学園入学

第1話 転生と入学

 あれから俺は神様と修行の日々を送った。


 あちらの空間では魂だけの肉体のため、睡眠欲も食欲もなく文字通り重力魔法の修行のみを行い過ごしていた。


 通常であれば発狂するような状況ではあるが、そこは神様。きちんと対策をしてくれており、魂の格というものを上げてくれたおかげで、俺は精神的な苦痛による耐性を獲得することができた。


 そんな感じで長い年月を重力魔法に修行に費やし、ついには極めることができた。


 ようやく異世界転生をする機会がやって来たのだ。


 具体的にどれぐらいの年月をこの空間で過ごしたかわからないが、途方もない時間を修行していたのは間違いない。1000年って言ってたし、それぐらいかな?


 まあ、苦節およそ1000年待った瞬間だ。


 今度はあの空間に現れたドアとは違う、両扉の門が目の前に出てくる。


「これをくぐれば君は赤ん坊に生まれ変わる、準備はいいかい?」


「はい、大丈夫です」


 そう返すと神様が「いってらっしゃい、僕の世界を楽しんできてね」と俺に手を振りながら、別れの挨拶をしてくる。


 神様とも相当長い時間を過ごしたなあ、と今までのことを振り返り懐かしさに浸る。満面の笑みを浮かべながら、いっぱい斬られて殴られて、たくさん殺された。


 よくサイコパスの神様って心の中で言ってたけ。


 俺は嫌な記憶が掘り出されて、思わず体をブルリと震わせるが、今この瞬間は送り出してくれる神様に感謝の念を送ろう。


 そう考えて「ありがとうごさいます、行ってきます」と返答し、門の向こうに足を踏み出したのだった。




 





 そんな感じでこの世界に転生して15年。


 俺はフォールド伯爵家の次男としてこの世界で生を受けることができた。   


 この世界の文明レベルはやっぱりファンタジー特有の中世ヨーロッパに似ているが、魔法によって所々独自に発達しているところが見受けられる。


 一年は360日で一月は30日で分けられていおり、一日は24時間である。まあ、そこらへんはおおむね前世の地球と変わらないみたいだ。


 そして、俺が暮らすこの国はオルスト王国と呼ばれている。ガルシア大陸というところの南端に位置しており、広大な土地と海に面している地形からか、様々な産業が盛んで大陸内でも指折りの大国となっている。


 何より食文化が発展しているため飯がうまい。異世界飯はどうなのだろうかと心配していたが、この国の食事には感動した。


 ご飯が美味しいって大事だよ。マジで。


 それから、魔物や魔王なども存在しているということが判明した。加えて耳が長く美形で有名なエルフは存在するし、頭に動物の耳を付けた獣人もいるし、それからドラゴンもいる。まさに前世のファンタジー要素てんこ盛りの世界である。


 加えて、これもわかっていた通り魔法が当たり前に存在していた。


 まず火、水、土、風、雷の基本五属性がありそこから光、闇、氷、木などの亜種属性。さらに獣人や竜族などしか使用できない種族魔法、空間魔法や時空間魔法などの特質魔法。


 そして召喚魔法や結界魔法、隷属魔法などの特殊魔法なるものなど、この世界には数えきれないほどの多種多様な魔法が存在していた。

 

 ちなみに、俺が神様に教わった重力魔法ではあるが特質魔法に該当していたりする。



 あとは今から言うことはかなり重大なことなのだが、俺はを使用がすることができない。


 これについては神様に説明されたのだが、重力魔法は本来であれば人間の身では使いこなすこと自体が困難らしく、そのため魂をいじったとのこと。つまりはせっかく異世界に来たのに、火の玉とか風の刃とかそういうありがちな魔法を、発動できない体にされてしまったのだ。


