第29話 追跡
「くそッ、遅かった!」
俺が吐き捨てるようにそう言うと、事情が分かっていないメルが「え?どういうこと」と質問してくる。
「シオンさんが何者かにさらわれた!」
「は?シオンさんが!?」
とりあえず俺は部屋の中に入り状況を確認する。壁に大穴が開き、そして壊された壁の残骸が散らばった床を歩いていると、何か固いようなものを踏んだ感覚がした。
「これは・・・」
俺は床に落ちていたシオンさんのフォトンを拾う。もしかしたら、俺に異常を伝えようとした矢先に攫われてしまったのかもしれない。
くそッ、護衛失格だな。
とりあえず俺は魔力探知を行い、敵が残したであろう魔力の痕跡を視る。
「襲撃したものはこの穴から外に出た、ってことか」
魔力の痕跡は大穴から外に続いている。まだ色濃く跡が残っていることから、攫ってから時間は浅いかもしれない。
「追えばまだ間に合うな」
俺は急いで爆発でぼろぼろになった制服を脱ぎ、落ちている服を適当に着る。
「俺は今から攫った奴らを追う」
「え?大丈夫なの」
「問題ない。メル、あとこれ!」
俺はそうしてメルにシオンさんのフォトンを手渡す。
「これ・・・」
「もし、なにかあったらこれで通話をかけてきてくれ!あと今から言う場所に行って、そこにいる車いすの女性に伝えてほしいことがある」
俺はそうしてシオンさん自宅の場所をメルに教え、ついでに初めて使うだろうからフォトンの使い方も説明する。
メルは困惑しながらもうんうんと頷き、理解したのか「もう大丈夫」と口を開いた。
「分かった!それで、そこの女性になんて伝えればいいの?」
そう言われ、俺は彼女に誓った約束を思い出す。
「シオンさんが攫われました。けど必ず取り戻してあなたのもとに届けます、と」
「・・・うん、わかった。アレス、気を付けてね」
俺は力強く「ああ!」と返事をし、壁に開いた穴から飛び出す。そして周囲の目を気にせずに重力魔法を使い、飛行を始め襲撃者の後を追った。
相手の魔力の痕跡をたどり、俺は学園の敷地を出て王都の町に入った。
飛行してしばらくすると、なぜかある建物を最後に痕跡が途絶えてしまう。俺はその建物の屋根に降り立ち、周りを伺う。だが、怪しい気配のあるものはいない。
「どういうことだ・・・?」
俺は頭を悩ませていると、ふと足元に妙な楔のようなものが落ちていることに気づく。
「ちょうどここから魔力の痕跡がなくなっている・・・。そうか、空間魔法か!」
恐らくこの楔を座標にし、襲撃者は空間転移を行い逃げたと考えられる。ただ込めてある魔力からしてそう遠くには飛んでないはずだが・・・、これでは攫ったものを追跡することができないな。
「こうなったらあれを使うしかないか・・・」
あまり使いたくない手札ではあるが、ここで切らねば間に合わなくなってしまうかもしれない。背に腹は変えられないか。
「よし」
俺は覚悟を決め、全身から魔力を放出しようとしたその時。
「アレスお兄さ~~~ん!!!」
少し遠くの大きな建物、いや、あれはセレス大聖堂か。そこから大声で呼びかけられていることに気がついた。
そちらの方向に目を向けると、何故かそこには窓から顔を出しているクレスがいた。
手に皿に盛り付けられた超大盛のナポリタンを持っており、口の周りはケチャップで汚れてしまっている。おおよそ彼女がシスターであるという事を忘れさせる姿だ。
「クレス!?なんでそこに・・・」
修道服にナポリタンってどんな組み合わせしてやがるんだ。
「お兄さんッ!北ですよ、北!!」
「北?」
とクレスが北の方向を指さしてそう言う。何を言ってるんだこいつは、今忙しい・・・
「そうか、北か!」
確か探し物は北にあるって占いのとき言ってたなコイツ。
「正確には王都の外、北西方向に進んでください!そこに彼女はいます!」
え?なんでコイツ、俺が探しているものを当たり前のように知ってるんだ?
そう疑問に持っていると、クレスはにやりと得意げな笑みを浮かべて話す。
「へへ、天才シスターには何もかもお見通しなのですよ!」
・・・うん、よくわからん。まあ、そんなことよりいる場所が分かったことだし、急いで彼女を追わなければ。
「クレス助かった!!」
「いえいえどういたし「クレスちゃ~ん、何してるのかしら♡」・・・へ?」
気がつけばクレスの後ろに青筋を浮かべ、満面の笑みで立っている赤髪の女性がいた。
笑顔ではあるが口角をぴくぴくさせており、その女性が相当怒っているのが側から見てもわかる。
「嫌だわ、食事中に席を立って大声を出すなんてぇ~、もう♡」
そう言いクレスの後頭部を手で鷲掴みにする。うん、アイアンクローというやつだ。
「痛いいたいぃいだぃ!死ぬ死ぬ死ぬぅ!!」
「次やったら処刑しちゃうから♡」
「すみませんすみません!!」
赤髪の女性はすさまじいほど怯えているクレスを連れて、開いていた窓を閉めようとする。だが、閉める直前にこちらの方を視線を送り、「じゃあね~♡」と手を振ってきた。俺は恐怖からか体をビクンっと跳ねさせながらも会釈を返す。
そうして完全に窓から彼女たちの姿が見えなくなった。
「あ、あれがクレスが言っていた保護者か・・・」
とんでもない迫力がある女性だ。エレガント・・・いや鬼?とにかく逆らってはいけない人物だと心のノートに書いておかねば。
「・・・いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない」
俺は頭を振りながら再度魔法を発動して、浮力を得る。そして飛び立とうとするが、突然ポケットに入れていたフォトンが揺れはじめた。
「うん?メルか?」
俺は着信のボタンを押して通話に出る。
すると、メルから衝撃の一言が告げられた。
『アレス!家に着いたんだけど、荒らされていて誰もいないよ!』
「なっ・・・!?」
ま、まさか・・・フレイさんも攫われてるのかッ!?
「それって本当か?よく確認してくれ、両足がない女性なんだが・・・」
『うん、玄関のドアが壊されてたから勝手に入らせてもらったんだけど、争ったような形跡はあるけど誰もいなくて』
「そうか・・・」
同じ逃走ルートで攫われたのか・・・?いや違ったとしたらどうする。いま追えるのは片方だけだし、しかもこちらの方をもう追い始めてしまっている。
二人一緒にいればそれで万々歳だが、違えば片方の足取りは消えてしまうかもしれない。せめて俺が二人いれば可能なんだが・・・いや待て、そうか。
一人で行動せず、仲間と行動しなさいか。
これもクレスの占いにあったものだったな。という事はここで一人で行動する、という選択肢を取るとよからぬことが起こるってことなのか。
「うーむ」
しかし仲間を頼る、か。魔力の痕跡なんてメルに追えるはずがないし、それだともうあいつしかいないよな・・・・・。
フォトンからメルの「大丈夫?」と心配そうな声が聞こえてくる。
仕方ない、頼るしかないか。
「メル、少し頼みがある」
『う、うん。どうしたの?』
「少ししたらそこに金髪の男が来るだろうから事情を説明してやってくれ」
『き、金髪の男?・・・うん、わからないけど分かった』
俺は「じゃあ頼んだ」と言い通話をきる。そして、番号を入力してアイツに通話をかける。
・・・出た。
「すまん、ユリウス。頼みがある」
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