第15話 夜襲③
「ば、バカな・・・、浮いてるだと?」
俺は穴に落下することはなく、体を黒い雷で纏わせながら宙に浮いていた。
「
対象物を選択し、質量をなくした状態を付与する重力魔法だ。この
「・・・はぁ」
正直わかりやすい形で使わないつもりであったが、この際仕方ない。重力魔法は使用すると黒い雷が発生してしまい、微かながらではあるが電子音のような音が出てしまう。そのため人前で行使すると結構目立ってしまうのだ。
まあ今は夜間で暗いから黒い雷も見えにくいだろうし、この程度ならただの飛行系魔法と勘違いされるとは思うが。
この状態ではその場に浮かぶだけが限界のため、気づかない程度の魔力で「
「く、くそ、なんで俺たちと同じランクの奴が飛行系の魔法を使えるんだよ!?」
「し、しかし、飛行系魔法ならばあんなに発動速度が早いわけが・・・」
魔法には系統と等級が存在する。等級はⅮからS、その上に超級と極級、最後に神級と別れている。
飛行系の魔法はすべて等級がA以上にあり、難度の高い魔法として知られている。一般的に風魔法の「フライ」というのが一番メジャーな飛行系魔法である。その他にも火で翼を形作り飛ぶ「炎の翼」、水で空を滑る「ウォータースライド」などが存在する。
しかしながらどの飛行を可能とする魔法も、その難しさから大抵発動に時間がかかってしまう。Ⅾランクなどは時間がかかることはおろか、普通ならば発動すらままならない。
だが先ほど、俺が魔法を発動した速度はコンマ数秒以内。この男たちが驚きながら疑問符を浮かべてしまったのも無理はないのだろう。
「お、おい、そんなこと今は関係ないだろ!目の前の敵に集中しろ!」
そう叱責している細ガリを尻目に、俺は先ほどの失態を猛省する。
手加減をしてしまったせいで、使うつもりのない手札を使ってしまった。油断していたと同時に、奴らを見誤っていたみたいだな。
加えて、長年まともに戦闘を行わずにいたから忘れていたようだ。1000年の間に何千、万回と繰り返したあのサイコパス神との実戦を。
「ふぅ」
少しギアを上げるか。
俺は魔法を解除し、浮いた状態から地面に降りる。そして、足で地面の感触を感じた同時に、そこから魔力を反発させるかのように放出させ、奴らに向かい急激に加速した。
また先ほどと同様に魔法で引力を自分に付与することで、俺はさらなる加速を得る。それはまさしく亜音速に近い速さだ。
「な、早ッ・・・!」
男が何かを言い終わる前に、俺は瞬間移動したと見紛う速度で相手に接近する。そして相手の胴に速度による力が加わった、神速の横蹴りを放つ。
「ゲホッ!?」
蹴られた相手は、その蹴りの威力で弾けたように吹き飛んだ。そして、後方にいた他の男も巻き込み、十数メートル先の壁に轟音を立てながから激突する。
壁に強く叩きつけられた彼らは、「かはっ」と口から血を出し倒れてそのまま沈黙してしまった。
うん、これで残り二人だ。
「ひっ、ば、バケモノッ!?」
細ガリではないもう一人の男が今の様子を見て、恐怖により体を硬直させた。
「風の守護剣!!」
細ガリがそういうと、風で作られた四つの剣が唐突に出現し、まるで守るように細ガリの周りを舞い始めた。
「ちょ、調子に乗るなぁぁ~〜〜!!」
そんなことを叫び声を上げながら自らも剣を抜き、こちらに距離を詰める。魔法の剣を含めて五つの剣が俺を襲い掛かる。
「無駄だ」
俺は魔力を全身から噴出させ、その魔力を硬く練り強化する。
硬気鎧。
硬気で全身を包むことをとそう言い、高度な魔力操作技術がなければ扱えないものだ。そんな魔力でできた鎧により奴の五つの剣を弾き返し、俺の体に到達することを阻んだ。
「な、どどどうなってる!?」
驚いた細ガリを無視し、そのまま奴が持っている細剣の剣身を手で掴み、バラバラに砕く。そして正面から奴の頭を鷲掴みにし、上に持ち上げる。
「がッ・・・」
剣も失い、頭の痛みからか魔法も中断してしまった彼は、いままさに完全に無力化されていた。残りの一人も今の様子をみて戦意を喪失したのか、尻もちをつき怯えた表情で俺を見ている。
「ま、待て、待ってくれ!こうさんす、降参する!!だ、だから、くっ、降ろしてくれ!」
細ガリは頭部にめり込む指の痛みからか、苦しそうに表情を歪ませ俺に許しを乞いてきた。
だが。
「ごめん、無理。一度全員完全に無力化させてもらうな」
なんせ俺は初歩的な属性の拘束系魔法すら使えないのだ。背後にいる女性に関してはその限りではないかもしれないが、まあしかし、どうせならみんな一緒に意識をなくした方が楽だ。
「な、なん・・・」
何か言おうとしたがスルーして、俺は鷲掴みにしたままの奴の頭を地面に勢いよく叩きつけた。
「ゲフッ!」
地面が若干陥没し、潰されたカエルのような声を出した細ガリは、そうして意識を喪失させた。
死んではいないか?と疑問を持つかもしれないが、この世界の人間は多少頑丈だし、まあこの程度なら大丈夫・・・だと思う。さっき蹴った奴らはわからないが。
まあ、一応誤って殺さないように手加減したし、間違って殺してしまっても奴らも多勢で襲ってきたのだ。ゆえに正当防衛見たいなものだから、うん。
し、仕方ないよね!
「よし、あと一人」
一連の行動の正当性について一人で勝手に納得した後、俺が残った一人に鋭い視線を向けると、「あばばばば」と泡を吹きながら残りの一人が倒れた。
「うん?」
どうしたんだろうと思いながら、倒れた者に近づき様子を確認すると、ズボンの股を濡らしながら気絶していた。
「あらら、気絶しちゃったか」
大方、恐怖から気を失ったんだろうな。この様子なら当分は起きてこないだろう。
俺はそう片付けて、二度目の襲撃の可能性を視野に入れて、辺りに誰かの気配がないか慎重に探る。
「・・・ふむ、背後から急な襲撃という可能性もなさそうだな」
そうして肩の力を抜き現在の状況を確認するため、あたりを見渡す。
しかしながら、我ながら派手にやちまったなー。
周りは先ほどの戦闘跡によってぼこぼこと荒れ果て、整地されていたであろう地面は見るはてもない。魔法で穴空いてるしね。加えて、先ほどの蹴り飛ばした男たちによって、建物の壁には大きくひびが入ってしまい、あわや穴が開くところであった。
これって後々請求されたりされちゃったりするのかしら?
心配事はそれだけではない。
現在倒れている8人の男たちについても、今後どうするべきかを考えなければならない。
えっと、まずは近くの警備兵の方に身柄を渡して~それから・・・、ってそれよりかもこっちか。
そうして俺は、今しがた襲われていたであろう白衣の女性に視線を送った。
☆☆☆
もし「面白い!」「続きが気になる!」と思った方はいいねやフォロー、星を頂けると幸いです!大変励みになります!
・魔法名を一部変更しました「自由な引力」→「自由引力」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます