第22話 外出

 シオンさんと俺は学園の敷地から、王都の外に繋がる門まで来ていた。


「外出をするから門を通してくれ」と言い、彼女が円の形をしたネックレスを出す。どうやらこれが研究員としての証らしい。


 それと同時に俺も自分のピンを出し、二人で魔力照合を完了させ無事王都の外に出ることができた。


 どうやら街道の近くにある魔物の森が目的地らしく、ここから歩いてだいたい2時間ほどの時間を有するらしい。


「そう言えば、なんの魔物を狩りたいんですか?」


「ああ、それだがサイクロプスとワインバーン、あとクロスウルフの三体を狩りたい」


「全部Aランクの魔物・・・、大丈夫なんですか?」


 俺は伯爵家の書斎でみた魔物たちの姿を頭に浮かべる。


「まあ、君の実力なら決して引けを取らないだろう。加えて、私も元シルセウス学園でAランクだったから実力は問題ないッ」


 えっへんといった感じで大きな胸をボンっと前に張り、自慢げな態度をとる。背中に杖を背負っているという事は恐らく魔法を使って戦うのだろう。


「なるほど・・・、でも自分、魔物との戦闘経験は浅いので弱点とかだけ教えてくださいね」


「了解した。よし、じゃあ二時間も歩いていけないし、魔法で飛ぶか」


「え?」


「うん?もう十分歩いたし周りに人もいない。私は君が飛行系魔法を使えるのを知っているし、別に構わないだろう?」


 確かに、そちらの方が効率的だしな・・・。ただ夜間ならまだしも、明るいこの時間だとあれは結構目立ってしまう。


「ちょ、ちょっと自分の飛行系魔法は特殊でしたね。夜間にしか使えないんですよ〜」


「・・・アレス、そんな限定的に使えなくなる魔法はない。闇属性の飛行魔法ならば効力は弱まるかもしれないが、君のあの発動速度と練度なら全く問題ないはずだ」


 そう呆れた顔で指摘されてしまい俺は「ぐっ」と声を上げる。まったくもってその通りにございます。はい。


 俺は渋りながらも「分かりました、けど驚かないでくださいね」と先に忠告して、『質量喪失エンド・アトラクション』を発動する。そして質量を失くした俺は黒雷を体に纏わせながら、宙に浮き始める。



「・・・」



 彼女は言葉を失い硬直する。


「まあ、ええと。こういう感じなので結構目立ちます」


「・・・なんだ、それは。属性魔法とは違った異質な魔力だ・・・、もしかして特質魔法かッ?」


「そんな感じですね、はい」


 俺がそう言うと彼女は驚愕した表情を浮かべた。


 特質魔法は魔法の中でも違う枠組みで見られており、いわば異能という形に近い扱いをされている。また才能とその魔法に関しての理解、魔力操作の練度が必要になるため使い手は非常に少ないのだ。


 恐らく彼女もそうした意味合いも含め驚いているのだろう。


「・・・詳しい詮索は無粋だな、やめておこう」


 俺はそれを聞き「ありがとうございます」と苦笑を浮かべた。


「まあ、上空まで上がってしまえば目立たないだろう」


「そうですね・・・よし、じゃあさっそく飛びましょうか」


 魔法を発動して上空に対して引力を付与する。俺の体は瞬く間にみるみる空に上がっていった。彼女はその姿を見て「フライ」と口を開き、風の力でフワッと浮かび上がりながらついてきた。


 






