第17話 上位者と超越者

 あの事件の三日後。


 学園では先日を起きた事件が大きく話題になっていた。その内容は【Ⅾランクの生徒たちが夜間、研究員である女性を集団で襲った】という話。


 しかもシオンと名乗った女性は、その容姿から学園内でもかなり人気があるらしく、そのことがⅮランクへのヘイトをさらに高めてしまった。


 先ほども学園を向かう途中、周りの生徒たちから「クズ」「犯罪者」などと陰口をたたかれてしまい、冷たい視線を向けられてしまった。中には「被害者に謝罪しろ!」「中退しろ!」と言ってくるものまでおり、俺を強く困惑させた。


 いやいや、俺がやったわけじゃないんだけど、まるで加害者になっちゃてる・・・。


 まあ、これについては払拭するようなアイデアも浮かばないため、放置するしかない。いつも通りといえばいつも通りともいえるからいいかという感じだ。


 しかし、俺が倒した男たちの処遇やら顛末とか、そこら辺の話題が一切入ってこないのは些か疑問が残る。え、ワンチャンマジで殺しちゃったかな?


 そう考えながらも手に持っている羽根ペンを手でぐるぐる回転させる。


「なんか考え事?」


「いや別に」


 隣に座るメルに声をかけられ、意識を現実に戻す。今は授業中だし、あんまり考え事は止しておくか。




「よし、今日は結構本筋から外れるが、歴史に名を残すであろう強者たち、『上位者』と『超越者』について学んでいくぞー」



 前の教卓でそう言いながら、授業を教える講師が黒板に「上位者」「超越者」と書き記す。


 この授業は人物史という授業で、歴史上にいた人物たちを解説する授業だが、今日はどうやらいつもとは違う話で授業を展開していくようだ。


「この世界には多くの強者たちが存在してる。この国では『双蒼の閃美』とうたわれるオルスト騎士団団長や、『無心の闇宴』の異名を持つ宮廷魔法師長。そしてみんなも知っている通り、今期入学してきた生徒『金咲の聖騎士』ユリウス・アルクリッドなども強者として挙げられるだろう」


 話しながら先生は黒板の上位者という単語に下線を引く。


「今紹介した彼らのような一定の強さを持つ強者たちを、我々は一括りにと呼んでいる」


 上位者。

 それはこの世界におけるごく一部の強者たちの総称である。単独で非常に強力な魔物を討伐したり、戦場て多大な活躍を見せたものがそう呼ばれるようになるらしい。


 上位者は皆、単体で戦況をひっくり返すほどの戦闘能力を保有しており、一人で万の兵に匹敵する実力があるらしい。かくいうこの国にも確か8人ほどいた気がする。



「この上位者をどれだけ保有しているか、それが国の軍事力がどれだけあるかの指標になるほどだ。それだけ、大きな存在であり各国の切り札的な役割を担っている」



 しかし、と彼は続ける。



「だがそんな強者たちを超える人知を超えたバケモノたちがいる。生物としての限界を超越した最強の存在、それがこのだ」



 超越者という文字にチョークで二重丸をつける。


「超越者たちは基本的に一つの国に属しているというわけではない。また、積極的に戦争に介入するというわけでもない。しかし、単体でを有している」


 授業を受けている生徒たちがそんなバケモノたちを想像してか、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「現在超越者とされている者は世界でも9人とされている」


 彼はそうして、超越者たちを黒板に書き始めた。


『壊滅の龍神・マルス』

『調魔の精霊王・セタータ』

『天上の剣聖・ジドル』

『白絶の騎士・バゼット』

『古の魔女・マルエラ」

『禁域の冥王・アルテール』

『死灰の聖女・メラ』

『千統の冒険者・ガーゼル』

『創造の幻魔人・ヌアザ』


「以上だな」


 黒板を書く手を止めて話始める。


「恐らく、人生の中でこの中のものと会うことはないと思うが・・・いや、一人だけ活発に動いているのがいるな」


 講師の男は黒板に書かれている中の一人、天上の剣聖・ジドルにチョークを当てる。


「この天上の剣聖と呼ばれている男は結構な戦闘狂みたいでな。天空にある城に浮島に住みながら、その島で常に各国を周り強者を探しているらしい。だから、もしかしたらオルスト王国に来た時にお前らも会えるかもな」


