第28話 異変②


「くっ、自由引力フリーホール!」



 俺は即時爆発の中心点に黒点を出し、発動された魔法に対して引力を発生させる。だが、規模の大きさから魔法の威力減退はできるだろうが、衝撃波や熱などは完全に防げない。


 俺はメルとセルシオと呼ばれた男をこちらに手で引き寄せ、とっさに硬気で体を覆い庇った。


「がっ!?」


 だが硬めた魔力であっても防ぎきれず、俺の背中に強い灼熱感が襲う。前にいるメルが状況を理解できず唖然としていたが、俺の様子をみて「アレスッ!?」と悲鳴のような声を上げる。


 やがて爆発が収まり、俺は荒い息遣いをしながら発生させた黒点を消した。


 爆発の威力は抑えたが、それでも衝撃波に巻き込まれた生徒が大勢いる。近くにいたものは皆一様に吹き飛ばされ、ガラスを割り建物の外に倒れていた。



「「「きゃあああああぁあ!!」」」


 

 今の様子と凄惨な現場をみて、学生たちが耳をつんざくような金切り声を上げた。


 場は騒然となり、出口は逃げ出そうと人でごった返した。皆が我先に外に出ようとして押し出し合い、醜い争いを繰り広げている。


 俺はそんな混乱状態をしり目に、背中に感じる痛みで顔をゆがめた。


「ぐッ・・・」


「アレスッ、背中の火傷が・・・」


 俺の背中は現在、肉がはがれて火傷で爛れている状態になっていた。その酷い火傷を見てメルが涙声で心配そうにこちらを見る。


「どうしようどうしようどうしよう」


 頭の中が真っ白になっているのか、メルは手を震わせながら動きを固まらせていた。



「ハイヒール」



 すると俺が庇ったセルシオという男が俺の背中に手を当て、回復魔法を発動した。回復魔法がかけられた俺は、みるみる背中の火傷が収まり,傷がふさがった。


「これで直っただろう」


 男がそう口にすると、俺の背中から手を放す。俺は自分の背中の痛みが引いたことから、完全に火傷がなくなったことが分かった。


「はあ、はあ、助かった」


 俺はそう感謝を告げると、男は首を横に振る。


「いや、こちらがお礼を言わなければならないだろう。君が庇ってくれなければ確実に僕は死んでいた。君は命の恩人だ」


 そう言い、爆発が起こった場所を見る。そこには先ほどのⅮランクの生徒はおらず、恐らく跡形もなく爆散してしまったのだろうと思われた。


「先ほどのものは火属性の自爆系魔法だ。それもとてつもない規模の」


「自爆系魔法・・・」


 自爆系魔法とはその名の通り自分の身を犠牲にし、放つことができる魔法の事である。属性それぞれにあるが、だいたいはすべての魔力を属性変化させて放つ、という荒業で行うことができる。


 しかし属性変化に時間がかかるため、逃げる暇もなく発動できるものではない。普通は自爆する前に巻き込もうとする相手が逃げてしまうため、世間でも欠陥魔法として知られている。だが、あの生徒はそれを可能にしていた。


「普通はこうはならないのだが、彼は何かしらの薬を服用していたのかもしれない。いや、それだけでは説明がつかない部分も多いか」


 この世界には一時的に魔力量を増大させる薬がある。いわゆるポーションというやつである。


「こいつはなんでこんなことをしたん・・・」


 そう口に出そうとしたとき、外から立て続けに爆発音が鳴り響いた。そして俺たちの耳に、パリンっと上空にある何かが割れたかのような音が入る。


 音を聞いたセルシオは、なぜか慌てて天井に目を向けると黒い瞳を赤く変化させた。目の色が変わった、という事はこいつは魔眼を所持しているのか?


 彼はしばらく天井を見つめたままでいると、突如驚愕したような表情で言葉を発した。



「ッ・・・学園の結界が破られた!?」



 学園の敷地には正方形型に超級の結界魔法が展開され、外敵からの攻撃や上空からの侵入などを完全に防いでいる。


 加えて外部からの空間魔法による干渉も遮断しており、まさにシルセウス学園を守る完全無欠な盾になっているはずだ。


 それが、破られた。


 「結界を管理している魔法師がやられたのかッ・・・。すまない、僕はここの者を救護してすぐさま状況確認に向かう。君たちはどうする?」


 そう問われ、俺は頭を回転させる。先ほどの奴が爆発を起こした寸前に感じた不気味な魔力、そして手首にしていた腕輪。どれも俺が見覚えのあるものばかりだ。そしてその時、襲われていたのは・・・


「俺は研究棟に戻らないとッ」


 シオンさんが・・・危ないッ!


「それじゃあ、この場でお別れだ」


「ああ!」


 俺はこの場にメルを置いておくのは危険だと判断し、何もかも急な出来事過ぎて硬直していた彼女を横に抱く。「へ?」と声を上げて赤面するが気にしない。


「待ってくれ!」


 俺は出口は混雑しているため、割れたガラスから外に出ようとしているとセルシオに呼び止められる。


「すまない、君の名前を教えてくれ」


「俺はアレス・フォールド!あんたはセルシオ・モルドリッチだろ?」


 さっき自分で自己紹介してたからな。


「ああ、そうだ。・・・今日の恩は必ず忘れない、本当に感謝する」


 「また会おう」というセルシオに軽く返事をし、俺は騒乱となっている食堂を後にした。




 メルを抱きながら、俺は出し惜しみなしに魔法を発動して高速で移動する。走りながら周りを見るとどこもかしこもひどい状況で、突然のことでパニック状態といった

感じだ。


「何が起きてるんだろう・・・」


 抱かれているメルがそう口にするが、俺も分からん。これを引き起こしている者は、一体何を考えてこんなことをしているのだろうか。


 そんなことを考えながらほどなくして研究棟に戻ってきた。俺は中に入り、素早く階段を上りシオンさんの部屋に向かう。


 だが。


「ッ」


「ひっ」


 メルがその異様な光景に短く悲鳴を上げる。


 先ほど俺を罵倒していた警備兵たちが、部屋の前で全員氷漬けになり死んでいた。


 どうやら誰かしらと戦闘していたようだが、周りの戦闘跡から見て一瞬でやられている。そしてこの氷属性魔法の練度から見るに、相当な手練れの様だ。


 俺はドアを氷漬けとなった彼らの横を通り、空いている研究部屋の中を確認する。



「くそッ」



 部屋には大穴が開いており、そしてすでに彼女の姿は見えなかった。




 




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