俺は学園生活を静かに過ごしたい。~転生特典として重力魔法をもらいましたが、難しすぎて1000年も修行することになりました~
柊 北斗
序章
プロローグ【1】
出来事とは何事も唐突に起きる。
あれは帰宅している途中だった。
猛スピードで走行していた車が、曲がりきれずに歩道に歩いていた小学生に向かい突っ込んできたのだ。
それを見ていた俺は咄嗟に少年を庇い轢かれてしまった。
勢いよく跳ね飛ばされ、翼などないはずなのにも関わらず俺は宙を飛んでいた。一瞬何が起こったかを認識できず、気絶している夢の中ではまだ歩道を歩いていた。
目を覚ますと俺は仰向けに倒れ、暗くなった夜空を見上げていた。雪が降り、冷たいはずのそれが頬に当たるが何も感触がない。
口の中に鉄の味が広がり、胸部に感じたことがない激しい痛みが走る。どうなっているのかと首を動かそうにも体がピクリとも動かず、自分の身に何が起きたかを確認できない。
「はっ、はっ、はっ・・・」
「お、おじさん?」
庇った少年が声を掛けてくるが、俺はそれに反応できない。
体の感覚が徐々に抜けていく。心臓の鼓動は弱々しいはずなのに、なぜか頭の近くにあると錯覚してしまう不思議な感じがする。
俺はそれが命の足音が近いているように思えた。
時間の流れを遅く感じる感覚はあるが、走馬灯はない。自分の人生に満足がいっていないからか、それとも過去にかわした約束を守れないからか。
「こんな僕のために・・・」
そう言いながら泣く少年に、俺は辛うじて動かした腕で顔を撫でた。撫でたられた少年は俺の手をぎゅっと力強く掴み、離さない。
俺の体が急激に体が冷めていく。
「僕、おじさんみたいなカッコいい大人になるからッ!」
そんな少年を見て俺は笑顔になった。こんな人間になるなんて、物好きな子供だなぁ。
目は開いているはずなのに視界が狭まっていく。パソコンで例えるならシャットダウンではなく、電源コードをそのまま引き抜かれるような、生命活動が終了する瞬間。
・・・ああ、ここで終わりか。
そんなこと思いながら、俺は車に轢かれたことで三十五年の人生に幕を閉じた。
だが、なぜか目を覚ますと靄がかかった灰色の空間にいた。そして、突然目の前に幽霊と見まがうような全身が白い男が現れた。
「やあ、こんにちは」
男は自分を神様だと言い、俺に剣と魔法の異世界に転生する機会を与えてくれるそうだ。
何もかも唐突過ぎて頭が回らないが、とりあえず俺はこれを承諾。いや、死んでしまったのにも関わらず、第二の人生の機会を与えてくれるのならば、誰だって飛びつくだろう。
前世でやりたかったこともあるし。
それに加えて魔法がある世界だ。マンガやアニメなどでしか見たことがない、奇跡が当たり前の世界なんてわくわくするに決まってる。
そんなことを考えながら、俺は目の前の神様の話を聞く。
「僕の世界は危険がいっぱいでね。普通に生きていても死んでしまう可能性は多い。もちろん、僕もせっかく来てもらったのにいきなり君が死んでしまう、ということはできれば避けたい」
どうやらちょっと怖い世界なのかもしれない。まあ、ああいう世界は大体時代背景が中世だからな。普通に貴族社会とか戦争とか色々あるだろう。
それにファンタジー世界の定番であるモンスターのような存在もいるかもしれないしね。これまでの常識からは外れていると考えた方がいいか。
「だから君には僕から特別な力を与えようと思ってる」
「力、ですか?」
ああ、そういえば聞いたことがあるな。異世界転生をする際にはチートと呼ばれる絶大な力が与えられて、その力を使い爽快に敵を無双することができるととかなんとか。
そう考えていると、神様急に困ったような表情をする。
「だけどね、困ったことに君に与えようと思っている力は、正直まだ決まっていないんだ。ということで」
神様がどこからともなく地面に現れた上の面が丸くくりぬかれた四角い箱を持ち上げる。
「くじ引きで決めようと思う」
「えぇ・・・?」
突然の宣言から思わず困惑の声が出る。
いや、神様ならそこはバシッと、「○○を君に与えよう」とかそういわれると思って期待してたのに、ちょっとがっかりした。
「ごめんね。ちょっと選択肢が多くてさ。神剣やら魔眼とかいろいろあったけど、やっぱり本人の運で選ばせたほうがいいかなって思って。そのほうがお楽しみ要素もあるし」
そういいながら箱の穴の部分をこちらに向け、引くことを要求してくる。
「引くのは一回だけだよ。引き直しはなしだ」
どうやら、もうくじ引き方式は決まっているらしく、こちらに選択肢はないらしい。しかも一発勝負だ。
くそっ、仕方がないがここは俺の運の見せ所だろう。初詣で引いたくじ引きは大吉だったし、昼食で買ったアイスは当たり棒だった。だから、きっと大丈夫なはず。
「よし」
俺はそう口にすると勢いよく穴の中に手を突っ込む。
手に感じるのはざらざらとした紙の感触だ。折り畳んである紙が中に何十枚も入っているのが分かる。
この中から一つを選び取り出すし、そして俺の異世界での力となるんだ。
俺は極度な緊張から、大きく心臓を高鳴らせる。いや、魂だけなので心臓はないかもだけど。
やがて「これだ!!」と勢いよく一枚の紙を取り出し、折りたたんである紙を広げる。
そこに書いてあったのは、
「重力魔法?」
「おお、難しいのを引いたね」
いつの間にか横に移動した神様が難しい表情を浮かべて言う。
「重力魔法は扱いが最も難しいと言われている魔法の一つでね。君がこれから転生する世界でも過去、現在を含めて使い手が一人もいないとされるほどの、超絶高難度魔法だ」
どうやらすっごい難しい魔法らしい。
重力魔法と聞くとうまく想像ができないが、恐らく地面に押し付けたりする魔法だろうか。
あまり強い魔法の様には思えないし、もっと火とか氷とかを出すことができる、イメージがしやすい魔法が良かった。
「いや、だがしかし」
まあ、いきなり使えるようになる魔法が一つ増えるのだ。しかも、どうやらとても難しい魔法であるようだし、転生する特典としては充分だろう。
願わくば他の分かりやすい魔法や力に取り換えてほしいが。
そう考えていると突然、目の前にドアのようなものが出現した。
「な、なんだ?」
突然のことで俺は少しばかり驚き、数歩後ずさる。
いったいどうしたんだろうか?
