第2話 王立シルセウス学園

 王立シルセウス学園。


 オルスト王国の王都七分の一の面積を有するこの学園は、魔法と武術の両面を重んじる、大陸有数の教育機関である。


 そのシルセウス学園の職員の間では現在、今期入学してきた学生たちの話題で持ちきりであり、今もその生徒たちの資料の整理を行っていた講師二人が、今年の学生について話題で歓談をしていた。


「今年は豊作ですねぇ」


 この学園で講師を務める痩せ気味の男がやや興奮を含んだ声でそう口にする。


「いやぁ、本当ですな。まさかSランクの学生がこんなにいるとは。」


 そう話す太り気味の中年の男が手に持って見ている書類には、数名の生徒の情報が載っていた。


「例年では5~7人程度いれば多いほうかという言われていたが、まさか今年は13人もいるとはね。前代未聞だよ。」


 王立セルシウス学園ではランク制というものが存在しており、このランク制によって生徒たちの優劣をつけている。


 ランクは五つに分かれており、上から順にS、A、B、C、Dといった具合に生徒たちの実力順にランク分けがされている。


 ランクは襟に着けるピンにより判別が可能であり、Sランクは黒、Aランクは赤、Bランクが青、Cランクが黄色、Dランクには緑色の魔石が埋め込まれている。


 学園ではこのランクこそが生徒たちの価値であり、そこに貴族平民は関係ない。ランクが高ければ高いほど勝者なのだ。


 痩せ気味の男が手元にある書類を見ながら、今期学園に入学してくる生徒について語る。


「学園創始以来の最大魔力保有者であるモルドリッチ家侯爵のご子息であるセルシオ・モルドリッチ。武術実技試験にて元Sランク冒険者の試験官を剣技のみで圧倒したガルドニクス伯爵家令嬢のマルタ・ガルドニクス。魔法実技にて三つの属性の混合魔法を放ち、試験場を半損させたクルド家の天才、シスタ・クルド。」


 ページをめくりながら一人一人、Sランクとして入学した生徒たちについて話していく。そうしてしばらくページをめくるが、しかしやがてあるページで手を止める。


「でも、やっぱりこれが別格ですよねぇ。」


「はは、ですな。」


 中年の男が止めたページを見て、納得したように頷く。


「この国唯一である、ユリウス・アルクリッド」


 この世界の人間はごく稀に生まれたときに紋章というものが体に刻まている場合がある。


 紋章の力は神に与えられた力であり、そしてその紋章によってもたらされる力は千差万別である。この紋章というものは現在まで様々な種類が確認されてきているが、その中でも一番有名なのが聖剣の紋章だ。


 聖剣の紋章を持ったものは非常に強力な聖剣を召喚することができる。召喚できる聖剣は紋章が刻まれた者によって異なるが、それぞれが絶大な力を宿しており、加えて個々に特殊な能力も備わっている。


 この紋章が与える力は他にもあり、身体能力が超人といえる程にまで底上げされ、加えて魔力保有量が増大し、全属性の魔法が使用可能と能力等がある。


 まさに紋章は生まれながらに英雄になる資格を有しているのだ。


 実際にこの紋章を宿しているのは、ユリウス・アルクリッドを除いても大陸でも二人しかいない。であるからこそ、この紋章を宿しているものは国から重要な戦力として重宝され、特別な存在として扱われる。彼も例にたがわず、この学園で特例の扱いを受けていた。


「試験を受けずに通過。そして確定でSランクですからなぁ。まさしく規格外。」


「ええ、宮廷魔法師長とオルスト騎士団団長両名が認める実力者ですからね。学年長ももはや試験は不要と判断したんでしょう。」


「ははっ、本当に今年はシルセウス学園始まって以来の変革の年になりそうですなぁ!」


 まさに異例の年であると、年太り気味の中年男が快活に笑う。


 そんな中、痩せ気味の男が机の上に乱雑に広まった紙の中で、ふと一つの書類が目に入る。その書類を手に取り内容を確認すると、嘲笑する。


「ですが、今年はグリーンの数も例年より多いですよ。」


 そういうと、中年の男はため息をつきあきれた表情を浮かべる。


「本当に、なぜ劣っていると分かっているのに入学してくるのか皆目見当もつきませんな。」


 グリーンとはDランクの蔑称である。なぜグリーンと呼ばれているのかは彼らのピンの魔石の色が緑色であるのが理由である。


 Dランクにいる生徒は本来、合格できる実力はない。これはこの学園の一般常識であり、誰しもが理解している事実である。Dランクにいるもの者は本来であれば入学できない生徒たちが集まる、いわゆる落第生たちなのである。


 ではなぜ、Dクラスは存在するのか。


 それはDランクより上のランクにいる生徒たちに自分はこうはなりたくないという気持ちを引き立たせ、生徒たちのやる気を引き出ささせるためである。


 要するに最底辺の落ちこぼれを作ることで今いる生徒たちに、こうはならないようにと教えているのだ。


 結果、Dランクの生徒は学園中のほぼ全員から失格者であると揶揄され見下されてしまっている。


「はは、でもいいストレス発散になるんですよねぇ~、あいつら」


「私この前も奴らに特別課題として、明日までに1万文字のレポートを書いてこいって言ってやりましてね。それで「そんなの無理ですぅ!」なんて言うもんだから単位不認定にしてやりましたよ!」


「はは、傑作ですね、それ!」


そう言いながら、男は嗜虐的に笑う。


「まあ、今年入学してきたⅮランク《ゴミ》もしっかり可愛がってあげましょう!」


「そうですね!」


 そうして、話題を終わらせ資料整理の仕事に戻るのだった。





 そんな男たちをドアの隙間から見つめるものが一人。白いブレザーに身をまとい、襟に緑の魔石が埋め込まれているピンを身に着けた男は、大きなため息をつきながらその場から離れていった。


「とんでもないところに来ちまったなぁ・・・・」



 二人の話を盗み聞きしていた俺は、視線を下にして床のタイルを見つめながら歩く。


 シルセウス学園は15歳から入学し、20歳までの五年間の間に卒業単位を獲得することができれば、卒業することができる。そこらへんは前世の大学と似ているため分かりやすいが、違うのはであるという、実力至上主義的な場所であるということだろう。


 先ほどの男二人が話していたランク制についても、俺としては面倒であることこの上ない。入学してまだ数日ではあるが、他生徒のこちらを見る目があからさまに見下しているというか、とにかく冷たい視線を向けられるのだ。


 時には授業中に大声で揶揄されたり、突然後ろから蹴られたり、足を引っかけてくるような行為を行ってくる学生もいた。まあ、大して気にしていないが、しかしながらこれから五年間もこんなことが続くのかと思うと、自然とため息もつきたくなる。


「はあぁ~」


 そう重く息を吐きながら、俺は廊下を重い足取りで廊下を歩いた。




☆☆☆

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