ強いよ君。
俺はそんなことを思いながら彼女を観察する。すると、少女もこちらの存在に気付いたのかじっとこちらを見て睨む。その目はまるで「金」と催促しているようで、なんだか盗賊なんかよりも怖い雰囲気を出していた。
「ふっ」
だが、こちらも入れろと言われていれるほど、甘い人間ではない。懐にあるこの金貨は、俺が放課後汗水たらして稼いだお金だ。そう簡単に渡せないのだ。
だからそんな、獲物を見つけた猛虎のような瞳で俺を見つめないでくれたまえ。
「・・・」
俺はそうして内心冷や汗をかきながらも、まるで彼女など視界に入っていないとばかりに、決して目を合わせないようにして前を通り過ぎる。
しばらくすると後目にも姿が見えなくなり、俺は一安心する。
「ふぅ」
安心から息を吐き出し、前を見ると・・・。
い、いるッ・・・・。
なぜか先ほどと同じように、修道服少女が少し先の道のわきに座っており、こちらに視線を向けてくる。
その睨んだ瞳は、先ほどよりも一際力強くなっている気がした。
「あ、あれぇ〜?」
あ、あのさっきまで後ろの道にいましたよね?瞬間移動ですか?
何かの怪奇現象かと疑いを持ちながらも、再度目の前を通り過ぎる。
だがしかし。
「ひっ」
俺は恐怖から思わず声を上げてしまう。
な、なんでおるんじゃい、今通っただろが。
「くっ、しつこい奴め」
その後も3回ほど目の前を通るが、なぜか彼女は普通に道の先で座りこちらを睨んでいる。通るたびにその瞳の力を強めながら。
俺は動揺していた。コイツ・・・俺を逃がさないつもりだッ!
だったら早くこの道を抜けたらいいだけだ!そう考えて今度は歩いてではなく、走って目の前を通り過ぎる。
「待てぇぇぇえ!!」
すると今度は、鬼気迫る表情を浮かべながら木箱を手に持ちこちらを追いかけてきた。
「なぜ追うんだぁぁああ〜!?」
やばいやばい、あのシスターに捕まったら何をされるか分かったものじゃない・・・。
またしても恐怖を感じ、走る速度を上げる。
全力疾走で、にげる!
「ひでぶっ!」
だが突然、彼女が何かに引っかかったのか唐突に残念な感じで顔面から転んだ。
俺はその様子を見て走るのをやめ、しばらく観察する。
だが一向に起きる気配を見せない彼女を見て、本当にお腹が減って倒れた?と少し心配になり彼女に近づく。
そうして彼女に触れようとしたその瞬間。
「捕まえたぁぁぁあ」
「ぎゃ、ぎゃああぁぁぁあぁあ!!」
ハイエナの如き俊敏さでがっちりと腕をつかまれ、ニンマリとした顔で言われたのだった。
・・・
捕まってからしばらくして現在、俺は腕を抱きつかれている状態になっていた。完全に捕獲されてしまったのだ。
そうして捕まった場所から動けないでいる。まるで今も逃がさないとばかりに、密着している彼女を横目で見ながら、その姿にため息をつく。
「あの・・・、いつ離してくれるのでしょうか?」
俺は丁寧にそう彼女に問いかける。
がしかし、彼女はとムッとしながら口を開く。
「お金をくれるまでです」
「あ、悪徳すぎる・・・・」
ヤクザみたいな手法に唖然としながらも俺は彼女を観察する。
もちろん、彼女を無理やり振り払うこともできるが、こんな少女に対してそんなことはできない。だがこうして捕まっていると、無作為に時間を浪費することにもなる。
しばらくそんな感じ悩んでいると、突然「ごぉおおぉ」と彼女のお腹からまるで怪獣の鳴き声のような音が鳴った。
「お、お腹すいたぁぁ」
そう力なく口にして、 俺の腕の拘束を解いて膝と手を地面につける。
どうやら本当にお金がないらしい。空腹からか、先ほどまで感じた獲物を捉える力強さは感じない。
・・・うーむ、出来ればあまり無駄遣いはしたくないが、こんな様子を見て放っておけるほど、俺は鬼畜にはなれない。まあ困っているみたいだし、ちょっとぐらいいいか。
「・・・分かった、俺もこれから何か食べようと思っていたんだ。一緒に行こう」
「え?いいんですか!?」
「ああ」
「やったぁ!!」
そう言い目の前のシスターは飛び跳ねて喜ぶ。
まあ、お金が少しばかり消えるのは残念だが、体格からしてそんなに食べないだろうし、大丈夫だろう。
「すぐに行きましょう!?」
急に元気になったのか彼女はそう急かされる。
「ちょっと待てって」
急に元気になった彼女を見て、俺は苦笑を浮かべながら、少し急いだ様子で歩いて行った。
・・・
そして、数刻後。
俺は一か月分の給料のほとんど失い、呆然と店の前に立っていた。
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