「よし、じゃあ使えるようになる力も決まったことだし、早速行こっか!」
「あれ?もう転生しないといけない感じですか?」
おいおい、ちょっと早くないかい神様。
まだ話し始めて30分もたってないような気がするぞ。そんなに急ぐようなことなのだろうか。早速レッツ転生タイムかよ。こちらとしてはもう少し転生先の世界についての話が欲しいが。
急な展開で慌てている俺に対して神様は首を傾げて疑問符を浮かべた。
「うん?まだ大丈夫だよ?」
「えっ?じゃあ、これからどこに行こうっていうんですか?」
「どこって、決まってるじゃないか。ここじゃ味気ないからね、修行する用の空間を作ったからそっちに移動しようと思って」
「しゅ、修行?」
「ああ、なるほど!もしかしていきなり力が使えるようになると思っていた感じ?」
神様は俺の様子に納得がいったのか、手をポンと叩く。
「うん?違うんですか?」
え?そういう感じじゃないの?だってみんな力もらってすぐ無双してたじゃん。何が違うんだ?
そう思う俺の心とは裏腹に、神様は首を横に振りながら楽し気に笑う。
「ははっ、いきなり魔法が使えるようになるわけないでしょ?まず魔力を知覚しないといけないし、加えて君に与える重力魔法という力は、極めて緻密な魔力操作と類稀な才能を必要とする魔法だ」
神様は人差し指の先を光らせて、俺のおでこに当てる。すると俺の体は眩いほどの発光をし、そしてしばらくしてその光が弱まっていった。
「才能の方は今与えたけど、この重力魔法に必要な魔力操作を会得するのは、おおよそ人間の寿命では不可能だ。だいたい200年、いや300年以上はかかるかな?」
「さ、300年!?」
聞いてドン引きする。
おれが前世で過ごした年数は35年だから約9倍ということになる。俺がいた世界でも300年というと大体人生三回分の長さだ。確かに、到底人間では会得することは難しいだろう。
「さらに重力魔法を扱うための知識や、実際戦闘などで使用するレベルまでに持っていくのに、たぶんもう600年ぐらい必要かな?あと他の戦闘するための知識も出来れば与えたいから、合計してちょう1000年ぐらいはかかるかもね」
「い、1000年・・・ということは自分は今から」
目の前の扉を見つめながら、呆然とつぶやく。そんな俺を見て神様は悪魔が如き満面な笑みを浮かべる。
「はは、そういうこと。つまりはおおよそではあるけど1000年の間、重力魔法を使用するために修行をしてもらう。まあ僕もしばらく暇だしね、せっかくだからみっちり鍛えてあげようかな?」
「マジかよ・・・」
俺はひざから崩れ落ちる。1000年間とは想像もできないほどの長期間だ。考えただけでも気が狂いそうになる。
「さあ、時間はたっぷりあるけどスムーズにいきたいからもう行くよ!」
そう言われて、尋常じゃないほどの力で腕をつかまれ引っ張られる。取れる取れる、腕取れちゃう!
いやいや、さすがに待ってくれ!展開が早すぎる!
「神様もいろいろと忙しいでしょ!?そんな1000年も修行する必要もないと思いますけどぉ!」
「安心してくれたまえ!この体は本体じゃない。だからいくらでも付き合ってあげられるよ!」
反則的な力で引っ張られてズルズルと扉の方に引き寄せられていく。
ヤバイヤバイ!あの扉に入ったら1000年も閉じ込められることになるぅ~!いやだぁああ〜!!それだけは嫌だぁああ〜〜〜!
「え、え、力つよッ、ってちょっと待ってくださいぃぃ、まだ心の準備がぁぁぁぁぁああ!!!」
渾身のこもった願いもむなしく、俺はドアの向こうに投げ飛ばされ姿を消したのだった。
☆☆☆
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