第21話 起床と準備

 護衛生活2日目の早朝。


 昨日は急な襲撃など何事もなかった。まあ、警備兵4人ぐらいが外でスタンバってるからね。流石に狙いずらいよね。


 そう考えながら、もはや修行が癖になっている日課の魔力操作を行いそれから軽く筋トレをする。



「起きてるか、アレス」 



 ドアがトントンと叩かれ、シオンさんが声をかけてくる。俺はトレーニングをやめ、「ええ、起きてますよ」と返事をすると扉が開いた。そして中に艶のある黒髪の靡かせた彼女が入ってくる。


「朝早くにすまん、今日の予定を・・・っ」


 彼女は手のひらで目を隠す。うん?どうしたんだろうか?


「・・・ア、アレス、すまないが上の服を着てくれないか」


「あっ」


 やべ、服脱いだままだった。俺は急いで上の服を着ると、「すんません」と彼女に謝罪する。


「い、いや別に大丈夫だ。ただ、その、随分鍛えているんだな、身体」


「ああ、そうですね。昔からの日課なので」


 1000年前からのだけどね。


 俺が魂の体で修行した経験や、その肉体の情報はすべて魂に記憶されている。遺伝子などの情報により容姿は前世とは少し異なるが、修行によって得た魔力量などは完璧に赤ん坊の時からそのままだ。


 加えて肉体に培われた筋肉などは成長するにつれ、徐々にあの空間にいたころに戻ってきている。


 筋トレは毎日するようにしているが、それでも年々異様に引き締まっていく体を見て、俺は度肝を抜いたものだ。軽い筋トレでも筋肉量は全く落ちないので、魂の情報とはそれほどまでに大きいものだと分かる。


 そんなことを考えながら彼女を見ると、なぜか恥ずかしそうに赤面していた。「こ、これが男性の体か・・・」と口にしているが、どうしたのだろうか?


「で?予定って何ですか?」


「あ、ああ、そうだったな。本日は王都の外に出て魔物をすこし狩りたいんだ」


「魔物を?素材か何かが欲しいのなら、冒険者ギルドや商業ギルドに行けばあると思いますけど」


 この世界には異世界定番の冒険者ギルドや商業ギルドなどの組織が存在している。


 冒険者のランクなんかも定番通りにあってⅮランクからSランク、それ以降は一つ星から五つ星に分かれている。


 余談ではあるが五つ星の冒険者となると一人しかおらず、それが先日話に出てきた「千統の冒険者・ガーゼル」という者らしい。


「いや、新鮮な状態で欲しんだ。魔石や爪が欲しくてな、前々から行きたいと思っていたが一人では危ない。だが、今は君がいるしこの機会に取っておきたいんだ」


「そうですか・・・、でも狙われているのに外出とかして大丈夫なんですか?警備兵もいますし、あまり勝手な行動は怒られちゃうんじゃ・・・」


「それに関しては君がいるから大丈夫だろう。外出することに関しては外の者に昨日許可を取った」


 えぇ?昨日のいつそんなこと話してたんだ?


「外まで同行しようとする警備兵の申し出も、君がいるからという理由で断っておいた。だから君には十二分に実力を発揮して魔物を狩ってほしい」


 「まあ、Ⅾランクを護衛に!?と驚かれたが」と彼女は話すが、まあ当然だろう。だってそのランクの者を護衛に選ぶとか普通ないもん。逆に許可が通ったのがすごいよ、うん。


 いや、とりあえずそんなことは置いておいてまず、大事なことを聞かなくては。



「分かりました。あ、それと朝食ってまだ作ってないですよね?」



 大事なことなので聞く。めっちゃ大事。


「うん?まだ作ってないが、今日も腕によりをかけるつもりだ」


 俺は安堵からばれない程度に息をついた。た、助かったぁ。


「・・・二週間の間、俺が作りますよ。護衛としては報酬額が多すぎるので、これぐらいの手伝いはさせてください」


 そう言って俺は嘘つく。あの料理を食べ続けたら、恐らく二週間後には天に帰ることになりそうだ。それはまずい、非常にまずいよ。


 彼女は俺の申し出に「そうか?私も楽ができるからその方がいいが」と納得してくれた。よし、これで命がつながったぞ。






 俺はキッチンに行き朝食を作る。そして出来上がった料理を卓に並べていると、木製の車いすに乗ったフレイさんの方もリビングルームに来たので、三人で早速朝食をとる。


 「ようこそ、我が家へ♪」と隣に座るお姉さんに、満面の笑みでガシッと肩をつかまれそう言われる。な、なんだろう、すごい怖いんだが。


 そして、シオンさんの方は「・・・うっまい」と口を動かしながら、舌鼓をうっていた。


 その後、三人で会話をして昼過ぎまで王都の外で魔物を狩るという事を伝える。お姉さんには、少し心配したような表情で「妹をお願いね」と言われたので、俺は安心させるように大きく縦に頷いておいた。



 そうして二人で外出の準備をし始める。


「そう言えば、君は武器などは使わないのか?」


 隣で杖を持ちながら準備をしている彼女にそう訊かれる。



「いや、俺はそういうの全く才能がないんですよね」



 そう返し、あの空間で言われたことを思い出す。


 神様は俺に剣や槍、弓など多種多様な武器を持たせて戦わせた。だが、「うん、全部才能ないね」とにっこり言われてしまったのだ。あの時はすっごいえぐられたなぁ~。


 そして唯一認められたのが徒手空拳による格闘術だった。


 なので基本的に俺は武器を持たない。武器や魔法で襲われても、先日の戦闘の様に硬気や流魔などの魔力操作があれば十分だし、ぶっちゃけ持たない方がやりやすい。


「そうなのか。あそこまでの立ち回りを見せたのに才能がないとは思えないが・・・」


「本当にないですよ、これはマジで間違いないです」


 だって神様に言われちゃったんだもの。


「なので魔物と戦闘するときは素手で戦います」


「魔物相手に武器を持たず素手でか・・・、それが一番戦いやすいというわけだな。わかったよ」


 そして「よし、準備も整ったし行くか」と彼女が言い、俺たちは家を後にして学園の敷地から王都の外に出たのだった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る