 非常に残念だ。うん、残念。



 ・・・俺のほんのちょっと抱いたドキドキわくわくを返してほしい。マジで。




 そんな重力魔法ではあるが、マイナー過ぎて書庫にあった魔法関連の本に一つも載っていない。いくら探しても一つも書かれていない。


 どうやら難しすぎて使用者がいない、というあの神様は言っていたが本当らしい。そのため、いまだに重力魔法は人前での使用を避けている。


 もしばれたら余計な注目を買ってしまうので、それだけは避けたい。


 例えば、国の国家戦力などに加えられたり、物珍しさから魔法研究の対象にされたり。そうして国から縛られたり、追われる身にされてしまった場合、非常にめんどくさいことになるのは目に見えている。まあ他にもいろいろ理由はあるけど。


 ・・・俺はいざという時に責任やら面倒ごとに巻き込まれるのは御免なのだ。


 そのため、この世界に転生してから今に至るまで、「魔法が全く使えない落ちこぼれ」を演じながら生きている。そのせいか兄弟や父親などには、冷たい目を向けられることもしばしばあるが、俺は全く気にしていない。


 むしろ、このままの流れで家から追放してくれないかな、とすら思っている。


 追放されることで貴族としての資格を失い、余計なしがらみからも解放されて晴れて自由の身になることを願っているのだ


 俺に対しての親の心証はかなり悪い。


 あと1.2年もすれば勝手にあちらから出ていけと通告されるだろう。









 そう思っていたいのもつかの間である。 






「アレス。貴様に最後のチャンスをやる」


 俺の顔をじっと睨みながら、今世の父親であるネグロス・フォールドは衝撃的な言葉を継げる。


「シルセウス学園に入学してもし好成績を残し卒業できたら、貴様の貴族としての身分を保証してやる。できなければ、貴族としての身分を剥奪して国外追放だ」


 今世の父親からそう告げられた時は俺は動転していた。


 な、なぜだ。

 なぜ今すぐにでも俺を家から出さないんだ。


 俺が驚いた表情をしていると、それを見た父親は口を開く。


「我も貴様のような魔法も使えず、何の才も持たないものなどすぐにでもこの家から出したい。しかし、妻と父に止めらたために少しだけ猶予を与えてやろうと思ったのだ」


 あの二人かぁぁー・・・。


 俺はそう心の中で納得してしまう。 


 俺が生まれたフォールド伯爵家で唯一の自分の味方でいるのが祖父と母なのだ。この二人は父親とは違い才能などは関係なく、俺にたいして愛情を注いで育ててくれた。


 そして、そんな優しい二人であるため俺が追放されるのをかばってくれたのだと思うが、そこらへんがあだとなった。


「一応、入学手続きは済ませておいた。Dランクではあるが試験の成績がどんなものであれ、合格にしてもらうように計らってもらってもいる」


 それって不正なんじゃ・・・と考えるが、まあ不正入学なんぞはよくある話なのだろう。加えて、俺の兄と姉もそこに通っていたのだ。この父親も学園と何らかの関係性を持っているのだろう。


「Dランクという底辺からではあるが、そこから成績を残せれば地方の役職をぐらいは与えてやる。それとこれは学園の書類だ。目を通しておけ」


 そういいながら、シルセウス学園関連の書類が同封されているであろう封筒を、机にポンッと置いた。


「以上で話は終わりだ。退出しろ」


 もうこちらには興味がないのか視線をはずし、今世の父親は万年筆を手に取り仕事をし始めた。


「は、はい、かしこまりました・・・・。」


 そういい、執務室から出る。


 部屋から出るとスッと二人の人影が目の前に出てくる。


「あ、あなたなら必ずできるわ!あんな父親ぎゃふんと言わせて見せなさい!」


「そうじゃそうじゃ!学費はわしのポケットマネーから出しておいた!学園で存分に学び、あんな奴のことなんて見返してやるのじゃ!」


「母さん、じいちゃん・・・・。」


 気持ちはうれしいのだが俺がやりたいことは父親を見返すことじゃないんだよ・・・。


 見事な思いのすれ違いからに途方もない悲しみを抱きつつ、俺は二人を見ながら苦笑を浮かべて「あ、ありがとう・・・」と伝えたのだった。




 ☆☆☆

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