第16話 事後処理
俺は襲われていたモノクルをした白衣の女性に近づいていく。
「おっ・・・」
そしてその美貌に驚いた。
夜間のため暗くて姿がよく見えなかったが、顔立ちの整った顔に透き通るような白い肌。ミディアムの艶のある黒髪とすらりと長いまつ毛、そして碧眼の瞳が月に照らされ魅惑の光を放っている。加えて、細い腰に胸には二つの巨山が装備されていた。
俺は彼女の姿を間近で確認し、先ほどの男たちが気持ちの悪い視線を送った理由にも多少ではあるが納得がいった。
座り込んでいる彼女は今の戦いを見ていたからか、呆然と奴らが倒れているのを見ている。俺はそんな彼女に対して、手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?」
そう俺が声をかけると現実に戻ってきたのか、こちらにハッしながら視線をこちらに向けてくる。それからこちらが差し出してきた手に気が付いたのか、その手を借りて立ち上がった。
「あ、ありがとう。助かったよ、君」
「自分もたまたま気が付いただけですから。それよりも彼らの事、どうしましょうか?」
倒れている男たちに俺は視線を送る。彼女もそんな彼らを見て腕を組みながら悩む。
「そうだな、なぜだか知らないが徘徊しているはずの警備兵も、この異常に気づいていない様子だ。とりあえずこいつらがいつ起き上がるかわからないから、拘束系の魔法をかけておく。君も手伝ってくれるか?」
「いえ、無理です。俺、拘束系の魔法使えないので」
「は?飛行系魔法は使えるのにか?」
「ええ、逆に自分は飛行系魔法しか使えないんですよね~」
俺はそう言って先ほどの重力魔法に関して誤魔化す。
「・・・にわかに信じがたいな。君は奴らと同じⅮランクだが、本当は仲間だったりしないだろうな」
彼女が警戒したような態度を出し、疑いの目を俺に向けてくる。俺はその疑惑の目を見て、慌てて否定の意思を示した。
「いやいやいや、自分は違いますよ!それにあんなにあいつらをぶっ飛ばしたのに、信じてもらえないんですか?」
俺の言葉と慌てた様子をみてか、彼女は「・・・そうだな、警戒し過ぎていたみたいだ。疑ってすまない」と頭を下げて謝罪してくる。
「じゃあ、私は彼らに拘束系魔法をかけるからその間に警備兵を探してきてくれないか?」
「いいですけど、一人で大丈夫ですか?」
しばらく意識を取り戻さないとは思うが、万が一ということも一応あるからな。
「問題ない。人数差と油断で遅れを取ったが、弱った奴らなら私の実力でも十分制圧可能だ」
「・・・わかりました。それじゃあ、俺はいったん離れますね。何かあったら大声で呼んでください、急いで駆けつけるので」
「了解した」
彼女の返事を聞くと急いでその場を離れる。
そして意識を魔力探知に向ける。
この世界にあるすべての物質は等しく魔力を宿している。魔力探知では、魔力が空気に露散して消えないように強めに練って、粒子にして飛ばす魔力操作の技術の一つだ。
これもどれだけ長時間魔力を空間にとどめておけるかなどの練度の違い、そして魔力量などでかなり違いが出てくる。その範囲と正確さは魔力量と魔力操作などで比例していくというわけだ。
また、この魔力探知を使うことで周辺の景色や生物などを、脳内で疑似的に確認でき目的のものを探しやすくなる。なかなか便利な力で、俺も人の気配などを探るときによく使っている。
「うん?」
俺は円状に展開して魔力探知をしていると、警備兵と思える者たちが三人とも倒れている姿が視える。
すぐに視えた場所まで行くと、うつぶせで倒れている三人がいた。近づいて様子を確認してみると、どうやら仲良く眠らされているようだ。
「うん、特に外傷はなさそうだな。さっきの奴らに幻覚魔法、もしくは魔道具かなにかで眠らされたのか」
そんなことを考えながら、俺は倒れている三人を起こそうと声をかけて体を揺する。そうして彼らを起こして状況を説明すると、驚愕しながらすぐに現場に急行しようと俺の後をついてくる。
現場に向かう間に、彼らがあの場でなぜ眠っていたのかについて理由を尋ねてみるが、「自分でもわからない」と三人から返答された。
最後に見た記憶もあやふやで、気づいたときにはあの場にいたらしい。うーむ、犯人はやはりあいつらってことでいいのか?