 そんなことを言って、ジドルという男について語る。


 剣を持つ者たちのあこがれであり、有数の実力を持つ剣士たちが集つまる天空の浮島にある剣総会。 


 その当代のトップであるジドルは、歴代と比べてもその実力は極めて突出している。そして、わずか20代という若さで剣の理にたどり着いたとされ、現代最強の剣士と最も呼び声が高い。


 曰く、はるか上空にある浮島から斬撃を飛ばし、ある王国の城を一撃で両断したとか何とか。



 ・・・うん、ちょっと現実の話とは思えないぐらいだ。どうやって斬るんだよ、そんなの。隣にいるメルも理解できないのか固まってしまっている。



「まあそれぐらいのバケモノクラスが、その他8人いると覚えてもらえれば大丈夫だ」


 授業を受けているものは冗談としか思えない話に、笑みを浮かべるしかなかった。そして、彼らは絶対に喧嘩を売ってはいけない者たちだと記憶した。


 そのあとも講師の男が他の超越者たちの逸話について語っていると、授業の終了を知らせる鐘が鳴った。


「お、もうこんな時間か。よし、じゃあ本日は上位者と超越者、この二つの存在について話した。何か質問のあるものはこの後来てくれ。以上で授業は終了する」


 授業が終わり生徒たちは立ち上がり教室を出ていき、そして何人かの生徒は講師の男に近づいていった。





「と、とんでもない人たちがいるんだね・・・」


 と隣にいるメルがそう声をかけてくる。


「そうだな・・・、まあ滅多に会う機会はないって言ってたし、俺たち下々の者たちには関係のない話だろう」


「そっか、そうだね」


 うんうんと頷いているメルを見ていると、突然、教室の出口の方向から凛としたような声がした。



「すまない、ここにアレス・フォールドという者はいるか、モサモサ頭の男だ」


 そう言い、教室を見渡しているものは先日助けたシオン・ストゥースという女性だった。やがて、姿を見つけたのかこちらにゆったり歩いて近づき、俺が座っている机の目の前に立った。


 周りは急に入ってきた、明らかに学生ではない美しい女性に目を奪われていた。


「見つけたぞ、君はモサモサした頭だからわかりやすいな」


「いや、モサモサモサモサ言わないでくださいよ・・・ってどうしたんですか、急に」


 若干、注目されているこの状況に居心地の悪さを感じながら、なぜ彼女がこの場に現れたのか要件を聞こうとする。


「ふむ、君には少し要件があって話に来たんだ」


「要件?」


「ああ、詳しいことはこの場では話せないので場を変えたい。だから今から私に付いてきてくれないか?」


「えっと、俺もついていきたいのはやまやまなんですけど、この後も授業があるので・・・」


 何か面倒ごとのにおいがした俺は常套句を使い、断ろうとする。がしかし


「はは、君の次の授業を担当している講師のものに事前に事情を話しているので問題ない。ほら、これで十分時間ができたぞ。よかったな」


 シオンという女性が意地の悪い笑みを浮かべる。くっ、はめられたか?先に逃げ道を奪われてしまった。


「・・・くっ、わかりました」


 俺はそう了承し、荷物を持って立ち上がる。


「さあ、行こうか」


「はあ、じゃあメル。行ってきます」


「えっとアレス、いってらっしゃい?」


 メルはまだ状況が理解できていないのか、疑問符を浮かべながら俺を送り出してくれる。


 そうして、俺たちは教室を後にしたのだった。




☆☆☆

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