 俺はシオンさんの後をついていっていると、やがて目的の場所に到着したのか彼女が下降を始めた。どうやら下にあるこの森が本日の魔物を狩る場らしい。


「到着だ」


 そう言って彼女は地面に降りたつ。俺もそれに続き地面に引力を働かせて、ゆっくりと降りた。


 周りには様々な気配を感じる。小動物や虫などの小さな生き物たち、そして少し先の距離には大型の動く物体を感知した。


「前方150メートルほどに大型の魔物がいますね。どうやら人型の魔物のようだ」


「お、運がいいな。多分そいつがターゲットのサイクロプスだ・・・。っていうかよく感知できたな」


「魔力探知には自信があります」


 重力魔法を使う際は正確に魔力を感知し、その魔力を変化させなければならない。そのため修行をしている間にいつの間にか得意になっていた。 



「よし、早速接近して狩るか」



 俺は「はい」と返事をして感知した相手に接近していく。今回の狩りでは俺は前衛を担当し、シオンさんには魔法による援護を任せている。


 そのため、俺が先に奴との距離を詰める。気配を隠しながら近づくと棍棒を持った、全長五メートルほどの一つ目巨人が見えてきた。


「あれか」


 はじめて見る魔物というわけではないが、久しぶりに見る魔物にどこか俺は心が躍る。


 しばらく観察していると、俺の背後に来たシオンさんが「目が弱点だ」と話す。なるほど、あの目を狙えばいいのか。


「奴は魔力抵抗が強く、加えてあの体格から分かる通り並みの物理攻撃はものともしない。だがまあ君の一撃ならば倒せるだろう」


「はい」


「まずは私が魔法で注意を引くから、そのあとに君が接近して倒してくれ」


 俺が「了解」と返事をすると、彼女は杖を背中から取り出して力強く握りしめ奴に対して先端を向ける。

 

 そして「フロストバレット」と口開き、氷属性の魔法を発動する。


 奴は魔力に反応し、こちらに驚いた様子で振り向く。だが気づいたときにはもう遅く、躱す暇もなく肩口に氷でできた弾丸が当たって砕けた。


「ガァッ!?」


 魔法によりひるんだ奴に、俺は魔力で身体強化をして一息で接近する。そして地面を強く蹴って飛び上がり、魔物の顔を硬気で固めた拳で強く殴った。


 殴られた衝撃で奴は口から紫色の血を拭きだし、背中から地面に倒れる。そして、痛みからか手で顔を抑えて咆哮を上げながら暴れる。


 目を狙ったつもりが外したか・・・。


 


「ギャガガガァアガ!!」


 足をジタバタさせ、地面の砂埃が宙を舞う。


 くそ、近づきづらいな。


 そう感じていると地面から土の枷が出現し、暴れている奴を拘束し始める。どうやらシオンさんが魔法を発動してくれたようだ。


 動きが止まり、俺は倒れた奴の身体に乗り走ってもう一度顔に近づく。そして今度は弱点である目を狙って、俺は手から魔力を放出し硬く鋭くするように形作った。





 そう言うと俺の手から白い魔力の刃が形成された。


 そして俺はその刃で目を一瞬で三度斬りつけると、弱点である部位をやられた魔物は力なく声を出し、倒れたまま沈黙した。


「ふぅ、拘束ありがとうございます」


「ああ、しかし先ほどの刃は魔力で形成したものか?すごいな」


 通常、魔力は空気に触れると露散してしまうほど薄いが、強く練ることで硬気の様に硬く漏れないようにすることができる。


 先ほどの形成した魔力の刃は硬気の応用で鋭く刃の様に魔力をかたどったものだ。


「まあ、修行すればだれでもできるようになりますよ。そんなことは置いておいて、早速解体して必要な部分だけもらっていきましょう」


「そうだな、今日中に残りの二体の魔物を狩りたいから急がねば」


 そう話し、切り取りたい部位の位置を聞くと足の爪と頭の角が欲しいらしい。俺と彼女の二人はお互い離れ、それぞれの部位を切り取ろうと腰に差したナイフを取り出す。




 しかし、次の瞬間。


 空から魔物が翼を大きく広げながら降ってきた。


「ギャアギャアギャア!!」


「グ、グリフォン!?いつの間にッ!」


 上空からの急な魔物の襲来により、彼女が動きを硬直させてしまう。


 そして、目の前で固まった獲物の隙を見逃すわけもなく、グリフォンが足についた爪で彼女に襲い掛かる。


 俺は少し離れていたからか反応が遅れた。


 まずい。



「くそっ!」



 俺は魔物に走り出すがしかし、どう頑張っても彼女が切り裂かれてしまう方が早いだろう。



 シオンさんがギュッと瞳を強く閉じ、そして体にグリフォンの爪に貫かれようとする、


 その寸前。













黒断クリーブ


 俺は、そう口にした。


 


 


 


 


 


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