第11話 爆食と占い

 数刻前・・・・。


 目的の食堂に到着し、俺たちは手ごろな席に座った。


 お店の中で行きかう料理が気になるのか、目の前の彼女は顔を忙しく動かして周りを見渡す。


 そしてテーブルの上にあったに注文票に気づき、それを眺め始めた。


「なに食べましょうか・・・」とウキウキしながら悩んでいる彼女の姿を見て、俺はふとお互いまだ自己紹介をしていないことを思い返す。


「そういえば、名前なんて言うんだ?」


「あ、ホントですね、私はクレス・ミラーフィールです。お兄さんは?」


「俺はアレス・フォールドだ」


 名前を聞き終えた後、俺はどういう事情であんなことをしていたのかを一応尋ねてみる。


「実は・・・」


 すると大体のことが分かった。


 クレスはどうやら孤児らしく、普段は教会の中にある建物で暮らしているらしい。それでいつもは教会の中で食事をとっていたらしいのだが、あることが理由でしばらく食事が提供されなくなってしまったとのこと。


 それで教会の中にいる保護者らしい人に、とりあえず一週間分の食事代をもらったのだが、どうやら一日で使い果たしてしまったそうだ。


「何で使ったんだ?」


「・・・秘密です」


 どう使い果たしたのかは渋って答えなかったが、お金が無くなってしまった彼女はこうなったら誰かにもらうしかないと考え、あんな行為をしてしまったようだ。


「でも正直に「お金使いきっちゃいました~」って言えばまたもらえるんじゃないのか?」


 そう単純な疑問を投げかける。が、その光景を想像してしまったのか、彼女がぶるぶると震えだし、おびえた表情をしながら口を開く。


「そ、そんなことをいったら八つ裂きにされて殺されてしまいます・・・」


「こ、殺される?」


 ど、どうやら相当厳しい保護者らしい。


 まあ、しかしどんな事情だろうとお腹が減っているのは本当みたいだし、一食おごるぐらいはかまわないだろう。


 それに一人で食べるより、二人で食べるほうがおいしいだろうし。


「まあ、今日はおごってやるから存分に食べなさい」


 俺がそういうとピタッ、とクレスが動きを止めてこちらの瞳をじっと見る。その目は獲物を狙う猛禽類の如く鋭い。


「・・・本当に食べていいんですか?約束できます?」


「お、おう、大丈夫だぞ」


「・・・言質、いただきましたからね」


 あれ?なんだかわからないが怖いな、と考えているとお店の人が注文を聞きにきた。俺たちはそうしてそれぞれ注文を伝えた。


「えっと、じゃあ俺は白身魚の香草焼きとゴロっとジャガイモのポタージュ、あとこの海鮮ライスっていうのを一つずつで」






「あ、私はこの人と同じのを5個ずつ。あと絶品ナポリタンとジャンボチーズピザ、それとこっちのイカの丸ごと焼きを4つずつお願いします。あとこのオーク肉を挟んだミートサンドとガーリックドリアを追加で3つずつ。あとは・・・」



「う、うん?」



 いやいやいや、何を言ってるんだこの娘は。


「ちょ、ちょいちょい、そんな頼んで食えるわけないだろうがよ。フードファイターじゃあるまいし、店員さんもびっくりして固まっちゃってるじゃん」


「・・・」


 しかし、目の前の銀髪の少女は沈黙する。


 そんな彼女の様子を見て、俺は冷や汗をかきながら悪い予感をしてしまった。


「お、おい、ちょっと待てよ。まさかもらった食事代って・・・」



「・・・お兄さん約束しましたよね?お腹いっぱい食べさせてくれるって」



 ニッコリとクレスが笑みを浮かべる。



 こ、こいつ・・・、ハメやがったなッ!!



 俺は自分の浅はかさを後悔し、そして彼女の認識を金欠シスターから爆食シスターへと評価を変えたのだった。










 結果、俺は初給料の大半を失うことになってしまった。



 手元には300ギルしか残っておらず、日本円で言うとわずか300円ほどしか価値がない。あんな暖かかった懐が、こんなにも寒くなるなんて。


 俺は呆然とした表情で店の前で立ち尽くしていた。目の端にほんの少し水が溜まってしまっている。


「お兄さん、ごちそうさまでした!!」


 少し膨れたお腹をポンと叩きながら、悪魔がそう元気よく笑いかける。


「・・・」


 一か月間厨房のバイトで汗水たらして稼いだ金だ。それがこんなことで一瞬で消えたという現実を、俺はまだ直視できていなかった。


「おーい、お兄さーん?聞いてます?」


「・・・・・ぐすん」


「や、やばい。流石に食べ過ぎっちゃったかもしれませんね」


 クレスがそんな様子の俺を見てか少しばかりばつの悪い顔をする。


 食べ過ぎたなんてもんじゃない、成人男性のおおよそ三週間分の食事量をたった一回で食べたのだ。体の中で空間魔法でも使ってるんじゃないかと疑問に持つほどの食べっぷりだ。


 流石にお店の人や他のお客さんもドン引きしていた。


「さすがに悪いことしちゃいましたかね・・・。そうだ!お兄さん、私に占われてみないですか?」


「・・・占い?」


「私、こう見えても凄腕の占い師なんですよ?」


 前世でも詐欺師気味た占いをし、お金を稼いだりするものは多くいたが、この世界で占い師と名乗るのには特別な意味を持つ。


 占い師が使う占術せんじゅつは、星の紋章を持つものにしか発動することができない特殊な術であり、普通のものでは扱うことができないものだ。


 その効果は対象の人間に対しての運命や運気を占うことができ、そしてその的中率は驚異の90%以上だ。


 そのため国でも重宝している紋章で、本当ならば結構VIP対応されているはずだ。


 本当になんであんなところで物乞いしてたのかわからないな。それにそんな奴がなぜ修道服に身を通しているのかも理解できない。


「マジかよ、シスターなのになんでそんな特技持ってるんだよ」


「ふふん、私は優秀なシスターですからね、それぐらいできて当然です」


 そう言い彼女は胸を張る。


 質問の答えになってないがしかし、通常ならば占いなんて国でも有力な貴族でしか受けけられない行為だ。もし受ける場合にはそれこそ今回の飯代の数十倍の金額を取られることになるだろう。


 占い、気になるな。


 ・・・そうだな、持ち金を全て使い果たしてやったお礼として、占われてみるのも悪くないか。


「まあ受けられるって言うなら受けてみようかな」


「よし、じゃあさっそく準備しますね!」


 

 そう言い、銀髪の少女は占いをする準備をした。





 




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