第34話 超越者②
「
そう口にし、正面の自由引力を解く。
超圧縮されているそれは、通常ならば引力を失った時点で形を保てずにその場で爆発を起こす。だがしかし、魔法を解くと同時に
そうして、魔力によりできた黒真珠の宝石に亀裂が入る。亀裂から眩い光が漏れ出た次の瞬間、夕空を黒色の極光が切り裂いた。
光の速度で直線状に伸びた魔力が、今まさに飛んで逃亡を図ろうとしているものに直撃し凄まじい爆発を起こした。
そして空気を揺らすほどの轟音を立てながら、上空に夜と見まがうほどの暗闇を作り出す。宵闇が晴れるとそこには何もなく、オレンジと青のグラデーションができた夕空が広がっているだけだった。
何もない。先ほどまで魔法で飛んでいたはずの者が、空に溶けたのかと想像できてしまうほどに何もなくなっていた。逃げていた者たちはその圧倒的な魔力放出による砲撃に、完全に足を止めてその場で立ち尽くしてしまった。
「これが同じ生物ができることなのか・・・?」
逃げていたクルースがそうつぶやいた。自身も上位者として強者の座に君臨していると自負していた。
だがこうした桁外れの所業を見ると、どれだけ自分が程度の低い位置にいたのか理解せずにはいられなかった。とっくの昔に強さの限界を迎えていた自分では、到底辿り着けない領域だと感覚で分かった。
「・・・さてと、残りを片付けるか」
全身に白雷を走らせて斥力を操作する。そして体を中心に反発力を生み出しながら、奴らにかけた魔法を発動する。すると逃げていた者たちが、木々の合間から吸い込まれるように次々にこちらの方に飛んできた。
「ぶべッ!?」
飛んできた者たちは、発生させている負の質量と引力に挟まれたことで圧死されてゆく。一人、五人、十人と次々に諜報員の者たちが死を迎える中、最後に奴が引き寄せられてきたことで俺は斥力を解いた。
そして奴の首を片手で掴み、ぐっと絞める。
「仲間は全員俺が殺ったよ。残りはお前だけだ」
「くっ・・・」
表情を歪ませているクルースに俺はそう告げる。
「ひ、人の心はないのですか・・・」
クルースがそんなことを言うが、こちらとしてはどの口が言ってるんだって感じだ。
・・・はあ、正直に話すか。
「別に俺も好き好んで殺しなんてしたくない。こちとら平和主義者なものでね」
俺は「ただ」と口を開き、本日の昼に起こった事件を思い出した。
メルと研究棟に向かっている間、爆発に巻き込まれて凄惨な死を遂げた生徒を多数目撃した。さらにこいつに氷像にされて殺された護衛たちに加え、シオンさんも捕らえられ大事な姉を人質に取られた。
全てこいつらが引き起こした最低最悪な出来事だ。感情はおさえているはずだが、本当に腑が煮えるような気持ちにさせられてしまう。だがそんな中、何よりも色濃く俺の脳裏に刻まれているのは・・・
「お前、Ⅾランクの生徒に隷属魔法で自爆を強制させたんだろ」
魔法を使い自身の体を爆発をする直前のあの生徒の様子。最初はその異常な様相に対して、なぜそうなっていたのか想像が及ばなかった。だが、よくよく考えてみれば単純な理由だと気づいた。
・・・これから自分がする事を、死ぬことを怯えていたのだ。
過呼吸を起こすほどに恐怖し、極度の緊張から高鳴る心臓を抑えていたのだ。そして残してしまう両親を思い、謝罪をしてから魔法を発動した。
これから楽しいことだっていっぱいあったはずだし、もしかしたら親孝行なんてのも考えていたのかもしれない。幸せな家庭を作る未来だってあったはずだ。
だが、こいつらの身勝手な行動で将来を奪われた挙句、テロを起こしたものとしてこれから世間に認知される。死後も恨まれながら、心が救われないまま世を去ることになってしまった。
無念にも、こいつらに殺されてしまった。
俺は怒りを滲ませながら掴んでいる首を手でぐっと強く締め、声を低めて睨みつける。
「がぁああッ!?」
「お前らが何をしたいのかとか微塵も知らねぇよ。だがな、どんな理由があろうと他人の人生を踏みにじっていいわけじゃねえんだ」
前世にも多くいた、優しい人間をまるで食い物にでもするかのようにする人畜生。
「てめぇらみてぇな、人を利用して優越を感じたり利益を得ようとする奴が、俺は一番嫌いだよ」
そう言って奴を近くにあった木の幹めがけて勢いよく投げつける。投げられた奴は背中から幹に衝突し、「ぐはッ」と声を漏らしてその場で膝を屈する。
「・・・そろそろ終わりにしてやる」
俺はそう言い、手を向け魔法を発動しようとする。
しかし、死が目前に迫っているのにも関わらず、奴は途端に笑顔になり息を切らしながら話し始めた。
「はあ、はあ・・・ふふ、あなたから長い時間をいただけたおかげで、私もこれに魔力を込めるのが終わりましたよ」
そうして奴は懐から楔を取り出した
「それは・・・」
「テレポートッ!!」
奴が楔を地面に突き刺した後、叫ぶような声でそう告げる。すると、楔から魔力が放出され白い光が奴の体を包みこんだ。光が収まると目の前から完全に姿を消し、地面に突き刺さった楔のみが残されていた。
「・・・空間魔法を使ったのか」
偶然にもこの位置は空間魔法を使える座標、区域だったのか転移されてしまった。加えて必中付与も空間魔法の影響からか消えてしまっている。
俺は逃げた奴に対して、大きめのため息を吐いた。
「・・・はあ、そう簡単に逃がすわけないだろうが」
今回は幸いにも目視で消えるところを見ることができた。だからこそ魔力の一瞬のゆらぎにより、飛んだ方向と位置はあらかた理解できる。
「ふぅ」
俺は右手を前にかざし、黒白の雷を走らせる。そうして引力と斥力、決して混ざり合わない二つを同時に使用し、ひたすら魔力を高めてゆく。
キュイーンと空気が急速に圧縮されるような音が響き、さらに電子的な音がそれに重なる。周りの空間が渦巻いたかのようにズレ始め、僅かに残る日の光を明滅させる。
二つの力を重ね合わせることで、ようやく使用できる魔法。
・・・これぞ重力魔法の極致。
「
-
そう言うと、俺の右腕が消失した。
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