第23話 研究の理由
「
俺がそう口にすると、墨汁の様な黒い裂け目が魔物の頭上に出現する。
そして電子音が鳴った次の瞬間、地面に凄まじい衝撃と轟音を残し、奴の体を真っ二つに両断した。
「ガがガッ?」
グリフォンは彼女を攻撃しようとしていた牙を突然止める。そして自分の体に何が起こったかわからずに徐々に体が縦に分断されていき、最終的にそのまま絶命してしまった。
「黒断」は強い質量を刃物のように押し付け、相手を両断してしまう魔法だ。ちなみに、これは初歩的な重力魔法「
「ふぅ、危なかった。無事ですね」
「あ、ああ」
シオンさんは目の前で起きたことが唖然としながら尻もちをついている。
「立てますか?」
俺はそう言って彼女に手を伸ばす。
「す、すまない。少し腰が抜けてしまったようだ」
どうやら今の急な魔物の襲撃で腰を抜かしてしまったらしい。しかしながら俺も急な出来事に神経をすり減らされた。
俺は少し休もうかと思い、「じゃあ、しばらくゆっくりしましょうか」と言って彼女の横に座る。
「あれも君の特質魔法なのか?」
「ええ、まあそんな感じです」
そんな彼女は今俺が放った魔法の後を見る。そこには地面を深く斬ったような跡ができ、加えて衝撃によってその周りは陥没してしまっていた。
「凄まじい魔法の威力だな・・・」
「ですね、自分も目立つんであんまり使いたくない魔法です」
俺は苦笑しながら後ろ首に手を当てる。
「そうだな、確かにこれは目立つ」
そう言って、彼女はその場に寝っ転がる。それから深くため息をつき、青の瞳で空の遠くを見つめた。
「ありがとう、本当に助かった。・・・私はまだ研究の為に死ぬわけにはいかないんだ」
「研究ですか?」
研究というと確か・・・。
「ああ、前にも言っただろう?肉体と魂の研究さ」
「肉体と魂・・・、なんでそんな研究を?」
俺がそう言うと、彼女は表情をゆがめて苦しそうに口を開く。
「姉さんの足、見ただろう?」
「はい・・・」
フレイさんの両足がなかったことを思い出す。確か騎士団の任務でミスをしてしまい、なくなってしまったと言っていたが。
「姉さんの足は、4年前の騎士団の遠征で失ったんだ」
そう言って足を失った原因をシオンさんは話した。曰く、フレイさんは元冒険者であり、スカウトされてオルスト王国の騎士になったらしい。
そして4年前にあった魔物討伐を目的とした遠征時のことだ。突然魔物の集団に襲われフレイさんは仲間を逃がすために、自らがしんがりとしてその場に残った。
その際魔物に重傷を負わせられ、足を喰われてしまったのだ。加えて、心臓横にある魔核にも甚大な損傷を与えられ、魔力を放出できない後遺症も残した。
フレイさんは足も失い、魔法も発動できない体になってしまったのだ。
「バカだよ、本当に。仲間を逃がすために、そんな怪我まで負うなんて。しかも魔核を失ったことにより、回復魔法による欠損治癒も出来ない」
回復魔法による四肢の欠損治癒には、当人の魔核が完璧な状態でなければならない。出なければ、対抗できず体が持たないためだ。
「だから私は、姉さんの足を直すために肉体と魂の研究をしている。もう姉さんの足を生やすことはできない。だが、義足に肉体の魂を同調させることができれば、感覚もあって自由に動かせる足になるはずなんだ」
彼女はまるですがるような、そして苦しそうな表情を浮かべる。俺はそれを見て、「大丈夫ですよ」と声をかけた。
「シオンさんならできます。きっと」
人を大切にしようとする思いはきっと、色づく世界を作るのだから。
そんな昔言われた言葉を俺は思い出した。
「・・・ふふ、なぜか君に言われるとどこか安心するな」
そう言い、彼女は安心したように瞳をゆっくり閉じた。
そうしてしばらく休み、再びサイクロプスの解体をし始めた俺たちは、シオンさんの魔法で死体を燃やしてその場を後にした。
その後、森の中にある岩場に翼を休めているワイバーンを見つけた。
俺たちは茂みの陰に隠れて様子を伺う。
「いましたね」
「ああ、しかもどうやら休憩しているようだな。チャンスだが、今回は奴の瞳が欲しいから胴の方を攻撃して欲しい」
「了解です」
そう返事をして、先ほどと同様に彼女の魔法でまずは魔物の動揺を誘う。それから俺が勢いよく距離を詰め、奴の背中めがけてかかと蹴りを放つ。
「グえぇぇッ!?」
背中の骨が折れて立てなくなったのか、動きを止めて倒れる。よし、これでもう飛べないな。
「魔刃」
俺はサイクロプスの瞳を斬った時と同様に魔力で刃を形成し、後ろ首を二度斬りつけてからザクリと突き刺した。
ワイバーンは弱弱しい鳴き声を上げて、そのまま沈黙する。
「よし、やりました」
「・・・さすがの手際の良さだな」
そう言い彼女はワイバーンの顔に近づき目をえぐり始める。俺はその様子を見て、「ふぅ」と息をついていると突然、俺の魔力探知が不可解な気配をとらえた。
人・・・?
俺は先ほどのグリフォンの襲撃があってから、常に魔力探知で周辺を警戒していた。そんな中、こんな森の中に人の気配があることに気づく。
冒険者かもしれないが、俺の魔力探知に引っかかるかの絶妙な距離を保っている。ふむ、もしかしたらこちらを狙っている奴らか?そう思っていると急に気配が消えて、わからなくなってしまった。
「なんだ・・・?」
「うん?どうした?」
俺がそう疑問を口にすると彼女がこちらに振り向く。
「いえ、なんでも」
無駄に彼女を心配させるつもりはないため、とりあえず誤魔化す。もしかしたら、こちらが魔物と戦闘しているのを見て、様子を伺っていた冒険者とかかもしれない。
「よし、この感じだと昼過ぎぐらいには終わりそうだな」
「はい、最後にクロスウルフでしたよね?」
「ああ、多分近くにいるだろうからすぐに行こう」
そう言う彼女についていき、俺は違和感を残しつつもその場所から離れた。
無事に最後の魔物であるクロスウルフも倒し、俺と彼女は学園に帰還することになった。
「はあ、結構魔力を使ってしまったな。帰りは魔法で帰れないかもしれない・・・」
彼女は疲れた表情で息をつき、ぐるぐると肩を回した。
「じゃあ、俺の魔法で帰ります?」
「・・・君は他人に飛行系魔法を使うことができるのか?」
「ええ、まあ」
『質量喪失』と『自由引力』の二つだけどね。彼女が「じゃあ頼めるか?」と言うので俺は了承して魔法をかけた。
「おお、重さがなくなったような感じだ・・・」
「よし、じゃあ行きましょうか」
俺たちはそんな感じで魔法を使用し、魔物の森を後にしたのだった。
怪しげな視線を残して。
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