そんなことを考えながら現場に戻ると、もうすでに魔法をかけ終わっており、8人全員に土で作られた枷がはめられていた。
「早かったな、もう終わったよ」
彼女はそう言い、俺が連れてきた現在慌てて動いている警備兵を見る。
「彼らはどこにいたんだ?」
「道端で眠らされてました。記憶はあやふやみたいで犯人はわかりません。しかし状況から考えてこいつらにやられたんでしょう」
「なるほどな・・・」
二人のの警備兵が拘束された学生たちの持ち物を検査し、さらに拘束されている人数が多いからか、他の兵に助力を乞うために一人がその場を後にした。
俺はそんな様子を眺めていると、横にいる彼女からじっと観察するかのように見られていることに気が付く。どうしたのだろうか、と俺は見返すと彼女はおもむろに口を開いた。
「しかし、すごいな君は。あれだけレベルの高い魔力操作にその体術、そして戦闘時の落ち着きようと的確な立ち回り。おおよそ君が付けているピンとは見合わない実力だ」
彼女は俺の襟についている緑色のピンを見てそう話す。言われたくないことを言われ、俺は少し困ったかの様に苦笑する。
「・・・いや、えっと、まあ火事場の場力というやつですよ」
「はは、面白い冗談だな。それで誤魔化せると思っているのなら頭の方は弱いらしい」
「・・・」
・・・うん、少々、いや結構失礼なことを言われるがそんなことは置いておいて、俺は彼女にある提案をする。
「すみません。俺がこいつらを倒したってことって、内緒にしてもらえませんか?具体的にはあなた一人で倒したということにしてほしいんです」
俺は先ほどの戦闘で倒した奴らを見ながら言う。だが彼女は提案の意図が理解できないのか怪訝そうな表情を浮かべた。
「・・・なぜだ?」
「あんまりこういうので目立ちたくないんですよ。俺は学園生活を静かに過ごしたいので」
この件で注目を集めることは避けたい。そのため、後々警備兵たちに事情を聴かれた場合に、彼女一人で奴らを倒したということにしてほしいのだ。
彼女は俺の話を聞いて、ある程度納得がいったのか了承してくれた。
「うむ、いやそうだな。救ってくれた恩人の頼みだ、受けざる負えないな。恐らくではあるが、実力について詮索して欲しくないということだろう?」
「ええ、そうです。お願いします」
そう話していると、やがて警備兵たちがぞろぞろとやってきた。皆一様に現場を見て、驚きながらも気を失っている男たちをを手際よく連行していく。
その様子を見ていると、責任者らしき者が近づいてきて話をされる。聞くと、どうやら俺たちのどちらかに事情を説明してもらうために残って欲しいらしい。
「私が残ろう。彼はただ巻き込まれただけだからな、説明をするのなら私が適してるだろう」
先ほどの約束を守ってくれたのか、白衣の女性がその場に残るということが決まり、俺は今すぐ帰宅していいということになった。一応、俺もけがをしていたためか、治療を受けるように言われたが断った。
これぐらいのかすり傷ならすぐ直る、ピチピチの15歳、男の子だからね!
そうして俺は疲れた足取りで、「それじゃあ帰りますね」とその場にいる者たちに声をかける。
「待て、モサモサ頭の君。まだ名前を聞いてなかった」
モサモサ頭って俺?結構コンプレックスなんだけどその呼び名はやめてほしいなぁ。そんなことを考えて、足を止めて彼女の方に振り向いて自分の名前は言う。
「俺はアレス・フォールドです。一年でランクはご存じの通りⅮランク」
「私の名前はシオン・ストゥース。この学園で研究員をやっているものだ」
俺はそれを聞き、今回の事情に関して何となくだが得心を得た。
セルシウス学園は学術機関としても魔法などの研究機関としても機能している。もしかしたら、奴らは何かしらの研究の情報が欲しくて彼女の身柄を狙っていたのか。
「今日のお礼はまた後日させてもらおう。それじゃあ気を付けて帰りたまえ」
「分かりました、それじゃあまた」
そんな感じで別れを告げる。
そしてようやく自宅である学園寮に帰還することができた。俺はは制服を着たまま真っ先にベットに向かいダイブして、疲れからか大きなため息を吐き出す。
「はあ、今日は色々あったな~」
変なシスターに追いかけられたり、そのシスターに初給料をほぼ使い果たされたり、お礼に占星術受けたり。それから夜襲をされているシオンという女性を助けてたり。
うん、色々あったなあ。本当にこの世界に転生して、一番イベントが多い日だったんじゃないかと疑うほどに濃い一日だった。
そんな大変な一日を振り返り、久しぶりに疲れてしまった俺はすぐさま目を瞑り、そのまま意識を暗転させたのだった。
☆☆☆
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